奴隷

第55話 奴隷・ケネト

 俺が奴隷として鉱山での強制労働をさせられてから幾年経ったか既に把握していない。一体何年経ったんだ?

何せ時がわからねえ。

ずっと鉱山にこもりっきりだからな。


 しかしながら忌々しい首輪だ。


 もうすっかり慣れたがこの首輪、当初付けられたのとは違うものに変わっている。


 何やら新しいのができたからと。


 何か知らんが数字が書いてあって、俺のは273-5となっていた。


 これは後にどういう事か理解できたのだが、着けられた当初は理解できなかった。

 そしてどういう事なのか理解できたのは、ある出来事があったからだ。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 俺が奴隷にさせられてからたぶん1年程経っていた頃だと思うが、現状に絶望し、耐えられなくなったかつての難民の一部が、自死を選び、つまり自ら命を絶ってしまうという痛ましい出来事が何度も発生した。


 何、自死は簡単なのだ。自分に装着されてしまっている首輪を外すだけでいいんだから。

 外せばこの首輪は魔道具?拘束具の効果で装着者が死んでしまうのだ。


 これを利用して、ある時を境にどんどん人が死んでいった。


 何せ死ねばもう強制労働をしなくて済む。

 楽になる・・・・そう思った人々が次々とそうした選択をしてしまった。


 通常ならば考えられないが、肉体的にも精神的にも限界を迎えればこうなる。


 しかしこれは強制労働をさせている側からすれば本意ではない。

 何せ働き手が減ってしまえば、鉱山での採掘の効率が落ちるからだ。

 だからなのか、新たな拘束具の開発。

 そしてできたのは、これまたえげつない効果。そしてその効果は抜群で、これによって自死を選択する人はいなくなった。

 何故って?


 どうやらもし自分の首輪を外せば、自分はおろか同じナンバーの首輪を装着してる人まで死んでしまうという、ある意味おかしいだろそれ!と思う機能が付いている。


 首輪を外そうとしても死なないようにすればいいと思うのだが、これでは精神の崩壊を止められないようで、自分が死ねば他人も同時に死ぬ、と言う状況にしてしまう事で、ある意味自死を防ぐ事に成功したようだ。


 そしてこのナンバー、俺のは273-5となっている事から分かるように、少なくとも俺と運命を共にするのは5人以上いるという事だ。

 それもどこに同じナンバーの人がいるのかわからないから、探し出して・・・・という事も出来ない。


 ああ、そして肝心な事なのだが、この隷属の首輪って言ってたっけ、魔法やスキルの全てを封じてしまうので、鉱山での採掘は自分の身体のみが頼りになってしまう。


 何せ強力なスキル持ちがスキルを用いてしまえば、あっという間にこの環境から抜け出せるからな。


 不幸中の幸い?

 空間魔法を取得している人のストレージ等も封印されてしまうので、中に入れているアイテムはそのままだという事だ。


 俺はひたすら耐えた。周囲の人間も耐えた。いつか助けが現れる、若しくは何かしらの変化が発生し、抜け出せるのではないか・・・・


 そんな淡い期待は悉く否定され、長年こうして強制労働の憂き目に遭っている。

 だが俺はあきらめなかった。


 そして一人、また一人と俺と同じナンバーの奴を見つけた。


 鉱山のあちこちに散らばっていたが、ついでと言っては何だが、他の奴らも同じナンバーをできる限り見つけた。

 これは確認の意味もあったのだが、同じナンバーの人が何人存在するのかわからなかったからだ。

 結果5人と知れた。


 つまり俺と同じナンバーの奴は、273は5人いるって事だ。

 そしてこのナンバー、実は俺が最後だったらしい。

 何故って俺はダンジョンに籠っていたから、拘束されるのが最後になった・・・・つまり拘束された順番なようだ。

後で付け替えたのに何で?と思わないでもないが、俺らはまあ、ナンバーで呼ばれてたからな。


273×5は1365だが、当初の俺のナンバーは1596だっけな。

だからそれだけ死んでしまったという事なんだろう。


 そして何度か首輪をどうにかできないか試そうとしたが、できなかった。

 何故なら失敗すれば他人が死ぬからだ。

 だが、いよいよこの長く辛かった奴隷生活に終わりが近づいてきたようだ。


「・・・・どうやら外で何かあったらしい。」


 何かって何だよ。

 どうやら奴隷の一部が、看守の愚痴を聞いたらしい。

 何やら鉱山の外・・・・国の何処かで何かでかい出来事が発生したらしく、看守も例外なく影響を受けるらしい・・・・


 これはチャンスなのか?


 ケネト・ラーム28歳。

 奴隷落ち血してから10年の歳月が経っていた。

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