言っても分からないことなんて、言わなきゃもっと分からないよ

Side 葵


今日は、梅雨が明けてから初めての雨。


夏の雨って、一段とジメジメしていて好きじゃない。


10日前、大好きなおばあちゃんが死んだ。


涙が枯れるほど泣いた。


涙が流れきった後は、抜け殻のようになった自分が残った。


気力が沸かない。


何も手につかない。


何もしたくない。


学校もバイトも行きたくない。


このまま僕も消えてしまいたい。


そんな気持ちだった。


おばあちゃんのご飯が好きだった。


おばあちゃんと話をするのが好きだった。


おばあちゃんの事が大好きだった。


お父さんがいなくても、お母さんが仕事であまり会えなくても、おばあちゃんがいれば平気だった。


ずっと元気でいて欲しかった。


僕は膝を抱えて丸くなっていた。


すると、"ピンポーン"とインターホンが鳴った。


出る気になれなくて居留守をしていると、何度も何度も鳴った。


こんなに鳴らすなんて、誰だろう。


永遠に続きそうだし、なんだか不気味だったから、仕方なく様子を見る事にした。


チェーン越しに外を覗くと、そこに居たのはサクだった。


「サク…?」


僕はチェーンを外した。


「葵、大丈夫か?心配したんだぞ。」


サクは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


それを見た僕も涙が込み上げてきそうになった。


「ごめんね、連絡もしなくて。スマホも電源切ってて…。」


「俺、頼りないかもしれないけど、話聞くくらいなら出来るからさ、辛い時は連絡してよ。 」


サクが優しく言ってくれた。


サクはいつだって優しい。


「…ごめん。言っても分からないと思って。自分の痛みは自分にしか分からないから…。」


サクはこんなに優しいのに、なんで僕は、こうやっていつも意地っ張りなんだろう。


「葵、言っても分からないことなんて言わなきゃもっと分からないよ。」


そんな僕にも、サクは優しく諭す様に言ってくれた。


サクは、玄関先で突っ立っている僕に近付くと、僕のことを抱き締めてくれた。


「さ、サク…?」


僕は驚いて名前を呼んだ。


「すぐに1人で抱え込もうとするの、葵の悪い癖だよ。辛い時はちゃんと俺に言ってよ。頼むよ。葵の悲しむ顔、もう見たくないんだ。」


15cm差の身長。


頭上から聞こえるサクの声が震えていた。


「…サク…ッ、ごめん…サクぅ…!」


僕は堪えきれず、嗚咽を漏らして、サクのシャツを握りしめて、サクの胸で涙を流した。


サクの優しが心に染みて、声にならない。


サクは僕の事を優しく、でも力強く、抱きしめてくれていた。

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