第56話 転換

 これは好機か?

 それとも罠か。


 そう思ったのもつかの間、周囲が騒然とし始める。


「今看守共が慌ててどっか行ったと思ったら、国でなんかあったらしい。」

「国ってなんだよ?」

「モッテセン国王だか何だか知らんが、何か病気かなんかでもう駄目らしい。」

「駄目ってなんだよ?」


 現モッテセン国王。


 ヘンリクの父親にしてこの国のトップ。

 そして俺達をこんな目に合わせた張本人だ。


 しかし、死んだのか?

 そう言えばヘンリクか、久しぶりに思い出したがあいつどうしているんだ?

 ヘンリクと言えばヒルデガルトとかいう女もそうだ。

 あいつも俺に気安くしてたが、よくよく考えたらこの国の姫様なんだよな。

 何で今頃思い出すんだろう?

 それにそうだ、あの女、何だっけ?

 俺はあんなに親身になってくれた女の名を思い出せなかった。

 冒険者ギルドの受付嬢。

 とても綺麗で・・・・何だっけ?そうだ、セシーリアちゃんだ。

 何で今まで忘れていたんだ?

 と言うか流石にあの女も今頃結婚しているよな?あんないい女だ。誰かそのうち相手が見つかるはずだ。

 それにおっちゃんだ。

 おっちゃんの名前も思い出す事ができん。

 冒険者を引退とか、もう体がぼろぼろとかぼやいてたっけな。

 ロ・・・・忘れた。

 まあおっちゃんはおっちゃんだ。


 は!そんな事より今だ。もし国王が死んだんなら、あいつらもただでは済まないだろう。

 ヘンリクが新たな国王か?それとも他に兄弟がいて、そいつが新たな国王に?

 わからん。しかも今はどうでもいい。

 この状況をどう判断するかだ。


 そして俺達はいつもの採掘をする事なく、休憩所で待機させられた。これは今までなかった事だ。やはり何かが起こる。

 そんな予感がしていたが・・・・


 看守の様子が変だ。


「おい、やばいぞ。」

「どうした?」

「・・・・が機能していないかもしれん。」

「おう?どういう事だ?」

「陛下が・・・・されただろう?」

「それが何の・・・・は!おいおい冗談じゃないぞ?」

「いやしかしだな、隷属の首輪、あれは陛下の許可が無くては使えねえって知ってるだろう?逆に言えばだな、陛下にしか扱えないんだ。」

「だからなんなんだ?」

「つまりだな、陛下がお亡くなりになれば、誰がこれを・・・・」

「おい、それって不味くねえか?」

「不味いの不味くないのって、あいつら生きてるだろう?」

「それはつまりどういう意味だ?」

「もはや隷属の役割が・・・・」


 看守って阿呆の集まりか?それとも動揺しているのか?

 俺達がすぐ近くに居るのにそんな事聞こえるように話していていいのか?

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「おい、まさかと思うがこの首輪、機能してないんじゃ?」

「・・・・そうだったらいいが、機能していたらどうするんだ?もし外して・・・・自分だけならいいが、他の奴も死ぬぞ?」

 奴隷たちが騒ぎ始める。勿論俺の周囲もだ。


「ケネト、お前はどうする?」


 俺の近くで作業をしている仲間が俺に話を振ってきた。

「どういう事だ、アントン?」


 アントン。

 俺達が割り振られている作業場のうち、俺達の集団のリーダー的存在。


「伸るか反るかさ。」


「そりゃあ無論・・・・」


 俺が返答を終えないうちに、近くから歓声が上がった。


「は、外れたぞ!しかも生きてる!」

 おい、誰だよ死に急ぐ奴は。

 しかし俺は見た。首輪を手にし自由を得たそいつを。


 だがそこまでだった。

 看守が数人入ってきたからだ。

「うわ!こっちもかよ!死ね!」


 首輪を外したやつは看守の魔法であえなく倒れた。

 ・・・・どうする?

 俺は今周囲の人のせいで看守の目から姿が見えないはずだ。

 アントンも然り。


 首輪を外せばスキルは使えるのか?後はストレージの中身もだが。

 だがアントンが先に動いた。

 アントンの奴、首輪を外しやがった!

 そして・・・・看守に投げつけた!う、俺は悩んだ。ここで伸るか反るか。


 アントンは看守に挑んでいった。そして看守の注意が完全に俺から離れた。

 俺は周囲を見たが、まだ他の人は判断に迷いがある。決めかねていない。


 ・・・・これはチャンスだ。しくじれば死が待っているが、このままこうしていてもいずれ奴隷のまま死ぬ。


 俺は首輪に手をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る