第43話 レオ・エイセル親方

 モッテンセン王国には腕利きの鍛冶師が多数存在する。


 かつて王国一の鍛冶師と言われていたレオ・エイセル親方もそのうちの一人。


 だがエイセル親方は目を悪くし、その後治療を試みるも一向に良くならず、ついにはまともに見えなくなってしまい、現在は左の目はぼんやりと光を認識する程度、右目も僅かに何があるか分かる程度しか視野がない。


 そんな状態の親方は、かつて数十人の弟子を抱える大工房を持っていたが、一人、また一人と弟子が消え、ついに弟子が一人もいなくなってしまい、尚且つかつての品質を維持できなくなり、そのせいで最近では仕事の質も落ち、納期も遅れてしまい大多数の顧客も親方に仕事を依頼しないようになった。



 ●親方Side●


 俺の目が日に日に悪くなっていく中、工房に一人の若者がやってきて、弟子にしてほしいと懇願してきた。

 聞けばどうやら難民としてこの国に逃げのび、その後この街に振り分けられやって来たらしい。

 どうやら祖国が魔物の襲撃を受け、滅んだらしい。嘆かわしい事だ。

 そしてどうやらこいつは鍛冶師を目指しているようだが、どこの工房も相手をしてくれなかったらしい。

 そりゃあそうだ。

 ぽっと出の奴をおいそれと弟子にする奴なんぞよほどの物好きか阿呆だ。

 だから俺は若いのに忠告をしてやる事にした。


「この国の鍛冶職人の地位は低いうえに、一振りの剣を自らの考えで打つ事も厳しい。素材は基本依頼者の持ち込みだ。なので打つ武具はその依頼者次第だ。だからてめえは冒険者になって自ら素材を確保するべきだ。そうしないといつまでたっても俺のように人の顔色うかがって打ちたくもねえ武器をいつまでも打たねえといけない事になる。てめえの希望はそんな武器を打つ事じゃねえだろう!」


 俺はそう言って諦めてもらおうと思ったがこいつは諦めなかった。


 だが今の俺には弟子がいない。しかもこの目だ。こいつが俺に弟子入りしたとしても何も教えてやれんだろう。だが俺は熱心に頼み込むこいつの熱意に負け、2週間に1度、少しの間なら見学を許してやった。

 こいつはケネトと言っていたが、きっちり2週間ごとにやってきては俺の仕事を見ていく。


 そして数ヶ月が経ち、ケネトはどうやら普段は薬草採取で身を立てていたようで、地味ながらコツコツとレベルを上げ、スキルもギルドでアドバイスを受けつつ取得していたようだ。


 しかしそんなある日、どうやらどこかの阿呆が森の奥からA級の魔物、サイクロプスの群れを安全地帯に連れてきちまったらしい。

 話を聞けばどうやら欲をかいて森の奥に向かったはいいが、運悪くサイクロプスの群れに遭遇、サイクロプスを怒らせそしてそいつらは逃げた。だが怒りによって殺気だったサイクロプス。普段あまり縄張りから出ないのだが、この時ばかりはその阿呆等を追い森を抜け、よりにもよって安全地帯に出ちまったようだ。


 そしてこの時運悪くケネトが薬草採取をしていたらしい。

 だがケネトは覚えたての魔法で何とサイクロプスを全て仕留めたとか。

 こいつは鍛冶師ではなく冒険者として身を立てた方が良いのではないか?

 そう思ったのだが、ケネトはこの後サイクロプスを仕留めた経験値と金で色々スキルを取得していったらしい。

 まあ俺にはあまり関係ない話だ。

 そう思っていたのだが、ある日ケネトは俺に目を治すと抜かしやがって治療を開始しやがった。

 どうやら治療に関するレベルを11にした様だ。

 だがそんな簡単に目が治るわけもねえ。

 しかも俺はもはや左眼は殆ど何も見えず、右目もこの有様だ。今更失うものはない。だからケネトの好きにさせた。

 だがどうだ!あいつは魔力が枯渇寸前になるまで魔法で治療を行い、何と俺の左眼が見えるようになったではないか!


「ケ・・・・ケネト!見える!見えるぞ!左眼が見える!それに何か分からねえが 視える・・・!」



「お、親方、マジっすか?」


「ああマジだ!だが疲れるな。今日は鍛冶をやめて休む。ケネトも休め。俺は暫く左眼をならしていく。しかしすげえな。ケネト、明日も来てくれるか?明日は右目を頼む。」


 そして翌日もやってきたが、あいつは失敗し続けた。

 さらに次の日、この日ももう無理と思う頃、俺の右目も復活した。


「ケネト!右目も見えるぞ!はっきりと!今まで霞がかった見え方と違い、はっきり視える・・・!おおおお!!!!!ありがとうケネト!どう感謝していいか分からねえ!」


 俺はこの日も休んだ。


 そして翌日、俺が仕事を休んでしまったためにため込んだ依頼品を催促しに、何人もの人がやってきやがった。


「レオ・エイセル親方、どうしましたか?ここ数日全く納品してませんよねえ?そんなのでは困るんですよ。」


 そのうちの一人がそう言う。まあそうなるわな。


「おおすまねえな。もう一日待てねえか?そうすりゃ以前のような、いやそうじゃねえ、俺の最盛期に劣らねえ品を打ってやるぜ!」

 俺は目が治った。なら以前と同じ仕事ができるはず!


「親方、こう言っては何ですが貴方の目はもう殆ど見えてないんですよ。今更最盛期の仕事は無理でしょう?一体どうしたというのですか?それに聞けば弟子を取ったとか。まさかそこのもやしっ子が弟子ですか?しかもその弟子に打たせるおつもりですか?」


「いや打つのは俺だ。それに目は治った。」


「はあ?目が治った?いえいえ有り得ません!いえ、正確には相当な額をつぎ込んだだけですよね?あの嬢に。彼女は職員なのでそう言った治療は行わないと聞いていますし、今の教会にはそのような使い手はいないはず。それが本当ならどうやってですか?」


「だが治った。どうやって治ったかは言えねえがな。明日来い。たまった仕事を纏めてやっつけておく。」


 あいつらは逃げるように帰っていった。

 そしてケネトだ。

 こいつは大変な事態になっちまった。

 下手に喋ればケネトに治療してほしいと人が殺到する。

 だから俺は口止めをしておいた。


 ケネトは大人しく帰っていった。

 さて仕事だ・・・・


 その前にケネトに何かしてやらねえと。

 あいつは鍛冶師希望だ。だからこそ俺の全力の、魂のこもった逸品を渡す必要がある。

 あいつが将来目指すべき目標。

 つまり俺の全力の品を渡す事で、それを目標にできる。

 この国で鍛冶師のレベルが13は俺しかいねえ。だからこそ俺以上の仕事ができる奴は存在しない。


 それに溜まった仕事だ。

 そうだ、先ずは溜まった仕事をやっつけ、なまった腕を・勘を取り戻し、そのうえでケネトに最高の逸品を打ってやろう・・・・


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 俺はひたすら打ちまくった。

 20振り以上の武器を打っていく。


 最初は中々勘が戻らず歯がゆかったが、暫くすると慣れ親しんだ槌が俺の身体の一部のような感覚が戻り、かつての俺の全盛期の時と同じような出来になった。


 そして俺はケネトの剣を打つ。

 あいつにはショートソードと短剣を打つ事にした。

 ショートソードはメインの武器に、短剣は採取や解体、その他に役立つだろう。

 俺は虎の子の素材を引っ張り出す。

 アダマンタイトとミスリルだ。

 オリハルコンがあればいいのだが、あれは使用者にも扱いにくい。

 ケネトは精霊を扱えねえから駄目だ。

 なのでメインにミスリルを間に用い、アダマンタイトでサンドする。

 こうする事でアダマンタイトの強靭さと、ミスリルは魔素と相性がいいので魔剣を打つのにうってつけだ。こうする事で双方の良いとこどりの剣が打てる。そうは言っても実際者にできるかどうかはレベルもあるが、長年培ってきた勘がものを言うんだがな。

 これらを俺は一体化させ、二振りの剣を打った。


 そして俺はこの二振りの剣をケネトに渡す。

 目の治療代としてはとてもじゃねえが足りねえとは思う。だが俺の今の出来る全てだ。

 それにどうやらケネトはダンジョンに誘われたらしいし、ちょうどいいだろう。

 それにこいつが鍛冶師を目指すなら何か目標があった方がいい。

 あいつならいずれ俺のこの渾身の二振りを超える剣を打てるようになるだろう。だがそれはまだ先だ。

 スキルを13まで上げてもこうはならねえ。

 槌と一体になる感覚をつかむまで本物は打てねえ。

 だから俺はこの二振りをあいつに託した。

 この剣を見ればそのうち分かるだろう。

 俺は語るのが下手だ。だが出来上がった剣は語らずとも見ればわかるはずだ。


 さて、どうやら律義に待ってくれた客が武器を引き取りに来たらしい。

 今後はどうするか?

 また弟子を取るか・・・・

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