THE・新聞配達員

スコウス

第1話 進路なき人生




    〜ファミリー達に捧ぐ〜

   この物語はフィクションです。

   如何なる人物も実存しません。

             by スコウス







 やっと高校を卒業した19歳の秋。

 留年したのに、そのまま友達で居てくれる

 同い年の友人達。




 特に進路は決めていなかった。

 親も先生も友人も

 飼っている金魚も誰も

 次に私が何をするべきかを言う者は

 現れなかった。




 幸運だ。

 信じられている証拠。

 もしくは諦められている証拠。

 何をしても良いし、何もしなくても良い状態。




 そんな責任と責任のちょうど間に

【何もしなくても良い】という隙間が

 あったなんて。

 居心地が良いので、しばらくそこで考えに考える。





「次は何をしようか?」





 じっくり腰を据えて考える。

 石のようなのに布団にくるまって考える。

 寝て起きたらまた考える。




 寝てるだけなのにお腹が空く。




 でも私はまだ若く

 自分には色んな事が出来るはずだと信じている。




 まだ何もしていないのだから当然かも知れない。

 頭の中では何でも出来るのだ。




 やれることは無限にあるのに、

 まだ何一つやっていなかった。




 今日も次は何をしようかと考えるだけの

 一日になるだろう。

 きっと明日も。





 天気の良い日は公園でギターを弾き

 一人に飽きたら友達の家に行く。

 刺激が欲しくなったら電車に乗って遠くへ行き

 傷ついたら家に帰る。

 そして母親の手料理を断って、外で牛丼を食べた。





【物心】とは無縁の日々。

 自分の気持ちが最優先だった。

 しかし先立つ物が必要になるのが人生のことわり

 自分の全財産が入っている缶を開けた。

 五千円札が一枚、小銭たちの上で S の字になって眠っていた。

 そろそろ仲間が必要だ。





 そんな日々。





 私は友人達と車の中でビールを飲みながら歌い

 そして歌い飽き、

 タバコを吸って吸い飽きて

 お腹が空いたけど空い飽きたので、

 コンビニに入った。




「そろそろバイトでもしようか。」




 大きな独り言を唱えたら入り口のドアが開いた。




 行動的になっていた私の波と

 タイミングよくアルバイト情報誌の発売日が

 重なっていた。




 コンビニの入り口付近にうずだか

 山積みのアルバイト求人雑誌の各紙。

 1冊200円。




 この時は、

 この200円の投資がまさか、

 この後の人生を大きく変えるとは

 思っても見なかった。




 いや、

 ビールも一緒に買ったから

 合計で400円の投資だった。




 そんな人生の幕がようやく上がったような

 気がしただけの、始まりの始まり。




 〜つづく〜

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