第58話 やっちまったあ!と思ったんだ

 俺はやっちまったあ!と思ったんだ。

 だが短剣は仲間の首に刺さる事なく、首輪を破壊していった。

 そう、未だ決断できずにいる仲間や、首輪を外そうとしない仲間の首輪が俺の投擲した短剣によってどんどん破壊されているのだ。

 何これ怖い。


 暫くしてこの場の全員の首輪は外れた状態になり、

【終わったわよ。】

 終わったらしい。

 そして俺の手には再び短剣が。


「うわ!ケネト!何て事しやがるんだ!」

 だがアントンの動きが早く、俺に突っかかってきた男を羽交い絞めにし、

「馬鹿者!今更どうしようもなかろう!今すぐ脱出するぞ!おい、看守の装備を剥ぎ取れ!!」


 ただ、俺の投げたショートソードの餌食になった装備は使えないので、武器と一部の装備を失敬していく仲間達。

 俺は一応破壊していない首輪を回収しておく。


 気が付けば隠密行動の出来る仲間が既に偵察に出ていて、暫くするとアントンの所に報告にやってきた。


「おいアントン、他の場所も同じようにひっちゃかめっちゃからしいぜ!看守の妨害は恐らくない。どうする?」

「他の仲間と出来る限り合流し、手こずっているようなら助け、脱出しよう。」


 この中で空間魔法持ちは果たして何人いるんだ?

 そして首輪を外す事ができたからと言って、魔法を使える仲間がいても魔力の回復が出来ていないから、ポーションを持っていなければ魔法を発動するのも厳しい状況。


「アントン、俺は魔力が回復している。俺が前に出る。」

 俺よりレベルが高いのは、恐らくさほど居ないだろう。何せここに居る殆んどは難民としてモッテセン王国に落ち延びた連中だ。


 元々冒険者だった奴は皆無。

 そしてモッテセン王国に辿り着いてから冒険者になってレベルアップがはかどったやつらはそう居ないだろうし、武器なんかか良いのを持っていなかったはず。


 俺は拘束される時には親方から貰った武器はストレージに仕舞っていたから事なきを得たが、そうでなければきっと武具は没収されてただろうからな。


 こうして俺はアントンと並び前を征く。


 道中斥候役の仲間の助言を受けつつ、他の場所からの仲間と合流、進んでいく。

 そして総勢数百人に膨れ上がった一団は、鉱山の出口に向かって進んでいく。


 だが、もうすぐ出口という所で看守の待ち伏せにあった。

 正確には看守ではない?どうやらここの代表がいたようだ。役職は・・・・知らん。

 鉱山の管理人なのか、単に責任者と言うのかは知らん。

 そして俺は結局知る事はなかった。

 何故ならお互い声を掛け合う前に戦闘になったからだ。


 相手は俺達がここに来る事を・・・・まあここしか出入り口がないから当然なんだが、ここで待ち伏せをしていたと。だから相手はある程度最初から備えてるんだよなあ。

 だが俺には魔法とこの剣がある!

【私の助言もあるわよ?】

 ・・・・あん?心の声じゃなかったのか?


【むしろ何だと思っていたのかしら?さあやっちゃえ!】

 俺は今まで心の声と思っていたこの謎の指示が、ここに来て何か別の声だった事に今更ながら気が付いた。あんた誰?


【それは後でね、さあ剣を投げなさい!】

 相変わらずだ。

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