人間が俺に石を投げてくる……辛い
まっくろえんぴつ
001 人間は俺のことが嫌いらしい
「魔王様、外に人間どもが集まってます」
側近のサキュバスのエリーがそう言った。
サキュバスはこの国の配下の中で直視できる数少ない種族だったりする。
美人で、艶やかな青い髪と尖がった耳、さらに小悪魔的尻尾が特徴だ。
その美貌に思わずそそられるが、絶対に手を出しちゃいけない気がする。
だってエリーはサキュバスなんだもん……。
そんな彼女は黒のえっちなドレスを身に纏っている。
ついでに魔王の側近ですといった雰囲気も身に纏っている。
「うむ、参るとするか……」
そして俺が、この城の主でもある魔王メイドウ・クナトだ!
ぶっちゃけると俺は転生者だ。
魔王の配下による魔人召喚でこの世界に呼ばれた。
正確には何やら手違いがあったらしくて魔人の代わりに俺が来た。
この世界では髪の色や瞳の色の濃さで魔力の量が決まるらしい。
俺の髪と目の色は真っ黒。
潜在魔力だけでも最強クラスだった。
さらに種族はこっちの世界へ来た時に人間から魔人になったみたい。
魔人っていうのは強靭な肉体を持ち、魔法の扱いに長けている種族だ。
召喚された俺は、なんやかんやあって魔王倒して魔王城を乗っ取った。
なんでも魔王倒した奴が次の魔王なんだって。
……そこは普通は勇者だろ。
で、この世界……魔王はめっちゃ嫌われてる。
魔族も嫌われてるし、魔物も嫌われてるけど、魔王それどころじゃない。
人間から見ればゴキブリ以下なんだって……。
最悪だよ……フフフ。
俺、元人間なのに……。
てことで、第1回魔国祭りを開いて人間を招待したわけ。
これで人間の好感度を爆上げする作戦だ。
世界各国に魔法で直接招待状を送りつけた。
美味しい食べ物と、面白いイベント企画してるので家族一緒に来てねって。
そしたらいっぱい来た。
いや、来過ぎじゃね?
お前ら家族どんだけいんだよ!
見たことのないくらい人が集まってるぞ!
「魔王様、いかが致しますか?」
部下のリザードマンエンペラーが問いかけてきた。
彼はリザードマンの最上位種らしくて護衛兵長してる。
喋るトカゲ気持ち悪い……絶対俺より気持ち悪い。
「せっかく集まってもらったんだ。ここは、俺自らが挨拶に赴こう」
俺の言葉に周囲の気持ち悪い奴らが沸き立つ。
あ、ちなみに俺が偉そうな口調なのは威厳出そうとしてるだけだから。
普段の俺は温厚で優しいんだよ。
「あのような低俗な輩に、魔王様自らが相手にする必要など……」
キモい山羊の骸骨頭のおっさんがなんか言ってくる。
「そのような考え方が彼我の間に溝を作っているのだ。まずは歩み寄らねば」
俺は周りの制止を振り切って魔王城バルコニーに立つ。
「よくぞ集まってくれました人間の皆さん。今日は催しを楽しんでくださいね」
俺がそう言うとすごい大歓声が巻き起こった。
これは好感触だ!
「本当に魔王が出てきたぞー!」
「降りて来いや、このクズ野郎がぁ!」
「ぶっ殺してやるから、さっさとこいやー!」
「テメーよくも面出せたなこらー!」
あれれー反応がおかしいぞー?
降りて来いっていうのは……招待しておいて上から喋るのはダメだったかな?
……ていう次元じゃない罵倒も聞こえるような?
「静まれ!」
おっ、なんか偉そうな奴が出てきた。
「わしは連合軍の主国グンジーンの大将軍タイショーと申す! 今回は貴様を殺す機会を与えてくれて感謝しておる! わしからは以上だ!」
はっ?
えっ?
祭りって言ったよね?
連合軍ってなにそれ?
祭りに来るのに必要なの?
「お前、英雄タイショーが声かけてるんだぞ! とっとと殺されにこいよ!」
「死んだ! もうお前死んだぞ!」
うわあ……。
これ完全に俺殺しに来てんじゃん。
「……えっと、あの、今日はお祭りでして。皆様にぜひ楽しんで頂こうかと」
今からでも軌道修正できないかな……。
俺はただ人間と仲良くしたいだけなんだけど……。
「へいへい、ビビってんじゃねーぞ!」
「お前をこの人数で殺れるかと思うと、そりゃさぞかし楽しかろーよ!」
「いいからとっとと降りてこいや!」
えぇ……。
どんだけ嫌われてんの俺。
というか今までの魔王、何してきたの?
「いや、だから純粋に楽しんで頂くために来てもらったわけで」
諦めたらそこで終わりだよね……。
ここは誠意ある説得を続けよう。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」
「このゴキブリ野郎が、早く潰されにこいや!」
「この童貞腐れインポ野郎!」
――ブチッ!
「童貞とか関係ないだろーが! 死ねやクズがぁ! ヘルファイアー!」
次の瞬間、巨大な爆発が起こる。
半径500mくらいの範囲にいた兵士が消滅した。
ちなみに俺は童貞じゃないぞ!
童貞じゃないぞ……。
「うわああああ!」
「やっぱり魔王だー!」
「無理無理無理無理!」
「おかーちゃーん!」
阿鼻叫喚だ……。
あまりの酷さに一瞬で冷静になる俺。
まさに地獄絵図……これ事故だよね?
あっ……レベルアップした。
1人の経験値が1だとしてもかなりの数が逝ってるなぁ……。
そして、蜘蛛の子を散らすように去っていく兵士たち。
「待て、お前らわしをおいて逃げるな!」
タイショーが慌ててそれを追いかける。
どうしてこうなった……。
「流石魔王様です。人間を油断させて集めて一網打尽にされるとは……」
うるさいよトカゲ野郎!
「うぅ……俺は人間と仲良くしたいだけなのに」
「だから言ったじゃないですか。人間は簡単には変わりませんよって」
俺は今エリーの膝に顔を埋めて泣いている。
「はあ……悲しかったのですね。お可哀想に……」
そんな俺の頭をエリーが優しく撫でてくれる。
サキュバスくらいしかまともな人型がいないこの城……辛い。
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