Lesson.14
「紗月、クリーム付いてたよ?…………………それで。今日一日様子がおかしかった
理由、聞かせて貰えるかな?」
紗月の頬についていたクリームを自らの指で取り、それを口に運ぶと先程迄の楽しそうな声音はどこへやら落ち着いた口調で尋ねる美咲。
返答に迷い、思わずいつも通りを装って答える。
「え?何のこと?そんなに今日のあたし何かヘン?」
語尾と口角を上げて。何が「いつも通り」なのか分からないけど、とにかくいつも通りを演じて。
でも、誰よりも一緒にいる美咲がそれが偽りだっていうことに気付かない訳がなかった。
「そういうところ、だよ。」
心配そうな、どこか痛そうな、不安そうな、今にも泣きだしてしまいそうな、そんな表情で。
「紗月さ、最近私に隠して何か色々やってるよね。別に幼なじみだからと言って、全部話せなんて言う訳はない、んだけど。
お洒落することに興味持ったのも、朝早く起きれるようになったのも、髪の毛とかメイクに気を配れるようになったのも。
…………………ごめん、嫌な思いさせるかもしれないんだけど、言ってもいい?」
何故か美咲の方が苦しそうな表情で紗月に尋ねる。何を言われるのかと恐ろしさもあったが、こんな状況になってしまったのは紗月のせいなのだから断れるわけが無かった。
「最初、そういうことをし始めたのは好きな男の子が出来たからだと思ったの。自分磨き、みたいなことなのかなって。
でも、それは違うよね?学校での様子は特に変わってないし、何なら私と一緒に居る時しか様子がおかしいことはない。………酷なこと聞いちゃうけどさ、紗月は私のこと、嫌い?」
一つ一つ選ぶようにして言葉を続ける。その様子は出来るだけ紗月を傷つけまいとしているようだった。
美咲はどれも勘違いをしている。何も言わずにしているんだから当然のこと。しかし、それを本人に告げるのにはやはり恥ずかしさがある。でも、そのせいで美咲との間に亀裂を入れることはしたくない。
「ううん。そんなわけないじゃん。嫌いなわけない。」
とっさに出てきた言葉は酷く拙く、伝えたい気持ちが一ミリも伝わらない。その悔しさに歯噛みする。
「じゃあ、なんで?何で私の前に居るときだけ様子がおかしいの?それに、身の回りのことを変え始めたの?」
黒目がちの大きな瞳は潤んでいて、今にも涙が零れ落ちそうになっている。どうして自分が美咲のことを泣かせてしまっているのかが見当もつかない。
「そ、れは………。」
また口も語ってしまう。早く否定して正しいことを言えばいいだけなのは分かっているけれど、『あなたの隣に居ても恥ずかしくないように』なんて改めて口に出すのはハードルが高すぎる。
「ごめんね、紗月のこと困らせちゃって。そんなつもりはなかったんだけど。」
気まずい沈黙が走り出しそうになる直前、美咲が先程迄の雰囲気を解いてそう口を開いた。
きっと彼女も『いつも通り』を装っているつもりで笑顔を浮かべているんだろうけど、それは痛々しく歪んでいる。
そんな表情をさせてしまったことが苦しくてたまらない。気付けば恥ずかしいとか気まずいとか、そういう感情を飛び越えて言葉が口から飛び出していた。
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