恋愛お届けします

@kinokogohan

第1話 恋愛お届け人に任命されました

20××年

現代日本において、少子高齢化は大きな問題だ。

出生率はかつての、2に迫った数字からは想像もつかないほど激減していた。現在、1.01。来年、再来年には1を下回るのではないかと、政治家が頭を悩ませる姿が連日テレビや新聞で見受けられた。


そんななか、今年も頭を悩ませた政府が新たに作り出した政策が、「恋愛デリバリー制度」である。

文字の通り、恋愛を配達するのである。

あれ?それでもよく分からないな。


出生率の低下は、誰もが恋愛をしなくなったから…恋愛というものがどんなに素敵なことか分からなくなったから…という少し幼稚な理由が、大真面目な国の討論で挙げられた。

そんなわけで、「じゃあ、恋愛させればいいのでは」という、小学生でも答えられそうな声が上がり、あっという間に制度として確立、そして施行されたのだ。直ぐに制度を作り上げるという行動力は、小学生と比べると、能力のある大人の政治家だなと思う。


そんな政治家たちによって作られた制度が「恋愛デリバリー制度」。

内容としては、男性または女性が、異性のお宅に訪問すれば、いつの間にか恋愛が発生し、恋仲に。そうすれば勝手に性行為に発展して出生率も上がるだろうということだ。そんな考えから作られた制度だが、議会では、案外スルスル可決されて施行に至ったらしい。


恋愛デリバリー制度について、もう一度確認するために、Webサイトで検索をかけ、トップのページを開いてみた。


恋愛デリバリー制度

15歳以上(高等学校以上)の男性、または女性を無作為に指名し、異性宅への訪問を強制し、恋を育んでもらおうとする制度。国から指名された男性、女性のことをお届け人と呼ぶ。

国からの無作為指名であり、強制されるため扱いは公務員と同じである。勤務時間はフレックス制が適用されており、異性の生活スタイルに合わせた訪問が求められている。


異性宅を訪問する回数に、上限はないが、最低限月1回は訪れなければならない。

また、月ごとに別の異性宅を訪れなければならない。これは、恋仲になれそうにない異性と長く関係を持っても無駄だと考えられているからである。

一方で、異性からの申し出があれば、1ヶ月以上同じ相手と関わりをもつことができる。


恋人ができれば、基本給が上がる。また、1年間活動を行っても恋人ができなかった場合、他の地方への異動となる。ただ、クビというわけではなく、その地方によって地域性なども異なるからという配慮のもとである。





そんな分かりやすい記述を読んで思ったことは、

…馬鹿なの?国のお偉いさんたち、一体どうしたの?


ただそんな制度ができたとニュースで知ったくらいでは…インターネットで調べてみたくらいでは…人はそんな感想を浮かべるくらいだろう。だが、俺はそんな感想を浮かべるだけで済まなくなった。


その理由はつい数時間前に遡る。


大学から帰宅すると、普段は何も投函されていないアパートのポストに、なぜか投函された封筒。それは手に持つだけですぐに分かるほど、分厚い封筒だった。そんなものが入っていたら気になるもので、不思議に思って開けてみたところ、中には長々と文章が書き綴られていた書類があった。そんな長ったらしい書類の中身を要約しよう。


俺をお届け人に任命した…だから、明日から女性宅へ行ってこい…そして、頑張って恋人を作ってくれ…ということだ。



いやいや!無理無理!

この現代社会で、いくらお金を貰おうと恋愛なんてする人いないから。

誰かと付き合ったり、結婚したりすることが素敵なことは、今から数十年前までだ。

それに、今は多くの有志によって、理想の恋人をバーチャル世界に作り出すことができる。恋愛をしたければ、自分の理想の外見、性格の2次元キャラクターとすれば事足りる。


昔、誰かが言った「結婚は人生の墓場」という言葉が、現代社会に生きる若者のバイブルとなっているのだ。それくらい、若者は恋をしない。…少し語弊があった。

先程も述べた通り、2次元キャラクターとは恋愛している若者が多い。数十年前によくオタクが謳っていた「オレの嫁」という概念が幅広く浸透したみたいだ。かつては、世間から白い目で見られていたオタク文化が市民権を得たようだ。



まぁ、そのキャラクターと結婚することはできないし、法律で2次元キャラクターとの結婚は認められていない。理由としては子どもを作ることができないから。何ともシンプルな理由だ。


ちなみに、恋愛に興味がない俺だが、2次元キャラクターには少し関心がある。

一応、数万円をかけてバーチャル世界に恋人を2人ほど作ってみた。

そうして学んだことが、やはり現実世界の女性よりも良いということだ。


顔の好き嫌い、性格の好き嫌い、相手のことを考える必要性、定期的な性行為、それらの条件を乗り越えてもなお、価値観の違いやらで喧嘩になるらしい。



…そりゃあ世の中の男女は2次元にランデブーするわ。




と、俺が現実を嘆いたところで、結果は変わらない。お届け人になってしまった以上は、女性宅を訪問するしかない。

別に、女性が嫌いというわけではないから苦ではない。そして、先程ぐだぐた御託を並べてみたものの、現実世界での恋愛というものに、少しばかり興味がある。


過去の先人達は、現実世界で恋愛をして結婚して…数十年前まではそれが当たり前だったのだ。遺伝子の突然変異があったわけでもない俺たちが、突然恋愛をしなくなるということは少しばかりおかしいのだ。


日本人は流されやすいというが、恐らくはそれも影響しているのではないかと思う。そんな中で、俺も少し流されて育ってしまったが、今でも現実世界で恋愛をしてみたいという感情が僅かばかりに残っていた。だから、俺は少し変わり者かもしれない。

そんな変わり者として、世間から浮いてしまうことを恐れていたがゆえに、今まで恋愛をしたことはないのだ。



もしかしたら、お届け人に任命されたことは、俺に現実世界での恋愛を促してくれている、所謂神のお告げ的なものではないか。


そう思いながら、明日どの女性宅を訪問するか、先程の分厚い書類に含まれていた、近辺の女性の住所が載った地図を眺めていた。


現実世界での恋愛は、いったいどんな感情を抱くことになるのだろうか。きっと知らないことばかりなのだろう。


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