第21話 ケープに土地を買う

王都迄の公爵様の護衛依頼を達成し、ケープに帰って来た二人はこの地に家を購入しようと決めた。


二人は朝食を久しぶりにのんびりと食べ、9時過ぎに不動産を扱う商業ギルドに向かった。


商業ギルドは冒険者ギルドのはす向かいに有る。


1階が受付になっており、2階が商談をするフロアー、3階が職員達の部屋だ。


1階で受付をして2階に上がった。


「土地をお探しとか?どの程度の広さをお考えですか?」と、職員が聞いてくる。


「そうですね、魔法の訓練等もしたいので1000坪程度あればいいのですが、それと冒険者ギルドからそれ程離れていない距離が良いです」とハヤトが応える。


「ちょっとお待ちくださ、物件をピックアップして来ます」


そう言って係官は5分ほど席を外し、戻って来た。


「4件程お好みの土地が見つかりました。今からでも見に行けますが如何致しますか?」


「是非お願いします」とハヤト。


「それでは1階のフロアーでお待ちくださ」


セリーヌと待って居ると直ぐに係官が降りてきて最初の物件に向かった。


最初の物件はギルドから2、3分で近いが両隣が商売をしている店で煩わしいのでパスし、次の物件に向かった。


次の物件は"せせらぎ亭"のすぐそばで図書館の隣の隣1軒中に入った場所で広さが1200坪の所だ。


ちょっと広いが場所的には申し分無く、セリーヌを見るとニコニコして頷くので値段を聞いてみた。


「ここは少々お高くて白金1枚と金貨20枚になります。あと手続きとして登記、商業ギルドの手数料、それに納税を入れて全部で白金1枚金貨22枚銀貨5枚ですが・・・」


「それじゃここを購入させて頂きます」とハヤト。


「他の物件は見ないでよろしいですか?」と係官が聞いてくる。


「ここがとても気に入ったので決めましたから他は結構です」


「わかりました。それでは商業ギルドの2階のフロアーでお待ちください、書類関係を持って伺います」


三人は商業ギルドに戻り、ハヤトとセリーヌは2階で係官を待った。


10分ほどで書類関係を持って係官が来て手続きを終え、ハヤトのカードで全てを払い、晴れて二人の土地になった。


「旦那様、家はどうされますか?」


「何とか数日掛けて作るよ。図面起こしに2日ほど最低でもかかるのと電気、ガス、水道、下水処理のシステム構築をどうするか、工夫しないといけないな」


「旦那様、電気とかガスとかわからない言葉ですがとりあえずはお任せします」


「早速家の設計に取り掛かるから一旦宿に戻りませんか?」そう言って二人は宿に戻り、部屋に上がった。


ハヤトは魔法の実験をしたり研究をする頑丈な構造の地下室を作り、1階にキッチンとリビング、トイレ、お風呂場を作り2階にセリーヌとハヤトの夫婦の部屋とゲストルームを3部屋にトイレ、お風呂場を考えてセリーヌの意見を聞いて見た。


セリーヌは「夫婦の部屋を少し大き目にして客室は2部屋でいいのでは?」と言うのでその様に変更した。


地下室は競技場的な魔法訓練場と研究室、1階にガスレンジ3個口と冷蔵庫、電子レンジ、【次元収納ボックス】とシンク台にはお湯と水が出る蛇口とカウンター、

カウンターの隣に10人程座って食事が取れる食卓、その隣に6人掛け椅子をL字

型に配置したリビングが20畳程の広さで、脇にはトイレとお風呂を設けた。


ここまでを図面化したら、お昼になったのでセリーヌと二人で定食屋ダニーの店に

入って、いつもの定食を頼んだ。


「旦那様、設計図とやらはうまく進んでいますか?」


「うん、建物そのものは割と簡単だけどそれに伴うインフラの設計が難しいかな?」


「何ですか?インフラって・・・」


「簡単に言えば、水道とか明かりをつけたり、火を使って料理したりとか」


「魔法や魔石でやればそれ程難しくは無いのでは?」とセリーヌが聞いてくる。


「う〜ん、そうなんだけど魔石で明かりをつけたりするのは個別に魔石を沢山使う事になるでしょ?僕のいた世界ではそれを違った力でもっと効率的に作り出してい

たんだよ。火も料理するだけでなく蛇口からお湯が出るようにしたり、お風呂をたいたり・・・」


「よくわからないですが、旦那様なら間違いなくできるから安心してますわ!」とセリーヌは屈託のない笑顔をハヤトに見せる。


食後のお茶を済ませてカツヤは又設計に没頭し始め、セリーヌはその間街に出て買い物をしてくるといい、宿を出た。


先ず問題はこの異世界には存在しない電気とガス、それと下水処理システムをどうするかという問題だとハヤトは悩んでいる。


最初に地球にハヤトがいた時の事を思い出しながら、天然ガスの中に含まれる水素と空気中の酸素を化学反応で発電させて、発電時の排熱を使って給湯、暖房を行うシステムを構築する。


それを補充すべく太陽光パネルでの発電も構築する。


いわゆるハヤトがいた日本という国で言われている”エネファーム”をこの異世界で作ろうとハヤトは考えた。


床暖房も排熱を使って温め、効率よく運用する。


エネファームでは電力量が700W程度で実際には2KW程欲しい。


それを補うために太陽光発電システムも取り入れる。


太陽光パネルは幸い『マジックアイテム創造ボール』で創りだせるので、それと蓄電池との併用で賄う。


太陽光パネルでの発電システムの構造的な作り方は『賢者の本』に助けてもらう。


天然ガスを作り出す装置を『マジックアイテム創造ボール』で生み出して、なんとか二酸化炭素を排出させずに電気を作り出すことができた。


幸い無限に天然ガスを生み出すマジックアイテムを作り出したので、これで火の問題と電気の問題は解決できた。


水は街の水を使用するので飲み水と料理に使う水は『マジックアイテム創造ボール』で給水機を作り出して台所に取り付けるように図面で落とし込んだ。


自家発電用の装置と天然ガス無限発生装置、蓄電池をキッチンの外に強固な二重構造にして図面に落とし込んだ。


下水処理に関しては排水関係を庭の片隅にプールを創り、堰を作って、そこに何でも食べてしまうスライムを20匹ほど飼いならし、排水を処理して貰い綺麗な水にして、再び家の水に循環させるシステムを作った。


スライムだけでは少々物足りないため、『マジックアイテム創造ボール』でイオン樹脂フィルターを作り出してその樹脂フィルターで最後はろ過して真水にして使う。


一応これで家のインフラの電気、ガス、水道、下水処理システムは完成だ。


建物とインフラの設計図を1日目に図面化し終えた頃、セリーヌも買い物を終えて宿に戻って来た。


「旦那様、図面化は終わりましたか?」


「うん、何とかインフラの設計図も組み込んで図面に落とし込むことができたよ!」


「私の方は、野菜とお肉に卵とご主人様の洋服と私の洋服数着を購入して来ました。明日家が出来上がったら整理して入れますわ」


「夕食を下に降りて食べようか?」とハヤトが言って、手を繋いで降りていった。


夕食は”イエロウテイル”という魚で地球でいうブリそっくりの魚料理だ。


まさにブリの大根煮といった料理が出てきてとても美味しく頂いた。


翌日朝食を食べて、ハヤトはセリーヌと購入した土地に赴き、庭の端に小さなプールを深さを変て3個ほど作った。


それぞれを繋げて堰を作り家を建てる位置まで昨夜作り込んでいた塩ビ管を埋め込んだ。


地下室が入る広さの空間を土の精霊ノームの力であっという間に作り込みそこに『マジックアイテム創造ボール』で図面を見つめながら魔力を注ぎ込み作り出した2階建

のコンクリート家屋をすっぽりと入れ込んだ。


セリーヌは今更ながらと、思いつつも出来上がった家を見て呆れ返っている。


「セリーヌ、チェックを含めて地下室の訓練場、研究室兼工房室から順番に上に上がって見ていこうよ」


ハヤトはセリーヌとまずは階段を降りて地下の訓練場と研究室を見た。


地下にもお風呂とトイレは勿論ついている。


競技が出来るほどの広さに訓練場は電気も明るくLEDライトで照らされている。


研究所は8畳程の広さで機能的に出来ていてハヤトは満足だった。


エレベーターを設置して1階、2階、屋上まで上がれる。


セリーヌが恐る恐るボタンを押して1階にあがった。


キッチンには大型の冷蔵庫が設置されて、電子オーブンレンジ、【次元収納室】と自動食器洗浄機、浄水器から蛇口がついている。


【次元収納室】は扉方式でハヤトとセリーヌしか開けられない扉だ。


電子オーブンレンジにスイッチを入れたら電源ランプがしっかりついた。


蛇口を左にひねるとお湯がすぐ出て来て右に回すと水が出る。


天井にあるLEDライトが眩しいほど明るい。


リビングの方の照明も非常に明るく問題ない。


トイレとお風呂場を点検する。


便座に座って、洗浄のお湯と水が出るのを確認した。


お風呂場のシャワーとバスタブにお湯、水がちゃんと出るのかも確認した。


2階にエレベーターであがる。


夫婦の部屋の明るさを調光器で変更出来るのかチェックをし、トイレとお風呂場も1階と同様に全てチェックする。


廊下を歩くとセンサーが働き足元を照らすLEDライトが順番に点いていくのを確認する。


客間のベッド関係、広さ、カーテン、廊下のトイレとお風呂の水周りを全てチェックし、ここまでは全く問題無い。


更に屋上にエレベーターで上がり、『万能乗用車』の離着陸出来るスペースと太陽光パネルのチェックをして、1階のリビングに降りて来た。


ハヤトは庭に出て【サーチ】して電気周り、ガス周り、下水処理の水回りの不都合箇所をもう一度念入りに調べた。


問題ないので、あとはスライムを20匹ほど従魔にしてプールに遊ばせて廃棄物を

食べてもらうようにすれば全て終わりだ。


プールは庭の水平位置より低く作り込んで、プールを隠す蓋を作り込んだ。


スライムと調整プールをチェックする扉を作ってプールを隠した。


「セリーヌ、スライムを20匹ほど従魔にするので狩に出てくるよ」


「私もご一緒します」


ハヤトは【サーチ】するとケープの街外れに数十匹のスライムがいる。


二人でそこまで散歩かたがた歩いて行き、『魔石師』のスキル発動してスライムの『魔石』に念を送ってハヤトの脳にピシッと音と共に”マスター、私達にご用命を”とスライム32匹がぴょんぴょん跳ねて近寄って来た。


何とも可愛いスライムちゃん達だ。


”僕の家に一緒に行くからついて来て”


”は〜い、マスターのお家に行くのです”と32匹のスライムが一斉に声を揃えて念話して来た。


ハヤトとセリーヌの後ろをスライム32匹が跳ねながらついてくる光景を街のすれ違う人たちが一瞬奇異の目で見つめるがすぐに無視して行く。


7、8分でハヤトの新居について、スライム達にプールの場所を教えて蓋を取り、全部をいれてあげる。


”このプールにこれから色々君達の食べ物が来るので全て綺麗にして食べてね”


と念話して、何か問題が起きたら念話で知らせるようにした。


これでトイレの排泄物も生ゴミも、お風呂の流し湯も全て解決した。


「ハヤト様、料理等で出た食べかすや生ゴミはどうしますか?」


「ああ、それはこの小さい扉に直接捨てれば、先ほどのスライムが居るプールまで運ばれてスライム君達が食べてくれる」


「旦那様、画期的なシステムですわ!流石です」とセリーヌが抱きついてきて、ハヤトのほっぺにキスをしてくれた。


「セリーヌ、我が家の装置でトイレだけは未だセリーヌが知らないものがあるんだ」


「用をたしたら、このボタンを押すとねトテモ気持ちよくお尻を洗ってくれるからあとで、試して見て」


トイレの温水洗浄便座(どこかのメーカーさんではウォシュレットというのですが)をセリーヌに説明し魔石と連動させた動きを教えた。


2階の夫婦の部屋には大きなダブルベッドと化粧セット、セリーヌの衣装クローゼットは設計時から入れて備え付けられていた。


客室にはダブルが1室、ツインベットの部屋が1室ずつ設置されている。


「旦那様、この家自体が大きなマジックアイテムのようです。魔石も使われていないようですし、古代文明遺跡の建物と似た材質ですね。リビングも広くてソファが

気持ちいいです!庭もよく見えるし1日でこんな立派な家を作るなんて・・・流石

私の旦那様です」


「セリーヌ、僕が作った訳では無く『マジックアイテム創造ボール』が作ってくれたのだから」


「でも、こういう物がここに、あそこにとわからないと出来ないですわ!しかもこの世界にないものばかりでこの世界の人ではアイテムが有っても作るというか想像すら出来ないものばかりですから」


「一応、今からでも住めるけど宿を明日迄取って居るから、今日明日と家に不足な

品物を買ったりケープをゆっくり散策しようよ。僕はこの街に来てからギルドと宿

の往復しかしてないので殆どセリーヌと同程度の詳しさしか持ち合わせていないのでね!」


「ハヤト様もそれ程詳しくないのですか?でもいい街ですよね!しかも家の立地条件が抜群ですわ、ギルドにも、図書館にも近くてしかも閑静な住宅街だし、もういうことなしです」


「それじゃここを【結界(バリア)】で保護して大通りに出よう!」


場所的にも数秒で商店街に出れる。


「セリーヌ、貴女が生活していく上で足りないものを考えて購入してね。僕が考えているのは前にいた世界の頭を洗うシャンプーという洗剤やボディーローションとかかな?あとバスタオルとかバスローブなども僕らと客用とが必要だね」


「旦那様、それぞれの必要品は何も家に置いておかなくてもマジックボックスを

二人とも持って居るので然程必要なものって今は思いつきませんが・・・」


「そうだよね、せいぜい食べ物かな?」とハヤトは笑った。


「ベッドのシーツや掛け布団等が既に付いた状態で設置されていましたけど?」


「ああ、あれはアイテムのボタンを押すときに細かいところまで頭に思い描いて

押したからタオルケット等も含めて付いて居る状態で出て来たんだねおそらくだけど・・・」


ハヤトとセリーヌは【認識阻害】魔法を掛けて目立たぬ様にケープの町並みをゆっくり手を繋ぎながら歩いて居る。


ケープにも魔道具屋さんが結構あるのを初めて知ったハヤト、面白いものがあるのか入って眺めてみる。


特に目新しいものも見当たらずしょうがないので二人で市場に向かい新居に持っていく食べ物関係を見ていく。


果物と野菜をかなりの量買い込んだ。


それと、パン、とお米、それにファングボアの肉とマナバイソンの肉、それに卵と

鶏肉を『次元収納ボックス』に入れた。


「ハヤト様、私も先ほどハヤト様が図面を引いて居る間に食料品と洋服を少し買って来てますよ」


「そうだね!それじゃ戻ろうか」


二人は買っていない魚と貝類を買って”せせらぎ亭”に戻って来た。


205号室に二人で戻り、ハヤトがトワイニング紅茶とティラミスにサバランを出した。


セリーヌがティラミスを食べて、「これもまたいつものケーキと違って美味しいです。また、この紅茶はこの世界の最高級の茶葉より美味しいです」と喜んで美味しそうに紅茶を飲みながらティラミスを頬張って居る。


ハヤトは今後の動きとして、毎回『万能乗用車』で動いて旅をしたりするのも他人の目があるので、この世界の人に合わせて馬車を1台作って、牽引する動物を古代

文明人の様に合金の馬でも作って引っ張って貰おうなどと考えていた。


ハヤトは昔見た映画に出てくる自由に形を変えることのできるアンドロイドのロボットを1体作って、馬にもなったり、犬にもなったり、人型になったり大型の鳥になり空を飛んだりできないか色々想像力を生かして考えていた。


「ハヤト様、ケーキを食べながら上の空でしたがまた何か新しい事をお考えなっているのですか?」


「護衛依頼とか街場のメイン通りを走る場合は『万能乗用車』では流石に目立つので毎回【透明化(インビジブル)】魔法を掛けたり【認識阻害魔法】を掛けて目立たぬ様にするのも煩わしいので、馬車を作って、人工動物に引いて貰おうかと考えたりしてたんだ」


「そうですわね、二人で平原とか山を越えたりするなら『万能乗用車』は便利でとても有用ですが今回の様に護衛依頼とかだと目立ちすぎますね!今回はしんがりでよか

ったですが、でも魔道具として”魔道車”だと言えば衛兵は大丈夫ですよ」


そんな話をしていたら夕食の時間になり食堂に降りていく二人だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る