クラスで1番聞き上手な彼女との1年。

枯れ尾花


高校に入学して1週間。早くもクラスから沢山の笑い声が聞こえる。勿論その中心に、澤村颯太さわむら そうたは居ない。


いつも中心に居るのは姫野 ひめの りんさんだ。目鼻立ちがはっきりとしている顔立ちと手入れが行き届いているロングの髪の彼女は学年で1番可愛いと、入学したその日から既に話題になっていた。


姫野さんの周りがいつも盛り上がっているのは、おそらく場の盛り上げ方を知っているなどというものではなく、姫野さんの天性の才能なのだろう。このクラスで1番の話し上手と言ってもいい。


だが、入学してから1週間。友達も作ることが出来ず、他の生徒を観察するくらいしかやることがない俺は気づいてしまった。このクラス1の聞き上手の存在に。


彼女の名前は赤坂 奈緒あかさか なお


赤坂さんの相槌の打ち方、自分が喋る量、話の促し方、全て話している側の人間が気持ち良くなれるようになっていた。こちらはきっと才能ではなく、計算だろう。


こちらの髪の毛はショートで、姫野さんには及ばないが容姿も整っており、落ち着いていて誰もが話しやすいという点も相まってクラスではそこそこの人気が出ている。


今のところ赤坂さんの聞き上手は多分誰も気づいてないと思う。姫野さんの話し上手の影に上手く潜んでいる。まぁ本人は忍ぶつもりは全くないと思うが。


そんな事を考えているとあっという間に放課後になっていた。


俺は部活に入るつもりはないので、早く家に帰りたかったが、今は体験入部の勧誘の時期なので、早々に廊下出て声をかけられるのが面倒なので少し教室で時間を潰すことにした。


「じゃあねー奈緒!また明日!」


「うん。またね。部活頑張って。」


姫野さんと赤坂さんがの会話が聞こえてきた。姫野さんはもう何かしらの部活に入部したらしい。


そうして、姫野さん達のグループが出ていくと教室には俺と赤坂さんの2人だけになった。


「…ふぅ。」


赤坂さんが小さなため息をついた。


どうやら俺には気づいていないらしい。


「そういうのは、1人になってからの方がいいと思うけどな。」


「え、居たんだ!?」


「存在感のなさが取り柄なんだ。」


彼女はいつものように聞き手に回るのを諦めたようで、ラリーが始まった。


「澤村くんだよね?」


「そうだよ。覚えてくれたんだ。」


「自己紹介の時、クラスで1番短くて印象に残ってるよ」


確かに、他の人よりはほんの30秒ほど短かったのは覚えている。


せっかく2人になったので、あのことについて聞いてみる。


「やっぱり聞き手に徹するのは疲れるか?」


赤坂さんは別に驚く素振りも見せずに答える。


「結構ね~。でも、楽しいよ」


「ならいいけど。」


「よく気づいたね?」


「時間があったし、観察は割と得意なんだ。」


「友達少なそうだもんね~。」


赤坂さんは小さく笑う。


言い返そうと思ったが、赤坂さんが人の話を聞いている時よりもどこか楽しそうに見える事に気づいた。


なので俺はこう続けた。


「間違いないな。じゃあ、赤坂さんの真似をすれば友達増えるのかな?」


「え?」


「聞かせてよ。赤坂さんの入学してからの1週間の事。」


普段、聞き手に徹する彼女があまり言われることのないセリフだったのだろう。


しかし、すぐにいつもの表情で。いや、いつもより少し明るい表情で、


「いいよ。でも、少し長くなるかもよ?」


「いいよ。時間ならあるんだ。」


それから、赤坂さんは入学式に来る途中で見た可愛い子犬の事や、校長先生の話がやっぱり面白くなかった事とか、クラスに馴染めるか不安だったこと、


他にも沢山の話を聞かせてくれた。


やはり、聞き上手は話し上手で、話もかなり綺麗にまとまっていた。


そして最後にこう言った。


「今日の放課後に男の子に話しかけられてね。その男の子は私の事、真似してくる変な男の子なんだけどね。」


ツッコミたかったが、ここは聞き手という役割を全うすることにした。


「へ、変な男だね。それで?」


「変な男の子なんだけどね、その割に良いところもあったよ~。私は楽しかったな!」


「うん。俺もそう思うよ。」


そして2人で笑いあった。


外を見ると綺麗な桜が舞っていた。


楽しい1年になる予感がした。



















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クラスで1番聞き上手な彼女との1年。 枯れ尾花 @nonokajt

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