第21話 ~歌~
僕は野良だ
好きに眠る
好きに聴く
思ったより軽傷だった僕は
カフェにお世話になりつつも
飛び出すように
外に行くようになった
それでも少しはしんどい
僕はできるだけ
無理をしないように
休んだり眠ったり
休めるような草むらは涼しいけど
露が多くて濡れてしまう
寝るには気持ちが悪い
濡れない所を探して
いそいそと歩き回った
やがて 川べりには不似合いな
アスファルトの駐車場が見えた
1台だけ車が停まっている
中には誰もいない
ここで寝ようっと
日光と木陰が混ざって
とても気持ち良さそうだ
僕は車のボンネットで
寝ることにした
丸くなって目を瞑り
ウトウトした時だ
車のエンジンがかかり
僕は飛び起きてしまった
え!え!
誰かいたの!?
頭を上げて中を見ると
眠そうな顔をした男の人がいた
不思議そうな顔で
こっちを見ている
あ・・・寝てたんだ、ごめんね
今 退けるねー
降りようと背伸びした時
男の人が小さい楽器を出し
タバコを吸いながら
ポロポロと弾き始めた
なんだろこれ
ギターより小さい・・・
男の人はフロントガラス越しに
チラッとこっちを見ると
ゆっくりと歌い出す
歌声と演奏が
透き通るように
聞こえてくる
すごい・・・上手だなぁ・・・
優しかったり力強かったり
歌がくるくると踊る
聞こえる演奏が
柔らかく響いて
あたりに広がるようだ
この人 歌うたいなんだぁ
退けないと・・・
でも・・・いいやー・・・
きもちいいしー・・・
演奏と歌声
日光と木陰
無防備にウトウトして
少し経った時
「ところで」
「君は何してるの?」
いつの間にか歌を止めて
外に出ていた歌うたいが
タバコを吸いながら
こっちを見て立っていた
ぬあ!?気持ちよくてね!?
あれ!?僕、寝ちゃってたかな!?
話しかけられて飛び起き
僕は言い訳する様に鳴いた
「何か言ってるな・・・」
「いや、いいんだよ?」
「でも俺帰るから」
「降りてくれるかい?」
僕は歌うたいに抱き上げられて
車止めのブロックに降ろされた
「またね」
それだけ言うと
歌うたいは車に戻って
走り出してしまった
・・・またね?
ん?またね?
いつも居るのかな
歌うのかな
また聴きたいなぁ
またねー!
もう居ない車に向かって
僕はひと鳴きした
僕は黒猫だ
いつもは影にいる
その方が落ち着くから
光の下は
僕には似合わないけど
たまにはいいかな
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