あの時の薬草に贈り物を届けたいんですけど。

もと

あ、宛名は魔王様と薬草でお願いします。

「ただいま魔王様!」

「はい、おかえり薬草」


「ソウタから贈り物って本当ですか?!」

「ああ、本当だよ。人間の世界にはお歳暮と呼ばれる習慣があるらしい。それで俺達の世界にもわざわざ送って来てくれた」


「すごい!」

「自分のお小遣いで揃えたのでつまらない物ですが、と一筆添えてある。つまらなく無いだろうに、そう言わねばならない習慣らしい」


「変なの!」


 大広間の入り口から根っこをニョーンと伸ばす、教科書やノートが入ったリュックをオレの勉強机にポンと置く、またニョーンとして緑色のツヤツヤボディを魔王様の手のひらでモチッと受け止めてもらう。

 ヨジヨジと腕を伝ってその肩にポテリンと座ると、オレにほっぺたをくっ付けてくれる。


 ここまでの流れがただいまのご挨拶。ここから先がまた未知との出会いになるのか、今日もいい日だ。


 いつものテーブルの真ん中にドデンと置かれてる大きな茶色い箱、封印するみたいに貼られた白い紙には筆でお歳暮と書いてある。これでオセイボかな、難しい読み方だ。


「オレが帰るまで開けないで待っててくれたんですか?」

「薬草と俺宛てに届いているからね、二人で開けないとダメだろう?」


「魔王様大好き」

「俺も大好きだ」


 どれだけの手間をかけてオレ達の世界に送ってくれたんだろう。ソウタも大好きだ。


 根っこを伸ばして白い紙を丁寧にはがす、大事に横に置いて、茶色い箱を開……かない。なんだこれ、まだ何か茶色い物で封印されてる。

 とても厳重だ。きっとすっごく大切な物が入ってる。


 はじっこからベリベリと封印を解く。これも取っておこう、白い紙の横に並べて置く。


「これでソウタが入っていたら面白いが」

「入ってそうな大きさですよね」


「まあ軽いから違うだろうし」

「これは食べ物ですね」


「俺もそう思っていた」

「いっぱいありますね」


「赤いきつね」

「緑のたぬき……これは食べてもいいんですか?」


 魔王様が赤いのを持って上下左右を確認、小さな文字がミッチリ書いてある所を読んでる。

 肩からポテリンと箱の中に降りる、同じ物がいっぱいだ、下にもまだ沢山入ってるみたい。

 オレも緑色の方を根っこで持ってみると、軽い。振ってみる、中身がカタカタしてる、ガサガサも入ってる。


「キツネとタヌキを食べようと思った事は無いですけど美味しいんですか? これはソウタの世界の普通?」

「大丈夫だよ。キツネとタヌキは使っていない、普通のウドンとソバらしい」


「こんなに軽いのに?!」

「お湯を入れて五分、こっちは三分待てば食べられると」


「お湯! もらってきます!」

「いや薬草は危ない、ダメだ、何かあったら茹でられてしまう、火傷の危険もあるじゃないか、危ない事はダメ! ミーナに頼もう」


 魔王様がメイドのミーナさんを呼んでる、他の三人のメイドさんにも声をかけた。


 ふむ、と考える。

 お湯を入れて三分でも五分待っても、どっちにしろ熱くてオレは食べれない、草だから。だったらマシな方に、人間の食べ物だし薬草姿よりはこっちだろう。


 テーブルからクルリンポンと飛び降りて妖精姿に変わっておく。


 ちょうどローブを着てて良かった。せっかく新しい事に出会うんだから、正装みたいに真っ白いこのローブが一番似合うと思う。

 薄緑色の羽根をパタパタさせて魔王様の横へ。


 魔王様がメイドさん四人を総出で呼んだのは、オレの席に小さなお皿やお水を用意してもらったり、なんとか一緒に食べようと準備してもらう為だった。

 嬉しい、いっぱいフウフウすればいいだけなのに大袈裟で嬉しいな。

 

「うふふ、お湯入れましょう、お湯」

「はいはい、ちょっと離れて、危ないから、もう座っておきなさい」


「はい!」

「まったくもう可愛いな」


 ビリリッと思ったより大きな音、魔王様が緑色の蓋を開けてる、ビックリした、ちょっと飛んじゃった、チビッてはいない。

 小さな銀色の袋を取り出してピリッとそれも開ける、そこから謎の粉を入れて、謎の塊もある、謎だらけだ。


 赤い方の蓋に細い指がかかって構える、もうビックリしないぞ。

 と、思ったのに魔王様はゆっくりピリ、ピリ、ピリリと開けてくれてる。オレが無駄にビビってたのがバレてた、ニヤッと笑われてる。


 まだ開けてない物を箱から取り出して、横に書いてある説明を読みながらやってくれてる。

 確かに蓋を開けちゃうと説明読み辛い、こぼれちゃいそう。


 あ、こうすれば読めるじゃないか。テーブルにペタンとほっぺたを付ける。

 原材料名、栄養成分表、アレルギー? ……うん、嫌な予感がする。


「さて薬草、楽しそうに待っている所で申し訳ないのだが」

「……なんですか?」


 ローブの左ポケットから銀の懐中時計を出して確認。

 白いテーブルクロスから起き上がる、お湯が注がれていくのをパッタンパッタンしながら眺める。


「食べるのは麺を少しだけにしておこうか? ミーナ達がいつも用意してくれてる物と比べると、薬草が食べるには少し塩が強そうだ」

「……むう、やっぱり」


「その代わりなのか、これが入っていた。間違いなく薬草用だろう。ソウタなりに考えて選んだのではないか」

「あごだしおもちすうぷ……お餅スープ!」


「フフッ、餅は食べても問題ないだろう、フフフフ、薬草よ、あのね、フフッ、顎は出さなくて大丈夫だと思うよ?」

「あごだし?」


「フハハハッ、多分違う、そうじゃない、ハハハッ、どうしてそんなに愛らしいんだ!」

「ふむ」


 パッタン、パッタンと秒を刻むオレの羽根と足。魔王様は目が合う度にまだフフンと笑う。


 今の天の声、このゲームの持ち主のソウタは最高だ。

 他のゲームの中のみんなにも自慢して歩きたいぐらい、オレ達の世界をすごく大事にしてくれる神様みたいな天の声だ。

 次に電源が入ったら会いに行こう。お礼も言わなきゃ。なんでキツネとタヌキなのかも聞かなきゃ。


「魔王様! 三分です!」

「はいはい」


 銀のフォークでオレの小皿に一口分、トンと目の前に置いてくれた緑のたぬき。


 オレのより少し大きなお皿にも次々と麺とスープと天ぷらという塊を分けていく魔王様、その数は四皿。

 指先から黒いニョロニョロした触手の術を出して椅子をヒョイと四脚並べる。

 メイドさん達をニョローンと捕まえてきてテーブルに着かせると、取り分けた小皿を一斉にみんなの前に置いた。


「はい、召し上がれ」

「うふふふ、いただきます!」


 二、三秒で訳も分からず連れて来られてキョロキョロしてたメイドさん達も一緒に、強引に、いただきます。

 もうずっと、お湯を入れた時からすっごく良い匂いだったんだ。


 フウフウしてチマチマとフォークで食べる。これが天ぷら、欠片を乗せてくれたけど、食べて良かったのかなって不安になるぐらいスゴい。白くて赤い縁取りのもなんか面白い、モチモチ食べる。


「フフッ、薬草は分かりやすいな、良かったね」

「はい、美味しいです! あ、五分です!」


「はいはい」

「魔王様は?」


 食べているよ、と答えながら赤いきつねも同じように分けてくれてる。オレに小皿をくれて、メイドさん達にも分けた所で、黒いニョロニョロが剣みたいに尖った。


 赤いきつねの中から空中に浮かせた茶色くて四角い物がスパッと六等分された。一欠片ずつ配られていく。


「お揚げという物らしい」

「おあげ」


「まずは端を噛ってみて大丈夫そうなら、あ、待て!」

「美味しい! 甘い! ジワジワ! なんですかこれ?! お揚げか!」


「まったくもう、何かあったらどうするんだい? 初めての物は気を付けないと、少しずつ食べなさい」

「えへへ、ごめんなさい」


 色々と言われてしまう前に一口で食べた、後悔はしてない。根っこが詰まったらブンブン振れば出てくる、多分。

 それに食べちゃってからだけど、こんなに美味しいんだから大丈夫だと思う、多分。


 赤いきつねもフウフウしながら、口いっぱいにモチモチと食べる。食べながら横目でチラリ。

 やっぱりそうだ、魔王様の分が無いじゃないか。


「ん!」

「なんだい薬草?」


「ん!」

「おかわりは……フフ、もう、うん、はい」


 オレに分けてくれた赤いきつね、もう口に入れちゃってたから出す訳にもいかない。


 最後の一本、短いけどあげる。


 フォークにやっと挟まるぐらい短いのを、落とさないようにソーッと魔王様に近付ける。

 パクッと食べてくれた。

 ……なんだこれ恥ずかしいな、みんなで見ないようにしてくれてるの、それ余計に恥ずかしいよ。


「……うん」

「フフッ、薬草から誘っておいて照れるのか。美味しいね、ありがとう」


「……はい」

「大丈夫だよ。何故だか赤いきつねと緑のたぬきは沢山あるから気にしなくてもいい。薬草とミーナ達に食べさせておけば味を覚えて作って貰えるし」


「……おもち」

「ああ、いま食べるかい? 夜にでも」


「お餅は半分こです!」

「ハハッ、もう分かったよ可愛いな、一緒に食べるよ可愛いから、もう可愛いな何なんだ薬草は愛らしくて仕方ないな」


 せっかく人間の世界の食べ物があるんだ。魔王様と一緒に食べてみたいし、一緒に美味しいって言いたいし、一緒に可愛いって可愛い。


 ……カワイイって何だっけ、分からなくなっちゃった。まあいいや、ソウタのおかげで楽しい、幸せだ。


「魔王様! 夜はお餅で、明日はこれを食べましょう、豆腐すうぷ!」

「いいね。豚カレーは勇者にあげようか」


「僧侶にはこれ」

「山菜そばか。そうだね、好きそうだ」


「んん? たん?」

「たんたんめん、で良いと思うよ。これは魔法使いにあげよう」


「わあ、紺のきつねそば?! どういう事ですか?!」

「さあどういう事かな、お揚げが乗るとキツネが付くのかな? 今度ソウタに聞こうか」


「はい!」


 ……電源、早く入らないかな?


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「赤いきつね」「緑のたぬき」幸せしみるショートストーリーコンテスト

2021年12月5日08:44 最終更新

規定文字数800字以上4000字以下

・作中に「赤いきつね」もしくは「緑のたぬき」という文字を、1回以上使用していること。漢字以外のひらがな、カタカナでの使用も可とします。

・本応募要項公開時点において、東洋水産株式会社(以下「東洋水産」といいます)のWebサイトにて紹介されている商品については、作中にご使用いただけます。

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