第59話 武道大会(2)

ケープを出発してオルバル帝国に向かう日が来た。


先頭の馬車には”夜明けの光”の男女2名づつ4名のパーティー、次にガードマンが御者を務める武道大会に出るSランク冒険者のビズモンドの乗って居る馬車。


殿を務めるのはハヤト達”熱き絆”のパーティー4名と銀龍の『万能乗用車』。


キラービー3匹は先頭馬車の50メートル程先を飛び回って警戒して進む。


ケントギルドマスターとキャロルが見送りに出て、


「それじゃ、ビズモンド頑張って来てくれ!警護の”夜明けの光”と”熱き絆”、ビズモンドを宜しく頼んだぞ!」と声を掛けて見送ってくれた。


初日はヌーベル迄順調に魔物にも出くわさずギルドの予約した宿に着く。


ヌーベルはハヤト達が『魔動鉄道車』を敷設してから出来た新しい街だが既に人口も10万人以上に増え都市として活気を呈して居る。


本当はケープから『魔動鉄道車』で王都ジュネべ迄1日で行く案もケント達と考えたが、1日で王都迄急いで行かなくてものんびり2日間掛けて行くことをビズモンドが希望したためケープから馬車移動になった。


ヌーベルの高級宿の2階にビズモンドの1室、隣がハヤト夫婦、隣に2部屋”夜明けの光”の男女2名づつの割り振りでおさえていた。


”夜明けの光”の魔法師キャメロンが「ドリスさん達は宿に止まらないのですか?」と聞いて来た。


「ドリス達は”魔動車”の中が【次元空間】魔法で広いので馬車と”魔動車”の番をして寝ます」


「寝ずに見張るのですか?」


「いや、3人で交代でやるので大丈夫ですよ」(本当は結界を張って3台とも守るので問題ないのだが!)と適当に答えておく。


「食事は其々自由な時に食事しておいてください、明日は王都に9時出発でお願いします」とハヤトがビズモンドと”夜明けの光”のメンバーに伝えた。


ハヤトとセリーヌはシャワーを浴びて、時間も有るのでお茶を飲んで時間を潰し、少し早めに階下に降りて夕食をとった。


時間も早かったので、ビズモンド氏や”夜明けの光”の連中達は誰もおらず二人でのんびりと夕食をとった。


「セリーヌ、ビズモンドさんはどの程度まで勝ち進むと思う?」


「オルバル帝国でも一番高位のランクがビズモンドさんと同じSランクでアドルフさんという方がいらっしゃるので二人が決勝迄勝ち残るのではないでしょうか?

他に知られていない強力な人がいればかわかりませんが・・・」


「オルバル帝国にはSSクラスはいないの?」


「ええ、確かいないはずですわ」


「旦那様が恐らくただ一人この世界でSSSクラス以上だと思います」


「そういうセリーヌもSSクラスになって居るじゃない」


「私は旦那様にくっついておこぼれのSSクラスですわ」


「でも、二人で踏破したダンジョンの宝箱で得たマジックアイテムを使うセリーヌは既に無敵だよ」


「アイテムを使わずとも無敵の旦那様から言われても・・・」(笑)とニコニコ答えるセリーヌだった。


二人が夕食を終えて2階の部屋に上がってしばらくすると”夜明けの光”の4人が街の散策から帰って来て夕食のテーブルに着いた。


そこに武道大会参加者のビズモンドも降りて来て同じテーブルで5人が夕食をすることになった。


「ビズモンドさん、応援してますので頑張ってくださいね!」とリーダーのケインズが尊敬の眼差しでいう。


「おお、ありがとう。頑張るよ!」


「でも、流石Sクラスになると警備が何人もつくのですね」と盾役のボビーが少し怪訝そうに話をしてくる。


「そうか、君たちは詳しい話はギルドから聞かされていないのだね?実は今回のオルバル帝国の武道大会は有る目的のために意図的に仕組まれた試合なんだよ、その目的とはブルネリア王国の高位ランクの冒険者を拉致するのが目的で帝国が開く大会なんだ。だから私を狙う連中が必ず帝国に行けば現れるので君たちが警護で来てくれた訳だ」


「そんな事が起こり得るのですか?」リーダーのケインズが聞く。


「確実ではないがほぼ予想されて居るのでギルドが心配して君たちとハヤト君たちをつけてくれた訳だ」


「それじゃ、我々が身を呈して頑張ってお守りいたします」とケインズ。


「でも無理するなよ。自分である程度は対応できるので心配はそれほどしていないから」とビズモンド。


そんな会話をしながら夕食を済ませ、夫々が各自の部屋に戻った頃ハヤトは独りベッドの上で坐禅を組んで魔力の出し入れの訓練をしている。


最近は坐禅を組んで瞑想しながら、昔叔父さんに教わった般若心経を唱えながら魔力の流れを意識する様にしている。


般若心経を諳んじて言える様になったのはハヤトが小学校高学年になった頃で意味も分からないで気持が揺れ動く時に良く口ずさむと何故か自然に気持が落ち着くので中学生になる頃には意味も理解して、良く口ずさんでいた。


「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・・」


不思議と魔力も増え自在に使えるようになりこの異世界に転生後は良く朝練で瞑想しながら般若心経を唱えるのが日課になっていた。


もっともハヤトが仏教信者という訳ではなく単に口ずさむと心が落ち着くと言う理由だけだが!


今や一番魔力消費が大きい【イレージング】や【転移】魔法を使ってもハヤトにとっては魔力を消費したという感覚は全く無かった。


傍ではセリーヌが身体に【シールド】を瞬時に掛けては解除を繰り返し、魔法起動速度の瞬発力を上げる練習に勤しんでいる。


ハヤトは瞑想を解き次に『白兎』に魔力をはわせ、炎や水を刀身に纏わす訓練を始めた。


「旦那様『白兎』は魔剣でも無いのに炎や水を纏う事が出来るのですね?」


「そうなんだよ、前に『白兎』からの意思が僕の脳に直接入って来てから魔剣と同様の力、いやそれ以上の力を得てるみたい。恐らく僕の成長と共に『白兎』も成長しているようだよ」


ハヤトとセリーヌは夫々の訓練を終え、ケーキとお茶を飲みながら明日からの王都での1日の動きに思いを馳せていた。





その頃夕食を終えた"夜明けの光"の連中は男性陣の部屋に集合して明日以降の動きを確認し合っていた。


リーダーのケインズはSランクのビズモンドにもしかしたら手合わせして貰えるかもしれないと心踊らせてウキウキしている。


「でもさ、何でギルド職員の人が5人も一緒について来る訳?足手まといなだけじゃない?」と魔法師のキャメロンがグダグダと不満を述べる。


「しかもケープの冒険者ギルド職員にあんな夫婦と執事みたいな人達って居たかしら?」とミルズが口を開いた。


ボビーが「でもあのエルフの奥さんは確か"滅亡の弓"の二つ名の持ち主のセリーヌさんだよ!確かソロでAランクで今は結婚してSランク以上になってる筈だぜ」


「嘘だろ?ビズモンドさんと同レベルの冒険者か?」とケインズが叫ぶ。


「いやー、違う人かな・・・」ボビーが自信無さげに呟く。


「それなら"熱き絆"が武道大会に出てもいいじゃない?多分ボビーが言う人達とは違う人達よ!」とミルズが言ってこの話は終わった。


「何れにしてもビズモンドさんのお陰で我々も明日王様に謁見する機会を得たのだから気を引き締めて今回のクエストを達成しような!」


「「「おぉー!」」」


皆で盛り上がってお開きになった。


翌朝朝食を終えて、定刻の9時に王都に向かって出発した。


ハヤトは午後には王都に着いて王様との謁見を済ませたいので"夜明けの光"のパーティーに気持スピードアップをお願いして進んで行く。


途中のグランデで昼食を取り、1時間の休憩ですぐに王都ジュネべに向かった。


ここまでは順調に来ていたが、ボースの街を過ぎて王都迄7キロ程手前迄来た所で、ファングボアの群に出くわしてしまった。


その数は10頭程!


ハヤトはすぐに、先頭の"夜明けの光"にビズモンドの馬車を護る様に頼んで、『万能乗用車』を先頭に出して、ドリスとアレンに対応を頼んだ。


ドリスとアレンは剣とレーザービームで5匹ずつあっという間に討伐してハヤトが【次元収納ボックス】に入れ、再び王都へと向かう。


その間ほんの10分程度!


流石のBクラスの"夜明けの光"の連中はハヤトのメイドと執事の強さに度肝を抜かれ、信じられない光景をただ唖然として眺めているだけだった。


その後は何事もなく王都に着き、王宮にそのまま向かって行き、門にいる騎士達にビズモンド氏とハヤト一行が来た旨王様に伝えて貰う。


王宮の執事長が迎えに来て、謁見をする大広間に通された。


ビズモンドさんもハヤト達も慣れているが、"夜明けの光"の冒険者パーティーは王宮に入るのも王様に謁見するのも初めてで、ガチガチに緊張しまくっている。


「王様のおなりー」


の声にビズモンドさんとハヤト達が膝を折って王様を迎えるのを見て、慌てて"夜明けの光"のメンバー達もハヤト達の真似をして王様を迎えた。


「ビズモンド、ハヤト君楽にしてくれ!後ろの冒険者の人達も楽にして後に有る椅子に先ずは座ってくれ」


「王様、ビズモンドさん始め皆が朝出た宿から急いで直行したものですから恰好がこの様にお見苦しい恰好ですがお許しください」とハヤトが口を開いた。


「何の何の、そんな事気にせんで良い!ビズモンドこの度は国の一大事をお主に託し誠にあいすまぬ」


「いやー、久し振りに他国の高ランクの連中と手合せ出来る機会を与えて貰ったので楽しんで来ますよ」


「そう言って貰えると儂も本の少し気が楽になる。大会の帰りに再度寄って帝国の情報でも教えてくれ」


「はい、その辺も含めて色々探って参ります」とビズモンドが応えた。


「ところでハヤト君、此度はあくまで黒子に徹して間違っても目立たぬように頼むぞ。出来たら観戦して後の事はドリスとアレン達に任せる感じで頼んだぞ」


「はい、良く分かって居ります」


「今日はビズモンドの壮行会を兼ねて晩餐会をし、宿をハヤト君キャンセルして城に全員泊まって行ってくれ」


「ブレンディー、彼らの部屋の手配を頼む」と王様は宰相のブレンディーに頼んだ。


執事長は直ぐに厨房に向かい、晩餐会を兼ねた壮行会の準備をし出す。


暫く王様とビズモンドさんや王女のエミリー達と談笑していると、宰相殿が部屋の準備が整った旨述べて、ビズモンドさん以下、"夜明けの光"達とハヤト達はお城の割当てられた部屋へと案内された。


ビズモンドさんはリビング付きの大きな一部屋、ハヤト達はドアで繋がった二部屋、"夜明けの光"も二部屋あてがわれ、夫々風呂とトイレ付きだ。


ハヤトとセリーヌは先ずお風呂に入って、パーティー用の洋服とまでは行かないが、持参した中では一番王族に失礼のない礼服に着替えた。


セリーヌは流石エルフ国の王女だけある。


ハヤトが惚れ直す程の美しさだ!


ドリスとアレンにガードマン達も礼服に変化させてドレスアップしている。


夕刻になり各部屋に侍女達がやって来て、晩餐会場に皆を案内する。


ビズモンドさんや"夜明けの光"の連中も皆礼服に着替えて来ていた。


恐らく謁見があると聞かされていたので皆さん一応用意はして来たみたいだ。


大広間には王様、王妃様、王子様、王女様それに筆頭公爵様の御家族、王家騎士団長と公爵家騎士団長、宰相御家族が一堂にかいしている。


王様のビズモンドさんへの武道大会への武運を願い激励する言葉を皮切りに盛大な壮行会が始まった。


始まると直ぐに王女のエミリーと公爵様の娘さんのクラウディアがハヤト達の所に飛んできてベッタリくっついて離れない。


ビズモンドさんの所では王様や王子様と公爵様がなにやら笑いながら楽しそうに会談している。


"夜明けの光"の4人の冒険者の所に王家の騎士団長ハロルドが来て「この度はビズモンド殿の警護、大変だが君達の力を頼りにしているからな!頼むぞ!」と言ってくれてリーダーのケインズは感激してガチガチに固まっている。


魔法師のキャメロンが騎士団長のハロルドに「ギルド職員のハヤトさんと奥様達はハロルドさんもご存知の方達ですか?メイドの人といい、執事の人といい私達より数倍もランクが上の戦い型で魔物を討伐していたのですが!」


「ああ、君達はケントさんから詳しい事情を知らされていないのだね?それじゃ僕も詳しくは言えないが、ビズモンド氏とハヤト君の騎士との模擬戦を見て勉強すると良いよ。ハヤトご夫妻はあの従者達3人よりは遥かに強い人達だよ」


「君らもあの二人を見て強さを感じ無いのならもう少しランクを上げる様に頑張りなさい!」


「あのー、あの人達のランクはAランク以上ですか?」とケインズが聞くと、


「奥方の方だけでもSSランクだよ」とハロルド騎士団長が笑いながら教えてくれた。


それを聞いた4人は今一度しげしげとハヤト夫婦を見つめるのだった。

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