森を渡るもの
独り踊り
プロローグ 月に唄う
葉から一滴の雫が落ちる。
その雫が白い肌に跳ねて広がる。
閉じていた瞼が、重い扉を開くようにゆっくりと開かれる。
「もう夜が迎えに来たのかい?」
その問いを無視する静寂に、長く細い眉は寂しそうに歪む。
朝から降り続いていた雨は上がり、雲も遠くへ旅に出ていた。
そのおかげで、空には緑に輝く月と、眩しそうにその光を受け止める黒が、広がっているばかりである。
「どうやらまた眠り過ぎてしまったようだね。こんなにも美しい月が、あいさつをしてくれているのに、全く気づかなかったよ」
そう言って男は、月の光に溶け込む体を地面から起こして、周りを見る。
そこには、眠る前は雨に打たれて泣いていた、白い葉の植物が、静寂を纏って男を囲んでいた。
それらは、緑の月の光を吸収して、男の目覚めを喜ぶように、優しく光っている。
「なんで君たちは、そんなにも嬉しそうなんだろう」
男は首を傾げながらも、その答えを知っているように優しく微笑む。
「今日も雨に打たれながら眠っていたから、体が冷えてしまったな」
そう言って立ち上がる男の体は、細く、雨で濡れて、今にも溶けてしまいそうであった。
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