「み、皆さん、早く隠れましょう!!」


 例の中学生が叫んで部屋から走り去る。そして我に帰った瞬間から、それぞれが思い思いに走って出て行った。


「シーカ、行こう!!」

「····みぃーつー」


 ヨハンに手を引かれて私も走る。


 こんな時でも女性に気を使って走る速度を合わせてくれている。中身が乙女でも、さすがジェントル! なんて場違いだけど感心してしまう。


 人間恐怖が突き抜けると、むしろ冷静になるって本当かもしれない。


 走りながら、私は窓の外を見る。月と星の位置を確認する為に。


 今日は満月。元いたあの場所にいたのは十三人。黒板や日本の学生が使いそうな机や椅子。きっと廃校だと思う。


 そこに私達は、どうやってかわからないけど集められた。


 状況を整理し、夢を見て思い出した母との記憶と照らし合わせている間も、ヨハンの先導で階段を降りる。


 出られるのなら、とにかく外へ出たい。ヨハンも同じ気持ちだったんでしょうね。


 だけどいざ出ようとすれば、シャッターが開かない! 、間違いなくこの廃校に閉じ込められている!


「くそ!」


 苛立った、違うわね。閉じ込められて余裕を無くしたヨハンは、かなりパニックを起こしてる。長い足でシャッターを蹴りつけた。


 出会って初めてよ。ヨハンの荒っぽい部分を垣間見たのなんて。中身は乙女なのに、なんてついそんな感想を心の中で呟いてしまったわ。内緒にしておこう。


「あー……ごめん」


 我に返ったらしいヨハンは、自由な右手で顔を覆って大きく息を吐いた。左手は私とずっと手を繋いでて、小さく震えてる。


 でも震えてるのはヨハンか、私か、私達二人共なのか。


 もちろん私だって怖いけど、それでもヨハンより落ち着いていられてるんだろうな。この飾りと、夢を見たお陰ね。


「行こう」


 少し冷静になったヨハンが進むまま、鍵の掛かっていない近くの図工室と書かれた部屋に入ってみたの。


 私はもう一度、窓越しに月と星の位置を確かめて、確信した。これはあの日の母が教えてくれた【かくしおに】だ。


 タイミング良く、あの時の事を夢で見るだなんて。


 不思議な力を持っていた母。まるで私が難病を克服するのと引き換えにしたかのようなタイミングで、命を散らせた母。他殺だった。犯人は未だに見つかっていない。


 母は亡くなった今でも私を守ってくれているんだと、そう確信する。


 だってこのベルトの飾りは、母が私に遺してくれたお守りだもの。


「シーカ」

「ええ、奥にも部屋がある」


 とにかく隠れなければ。


 強迫観念に突き動かされるようにして、隠れられる場所を探して歩を進める。外に出るシャッターやドア以外は、鍵が掛かっていないみたい。奥の部屋のドアも鍵は開いていた。確か日本の学校だと、美術の先生なんかが控えてる部屋じゃなかったかな?


 ヨハンも私も息を殺して怖々、中を見渡す。一番奥に大きな用具入れが置いてあった。


「開けるね」


 繋いだ手をギュッと握り合ってから、ヨハンが空いた手で、ゆっくりと開けてみる。もしも中から何か飛び出したら、私がヨハンの手を引っ張って躱さなきゃ。


 でも中は空だった。


 私達ほ目と目で会話し、一緒に用具入れを動かして、人が一人入れるスペースを作る。


「シーカはここに隠れて。僕が机とか布でわからなくしておくから。僕は他に隠れられそうな場所を……」

「待って、ヨハン。ちょっと話を聞いて欲しいの」


 こんな時でもジェントルか。中身が乙女だと知ってても、吊り橋効果で惚れそう。


 なんて乙女心を触発されながらヨハンの言葉を遮った。

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