葵のおばあちゃん①

Side 朔也


ある日、葵の家にご招待される事になった。


葵が家でよく俺の話をしているらしく、おばあちゃんが会いたいとおっしゃっていたらしい。


葵、俺の事どんな風に話しているんだろう、と一抹の不安を抱えつつ、お互いバイトが休みの夕方に、葵の最寄りの駅で待ち合わせし、家にお邪魔させて頂いた。


「お、お邪魔します…」


俺は恐る恐る中に入る。


「そんなに緊張しなくていいのに。」


葵は、クスッと笑って言った。


「んなこと言ったって…あ、初めまして!」


葵のおばあちゃん杖をつきながらゆっくりと出てきた。


俺は頭を下げる。


「おばあちゃん、こちらがいつも話してる、七五三掛朔也さん。24歳。」と、葵が俺を紹介する。


「年齢は別に言わなくていいだろ…。」


俺はボソッと葵に耳打ちした。


「朔也さんね。葵からお話をよく伺っていますよ。わざわざご足労頂いて、ありがとうね。」


「あ、いえ。こちらこそご招待頂いて、ありがとうございます。これ、もし良かったら…。」


と、恐縮しながらも手土産をお渡しした。


「まぁ、わざわざすいませんねぇ。そんなに固くならずに、お上がり下さいな。葵、ご飯温めるの手伝っておくれ。」


おばあちゃんは、そう言うと中に入って言った。


優しそうなおばあちゃんだな、と思った。


「僕とおばあちゃんとでご飯作ったんだ。普段、余ったコンビニ弁当ばっかりでしょ?沢山食べてね。あ、あと、お母さんは今日お仕事でいないから。」


葵は、そう言うと急かすように俺の手を引いた。


俺は手が触れるだけでドキッとしてんのに、そんな俺の心情なんて露知らずの様だ。



「うわ、すげえ。」


ご馳走がズラっと並べられたテーブルを見て、俺は、感嘆の声を上げた。


「朔也さん、沢山食べていって下さいな。」


「ありがとうございます。葵にお腹を空かせて来るように言われていたのでもう腹ぺこで。頂きます!」


俺は有難くご馳走を頂いた。


「おいしい?」


「おう、めっちゃ上手い!葵、やっぱり凄いな。」


そう言うと、葵は照れた様に笑った。


「あらあら、いい食べっぷりね。」


おばあちゃんにそう言われ、少し恥ずかしくなった。


「す、すいません。あまりに美味しくてつい…。」


「あら、何を謝ることがあるの?葵も見習いなさい。この子は少食で背もなかなか伸びないから、心配で…。」


「おばあちゃん、やめてよ。」


葵は、恥ずかしそうにモジモジとした。


笑顔の葵も可愛いけど、恥ずかしがり屋なところも可愛くて、ついついニヤけて見てしまう。


「サク、何笑ってるの?」


「はは、なんでもない。」


そんな俺らのやりとりをおばあちゃんは嬉しそうに眺めていた。


「葵っていう名前、私が付けたんですよ。」とおばあちゃんが言った。


「そうなんですか!?」


「ええ。私、碧(みどり)という名前なんですけどね、私の母がオーラが視える人だったんですよ。その母が、私のオーラは緑色だと言って、その名を付けたのだそうですよ。」


「お、オーラ…ですか?」


「不思議でしょう。人間誰しも背中の辺りから薄くオーラを纏っているのですよ。そのオーラの色は、その人の性格を表している。にわかに信じ難いでしょうけど。実は、私も視えるんですよ。葵が産まれた時、とても青く澄んだ色のオーラが視えてね。名前をどうするかで言い争う両親に変わって、私が命名したんですよ。」


スピリチュアル的なものに無縁な俺には、なんだか不思議な話だった。


「ちなみに、僕には視えないよ。だから、おばあちゃんが言うことイマイチ信じられないんだよね。」


「まぁ、生意気な子だね。」


おばあちゃんは笑いながら言った。


確かに、葵、家ではちょっと生意気なんだな。


おばあちゃんと仲のいい証拠だなって思った。


それにいつもより良く喋る気がする。


いつもと違う葵を見る事が出来て、俺は嬉しく感じた。


「朔也さんのオーラは、オレンジ色ですよ。」


「え、そうなんですか?」


「えぇ。オレンジ色は珍しいのよ。自分の事よりも人の世話を妬いてしまうような、そんな暖かい人が持つオーラですからね。朔也さんの人柄を見て納得しましたよ。」


そんな事を言われて俺は恐縮しまくった。


おばあちゃんは、顔が皺でいっぱいになるほどの笑顔を浮かべていた。


その笑顔は、どことなく葵に似ていた。

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