第18話 少女の恋……式守有希の場合①

 私、式守有希しきもりゆきには想い人がいる。


 彼の名前は「七月剣」。


 同じ生徒会に所属する、一つ年下の後輩だ。





「会長?」


「え、あ、ごめん、なんだっけ?」


「いや、ぼっーとしてるから大丈夫かなと思って……疲れてます?」


「あ、大丈夫だよ。少し考え事をしてただけだから」


「そうですか、ならいいですけど……それより、文化祭の生徒会企画、どうします?」


「そうだねぇ」




 うだるような暑さが解け、段々と過ごしやすい季節へと移り変わっていく学び舎の中で、私と七月君は向き合っていた。


 時刻は昼休み。


 心地よい風が通る三階の生徒会室に、わざわざ彼を呼びつけた。


 どうしてそんな事をしたのかというと、それは、私が七月君に全幅の信頼を置いているから。


 普通の生徒だったら面倒臭がるような仕事も、七月君は嫌な顔ひとつせず手伝ってくれる。


 副会長という自覚があるからなのかもしれないけれど、それでも、こうして手を貸してくれるのは、親身に寄り添ってくれるのは、生徒会長としても、一人の人間としても、やっぱり嬉しかった。


 私は、昔から人に頼るのが苦手な性格だった。


 いつも一人で抱え込んで、苦しんで、それなのに平気だよって、大丈夫だよっていう自分を必死に演じてしまいがちなのだ。


 だからこそ、こうして頼れるというか、素直に甘えられる存在はありがたかったりする。





「去年はミスコン、一昨年はダンス……なんか、毎年似たような企画ばっかりですね」


「そうだねぇ……」


「はい、なんか、打ち止め感あります。毎年ミスコンかダンスを繰り返しているというか」


「きっと、みんな青春の定番みたいな、そんなありふれたものを求めてるんじゃない?」


「気持ちはわかりますけど、何だかなぁって感じですね」


「あはは」




 室内に、戸惑いがちな私の笑い声が響く。


 年下だけど、はっきりとものを言えるところや、それでいて礼儀や礼節も怠らない彼の絶妙なバランス感覚を、私は陰ながら尊敬していた。


 多分、七月君は私なんかよりもよっぽど精神的に自立した大人なんだと、そう思う。


 だから、気兼ねなく頼ることができて、みっともなく甘えることができたのかもしれない。


 七月君は特別だった。


 人に頼るのが苦手な私が、ここまで素直に甘えられる人間なんて、そうそうお目にかかれない。


 生まれてから、今日まで、そんな人には出会った事がなかった。


 両親にすら気を遣う時があるくらいなのに、不思議と、彼だけには自分の弱みを見せることができた。


 きっと、この先、こんな人に巡り合える機会は二度と来ないのだろう。


 そう思うと、不安になる。


 三年生の私にとって、七月君と一緒に過ごせる高校生活という時間は、もう半年もない。


 それどころか、こうして生徒会の活動を通して、密接な人間関係を築くことですら、あと数週間で終わりを迎えてしまう。


 我が校の生徒会役員の任期は、任命されてから一年経った、秋に行われる文化祭の運営を持って終了とされる。


 その後に行われる生徒会長選挙で後任を選び、晴れてお役御免となるのだ。


 つまり、私に残されている時間はもうあと僅か。


 夢のような時間も、いつかは魔法のように解けてしまうのだ。


 それなら、もう、いっそのこと……


 秒針が、終わりに針を落とす前に。


 魔法が解けて、王子様の前から姿を消さなければなくなるその前に。


 今、全ての想いの丈を伝えてしまったほうが……




「ね、ねぇ、七月君」


「はい」


「あの……さ……私達……」

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