我が家のビートサイクロンウォッシュ
「ぎゃあ!」
ネコでもふんずけたみたいな大声が、洗面所の方から聞こえてきた。
「なに、お姉ちゃん、どうしたのさ?」
そんな声出してるとせっかくできた彼氏にフラれるぞ、と洗面所をのぞき込むと、洗濯物を抱えて涙目になっている姉が震えていた。
「もう、高校生なんだから、泣かないの」
「……チケット!」
家が揺れるほどの声量で、我が姉は嘆いた。
「え、この前当選したって言ってたやつ? 洗濯しちゃったの?」
ファンクラブに入っていても、なかなか当選しないプラチナチケットを、ポケットに入れたまま洗ってしまったという。
洗濯機の底から紙をかき集めて、どうにか復元できないかと並べてみる。世界一難しいパズルだ。
それにして妙に量が多い。チケットは薄いピンクの紙だったが、それだけでなく白い紙もあるし、緑の線が入ったものや、茶色い紙も大量に混ざっている。
白い紙に、手書きの文字が書かれているのに気付いて、手が止まった。
「ちょっと待って、これ、チケットじゃない……私の……手紙!」
転校した親友から送られてきた大切な手紙、そうか私、ポケットに……。
「あんたバカじゃないの?」
くそう、バカにバカと言われてしまった。
姉妹で大騒ぎしていると、両親が買い物から帰ってきた。洗濯機でチケットを洗ってしまった話をすると、父も母も顔色を変えた。
「ああ! うそ! 私も!」
二人とも大事なものをポケットに入れたままにしていたという。
「お母さんは、何を?」
「離婚届」
「はあ?」
何でそんなものを、と姉妹で大騒ぎになる。いつも優しくて穏やかなうちの父は、客観的にみてもいい夫だし、主観的にみてもいい父親なのだ。
「いつでも離婚してやるぞ、って気持ちだとお父さんに強く出られるから」
「マジかよ最低だなうちの母」
無造作に明かされた衝撃の事実に、父はショックを受けて固まっている。
「それで、お父さんは、何洗っちゃったの?」
告げられる事実に比例して、父の口はあまりにも重く、たった一言を発するのに数十秒の間を要した。
「……冬の、ボーナス」
「はあ?」
「マジで言ってんの?」
「離婚よ! 離婚!」
一家全員で洗濯機にぶち込まれたみたいに、家がぐるんぐるんと回転した。
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