第9話 表 裏
わたしは
わたしの言う言葉には《裏》がある。
たとえば
「わたしもこの本好きなんだ。」
だったら
『ほんとは好きじゃない』
なんだ。
本音を言うと否定されると、いつも思っている。
だから本音は声に出さない。
そうやって生きてきた。
だけどある人を好きになってしまった。
クラスで人気の
そりゃあほかの女子もねらってる。
だけど一番翔君と距離が近いのはわたしの友達の
奈恵はクラスの女子のなかでぶっちぎりで可愛く、美人なのだ。
奈恵はいつも翔君のことをわたしに話してきた。
だって奈恵も翔君のことが好きだから。
悲しかった。
だけど前を向いた。
少しでも翔君に可愛いと思ってもらえるような子にならないとって思った。
だけど奈恵のようにはなれなかった。
ある日、わたしは奈恵と一緒に帰っていた。
その時、奈恵がこんなことを言った。
「私ね、翔君に告白する。」
おどろいた。
すかさず、《裏》の言葉を返した。
「そうなんだ。応援するよ。」
『告白なんてしないでよ。ぜったいに応援なんてしない。』
むりやり笑顔を作って言った。
「ほんと!?嬉しい!!ぜったいに成功させるね!!」
またわたしは《裏》を返した。
「がんばって!!」
『やめて!!』
わたしの心の思いは虚しく、奈恵は告白をした。
次の日___
今日もまた、奈恵と帰った。
話題はもちろん奈恵の告白だった。
「あのね。告白、成功した!!」
一瞬、耳を疑った。
「え?」
「だから、告白、成功したって!!」
つまり、
「二人は、付き合ってるの?」
「そ!!」
「ッ___」
声が出なかった。
目の奥が熱くなる。
「沙織?どうかしたの?あ、もしかして感動した?」
ちがう。ちがうよ。
「__よかったね。」
『別れろ』
「ありがと!!!ほんとうに夢みたい!!」
「夢じゃないよ!!」
『夢であってくれ』
「それがさ~、翔くんも私のことが好きって言ってくれて~」
「よかったじゃん!!」
『嫌われろ』
次々と出てくる《裏》の言葉。
なんでこんな時も《裏》ばかり言ってしまうの?
もう嫌だ。こんなの。
もう、やめよう。
涙があふれた。
「_____ろ」
「沙織?」
「浮気されろ!!!!」
わたしは初めて、《表》の言葉を言った。
ごめんね。奈恵。
もう、絶交だろうな。
でも、それでいいんだ。
忘れないといけないから。
言葉の意味を理解した奈恵の顔が、怒りに満ち溢れていく。
それでいい。それでいいんだ。
わたしは心の《表》を全部吐き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます