婚約破棄されたら人嫌いで有名な不老公爵に溺愛されました~元婚約者達は家から追放されたようです~
ことはゆう(元藤咲一弥)
第1話 婚約破棄されてから英雄様に見初められました
「今日を持ってお前とは婚約破棄だ!! お前の無表情が不気味で仕方なかったんだ!!」
「……はい、そうですか。分かりました」
「えっ」
社交場で婚約破棄を宣言する「元」婚約者に私はそう答えました。
あっけにとられる婚約者と隣の女性。
私と婚約破棄するという意味を理解して、ひそひそと元婚約者を馬鹿にする言葉を言う方々と、意味が分からず混乱している方々が半々。
「では、失礼いたします」
私は社交場にはもう用はないので後にした。
もともと好きな場所ではないし、これでいかなくていいのかとせいせいしました。
少しだけ、心がちくりと痛み、悲しくなりましたが。
屋敷に戻り、お父様のいる書斎へと向かう。
「お父様」
「ん? どうしたのだ私の可愛いエミリア?」
普段は生真面目だけども、家族だけの場所になると優しいお父様は穏やかな顔をして本を閉じて私の方を向いてくれた。
「まずは座りなさい」
椅子を用意してくれて、私を座らせてくれる。
「随分と早い帰りだね、何かあったのかい?」
「アレクシスに婚約破棄されました」
「……は?」
お父様は顎を落とさんばかり様子でした。
耳を疑うとはこういう事を言うのでしょう。
「……エミリア、もう一回言ってくれないかな? 今なんと?」
「婚約者であるアレクシス・クレストに婚約破棄されました」
「……そうか、エミリア。応接室で待っていなさい」
「はい、お父様」
私はお父様に従った。
ちらりと見たお父様の顔は、今まで見た事がない程怖い顔をしてました。
「どういう事だクリストファー!! 俺はそんな話を聞いていない!!」
応接室に呼び出された元婚約者の御父君、クリストファーおじ様は父の怒鳴り声を前に何度も頭を下げていました。
「すまない、私も先ほど聞いた!! 本当にすまない!!」
「お前が友人でなかったら俺は国王陛下に言って取り潰しを言ってたところだぞ!!」
「本当すまない、すまない!!」
本来、侯爵であるクリストファーおじ様が伯爵であるお父様に謝るなんてありえないのですが、お父様は私が生まれる前の大戦時の英雄の一人。
侯爵の爵位を貰うはずでしたが、お父様は「爵位はいいから困ったときに助けて欲しい」とだけ願って辞退しました。
実際は王宮での発言力を持ってをいますが。
つまり、お父様が陛下に進言すればクリストファー様のお家は爵位没収どころか罪人扱いすることだって可能なのです。
ですが、友人なのでそれはしないのがお父様の優しいところ。
「わかった、アレクシスは家から追い出す!! 二度と身内と扱わない!!」
「エミリア、相手は誰か分かるか?」
「はい。ベティ・ルネス様です。ルネス伯爵家の長女の」
「ほほぉ……よし分かった、相手の出方で私は対処を考えよう」
「……」
「エミリアちゃん、本当にすまない、私の馬鹿息子が……!!」
「ああ、そうだ!! 全くその通りだぞ!!」
お父様はどかっと椅子に腰を下ろして、息を吐きました。
「しかし、どうしたものか。その馬鹿をより惨めにさせるには……」
「それこそ陛下に相談したらいいと思う」
「分かった、そうするか」
お父様はそう言って立ち上がりました。
「エミリア、少し出かけてくる。お前は家で待っているのだぞ?」
「はい、お父様」
お父様はそう言って部屋を出ていかれました。
私は大人しく、自室に戻り、着替えて本を読みます。
アレクシスは好きでしたが、いつの間にか好きという感情は薄れました。
それでも、婚約破棄をされた時は悲しい気持ちが沸き上がりました。
きっと、お父様は、クレスト家には嫁入りさせないでしょう。
約束を違えたのは向こうなのですから。
そうなると、私はどうなるのでしょう?
お兄様は既に結婚されていますから、私は独身でも構いません。
義姉様はとてもお優しい方で、産まれた姪も可愛くてしかたありませんし。
でも、お父様は私を独身にさせてはくれないでしょう。
もし、婚約するのでしたらどんな御方でもいいからアレクシスのような方でないことを祈ります。
「――というのが今回の出来事です」
「なんともまぁ……」
王宮の謁見の間で、バージルとクリストファーは、この国の王アレクサンダー陛下にエミリアが婚約破棄された件を伝えた。
「となると、王族の誰かと婚約した方がいいかもしれんな」
「宜しいので?」
「構わぬ!! 英雄の娘を妻にできるなどと聞いたら――いや、それはそれで不味いか」
「――それなら、私はどうでしょうか。陛下」
そこへ白髪の長い髪に、紅玉より赤い目の、白皙の男――もう一人の英雄が入ってきた。
「アベル!! ちょ、ちょっと待て!! お前人嫌いで、今まで見合い全部拒否してたじゃないか!!」
国王は慌てる。
「兄上、何をそんなに慌てるのです。私は、親友の娘であるならば良いと思っているのですが?」
「で、でも年が離れ――」
「兄上、私のあだ名をお忘れか。不老公爵と」
まだ20程にしか見えない英雄ははっきりと述べた。
アベル・ガロウズ
強い魔力を持って生まれたが、王位継承権を早々に破棄し、魔術と武術を極めるのに幼き頃より没頭し、20歳であらゆる物を極めた天才。
そのことにより、不老長寿になった為、人々から不老公爵と呼ばれる――
「……アベル、お前……幼女趣味だったのか?」
バージルは少し警戒するように言った。
「阿呆、私はお前の娘だからいいと言っているのだ」
「……ならいい、陛下宜しいですか」
「う、うむ。双方がそれでよいなら。私が証人となろう」
謁見の間を後にした三人、バージルはアベルの腹部を軽く小突いた。
「いいか、いくら親友とは言え俺の娘を泣かせたら承知せんからな」
「わかっている、そしてクレスト侯爵殿。貴方の息子の処遇はきっちりとしていただきます」
「も、もちろんです」
翌朝、私はいつものように朝食を取り、侍女たちと新しい本について談笑していると、お父様がやってきました。
おとなりには――ガロウズ公爵様がおられました。
「お父様お帰りなさいませ。ガロウズ様ごきげんよう」
「ただいま、エミリア。帰ってきて早々だが、新しい婚約者を紹介しよう。アベル・ガロウズ公爵、この御方がお前の新しい婚約者だ」
「まぁ……」
純粋に驚きました。
ガロウズ様は不老公爵として、もう一人の英雄として有名ですが、それ以上に「人嫌い」として有名でした。
「私で宜しいのですか?」
そんな御方が私の次の婚約者というのは驚きです。
「私が申し出たのです、エミリア」
ガロウズ様は私の前に膝をついて、私の手をとり、手の甲にキスをしてくれました。
「あのような若造とは異なり、私は貴方を大切にすると誓いましょう」
だって、彼にはこんな事された事、ありませんから。
お父様の計らいで、アレクシスが家から追放するのは次の社交界の後になった。
ガロウズ様――アベル様が社交場に出て私との婚約発表をする為に。
そしてアレクシスが、家を追放されるのを発表する為に。
ついでに、ベティ嬢も。
可愛そうだとは思いますけど。
自分がしたこと、選んだこと。
親がどうしてそうしたのか全く考えなかったのが悪いのです。
可哀想なアレクシス。
自分の愚かさに気づいた時には何もかも失っているでしょう。
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