第16話 エルフの里

早々に帝都の宿を出て裏庭に行って『万能乗用車』に乗り込みゆっくりと上昇して水平飛行に入り時速500キロで瞬く間に帝国とヘルカ王国の国境近くまで来た。


道路に降りて検問の手前1キロ辺りで乗用車を回収して歩いて検問所に向かった。


冒険者カードを出入国所に提示してヘルカ王国に入る。


ハヤトは【マッピング】と【転移】を併用してヘルカ王国の国境近くまで転移し、その後はゆっくり歩いて検問を出てエルフの里の地区に入って行った。


暫くは平原が続き、小一時間で森になった。


鬱蒼とした木々が生え、はるか遠くに雲にまで届く1本の木が見える。


「セリーヌ、向こうの方に見える大きな木が世界樹?」


「ハヤト様には矢張り世界樹が見えるのですね?」


「普通に見えるけど、他の人には見えないのかな?」


「僕が普通じゃ無い?」


「はい、ハヤト様は普通じゃ有りません!」


「飛んで行っても良いけど何やら結界が施されて居るね!」


「それも分かるのですか?ハヤト様は本当に神様のようなお人ですね!」


そんな会話をしながら進むこと30分程、セリーヌが1本の大きな木に手を添えると結界が一部解除されるのが分かった。


そこを抜けると今迄森に見えていた景色が変わり一筋の道が現れてきた。


その道を更に30分程行くと前方に城壁が見えて来て、上から弓を構えたエルフの兵士達が見える。


「私はセリーヌ、城門を開けなさい」と叫んだ!


すると静かに城門が開かれエルフの兵士達が並んで頭を下げて迎えて居る。


"あれっ、セリーヌって貴族の娘さんなの?"と思って居たら、前方から夫婦らしき人が走り寄って来てセリーヌに抱きついて来た。


「お母様、お父様御心配をおかけして申し訳ありませんでした。無事戻って来れました」


抱きついて来た女性はただ泣くばかりでセリーヌを離そうとはしない。


お父様らしき人が「セリーヌ、こちらの人間族の人はどなたかな?」


「私の命の恩人で旦那様のハヤト様です」


「何と?旦那さんだと?」


後ろから少し年上のエルフの女性がやって来て、ハヤトをじっと見詰めた後、跪いて頭を下げた!


「母上、どうされたのですか?」


「お前達には分からぬじゃろうが、この方は神の使徒様じゃ」


「貴女は私のステータスが見えるのですか?」


セリーヌが「婆様ただいま戻りました。御心配をおかけして申し訳ありません」


「なんの何の、お前が神の子を連れて戻って来るのは分かっておったよ。息子夫婦はそれでも毎日涙を流して泣き過ごしておったがの!」


「お婆様、ご両親様、縁があってセリーヌさんと結ばれたハヤトと申します。まさかこの様な展開になろうとは夢にも思わず、勝手に二人で結婚を決めてしまい申し訳御座いません」とハヤトは三人に頭を下げた。


ハヤトはてっきりセリーヌが奴隷で身内も居らず独り身だとばかり決め込んでいて、まさかの展開に驚いて居る。


取り敢えず家に行こうという事になり向かった先が王宮なのでまた又ハヤトは驚くと共に焦った!


「セリーヌ、君は王女様だったの?」と彼女だけに聞こえる声で囁いた。


王宮に入り王室でセリーヌが今まであった事を話すと母上様がセリーヌが片腕を魔物に食われ奴隷になった辺りでまた又涙にくれて大変だった。


セリーヌにはひとつ年下の弟がおり、彼も自己紹介して王様一家が勢揃いした。


「王様、セリーヌさんがまさか王女様とは知らず二人で勝手に夫婦気取りでおりましたが、それもこの2、3日前の事なので何処の馬の骨とも分からぬ人間族に娘をやらぬと言われれば辛く悲しいですが私はそれでもセリーヌさんが大切な人で愛しております。一緒になる事を許して頂けませんか?」


「セリーヌ、お主はどうなのじゃ?」


「私は最初から決まっております。ハヤト様に一生ついて行くと心に誓っております。ハヤト様が居なければ今の私はおりません」


「良く言った!セリーヌ、それでこそわしの娘じゃ」


「お父様・・・!」


「息子よ、早々に孫の帰還祝いと結婚式を挙げんと行かんのう!」とお婆様が言う。


その後は目まぐるしく事が過ぎ、晴れてハヤトとセリーヌは名実共に夫婦となった。


結婚式の前日セリーヌと共にハヤトは世界樹の傍に行きセリーヌに言われるまま世界樹の幹に手を添えると世界樹が光輝きハヤトの手を通して世界樹の意思がハヤトの脳に入って来た。


"神の使徒ハヤトよ、私の全ての力をお前に授けよう。私の加護と全精霊の加護をハヤト、受け継いでこの世界の秩序を正し、平和な世界を作ってくれ、頼んだぞ"


"世界樹様、慎んでお受け致します。微力ながら私の力が及ぶ限り頑張ります"


「ハヤト様、世界樹様が輝くなんて初めてです。世界樹様と随分長くお話して居た様ですが、世界樹様の御意思が伝わりましたか?」


「はい、しっかりと受け止めました」


ハヤトにとって不思議な体験だった。木に意思が有り、しかも自分の脳に念話して来るなどとは考えられない出来事だった!


結婚式も滞り無く終えて、数日があっという間に過ぎた頃セリーヌとハヤトはお婆様に呼ばれて、お婆様の部屋に入った。


「ハヤト様、貴方様は世界樹様の全ての力を受け継ぎ全精霊の加護も受け恐らく世界樹様とお話をした唯一のお方です。その意志をしっかりと受け止めてセリーヌと共にこの世界を守って下され、お願い申しますじゃ!」


「お婆様、未だ未だ未熟な私ですが微力ながら精一杯頑張りたいと思います。セリーヌ共々二人を見守って下さい」


「ハヤト様、明日この地を立って二人で力を合わせ更に色々経験を積まれて再びお会いしましょうぞ」


「「はい頑張ってきます」」


二人は声を揃えて返事をした。


翌日二人はエルフの里全員に見送られて再びヘルカ王国の方角に旅だった。


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