第25話 ~呟~

僕は野良だ


好きに歌う

好きに眠る


今日は川べりの駐車場にきた

日向ぼっこが気持ちいいし

歌うたいが来るかもしれないから


初めて会って 歌を聞いてから

僕はたまに駐車場にくるようになった

歌うたいはいつもいるわけじゃない

僕と同じで 気分で来るんだろう


何回かは偶然に会えて

演奏しながら歌ってくれた


ボンネットは申し訳ないから

車止めのブロックで丸くなり

ウトウトさせてもらう

とてもとても気持ちがいい


この瞬間が本当に好きなんだ



日光と木陰が混ざるブロックに座って

ぬくぬくと日向ぼっこをする

しばらくそのままでいたから

僕の毛はフワフワしてきた


少しして、駐車場の入口から車が入ってきた

見慣れた車の中には

いつもの眠そうな男の人


あ!来たー!こんにちは!


歌うたいは僕を轢かないように気をつけながら

ゆっくりと車を停め、エンジンを切った


あれ?おかしいな?


いつもはエンジンをつけたまま

少しずつ歌い始めるのに


そう思った矢先 歌うたいが

何かを持って車から降り

僕の方にきてしゃがんだ

持ってる手を差し出したと思ったら

カリカリを一掴み分

僕の前に出してくれた


うわぁ!うへへ・・・

うれしー!ありがとー!


食べ終わるのを待ってから

歌うたいは僕のあごの下を撫で始めた


とても暖かい手だ 気持ちがいい

歌うたい自身が優しいからだろう


ゴロゴロと喉を鳴らすと

いつもの眠そうな顔が

なんとなく笑顔になった

しかし すぐに表情が曇り

ポツリポツリと呟き出した


「ねぇ、猫さぁ」

「俺って弾き語り下手だよね」

んえ!?どこが!?上手すぎるよ!?


「俺より他に上手い人」

「もっともっといるしさ」

えええ!?嘘だぁ!!!


「でもさ、聴いてほしくてさ」

「猫相手に弾き語ってんの」

僕は楽しいよ?

すごく気持ちいいよ?


「なーんかなー」

「どうしたらいいんだろ」

え、すごく良いのに・・・

そのまま歌えばいいのに・・・


僕は応えるように鳴いた

言葉が通じないのは不便だ

すごく良いって伝えたいのに

鳴き声しか出ないんだ


歌うたいは急に撫でるのをやめ

ひょいっと楽器を出してきた

ブロックに座って

僕の隣でポロポロ弾いた

歌わないのかな


僕は 代わりに思い切り鳴いた

鳴き声は歌になんかならない

でも最大限に 音色に合うように

できるだけ長く鳴いた


「なに、おまえ」

「歌ってんの?」

そうだよー!


「・・・あははは」

なにがおかしいのー!


「ありがとう」

なにがさー!わかんないよー!


歌うたいはそのまま弾きながら

小さい声で歌い出した

聞いたことのある歌が

綺麗に暖かく広がる


・・・やっぱりすごいよ


歌うたいは1曲だけ歌って

今日は終わるようだ

僕は眠らないで

歌を聴くことにした


歌うたいはすごいんだよ

すごいんだよ


小さい声で僕は鳴いた


僕は黒猫だ


影に引っ込んで

幸運だけもっていければ

そう思っても難しくて

見てるしかないけど


少なくとも僕は

とても暖かい気持ちだよ

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