少し止まると書いて"歩く"

ある日、店長と2人だけでの勤務日があった。


「ひまわり君、いい子だな。仕事覚えも早いし、高校生とは思えない程、しっかりしてる。」


店長が腕組みをして、ウンウンと頷きながら言った。


「そうなんすよ。俺みたいなのと違って、葵はなんでも出来ちゃうんで。」


はは、と冗談ぽく言うと、店長が急に真面目なトーンで「なんでお前はいつも自分を卑下するんだ?」と聞いてきた。


「え、いや…」


妙に真剣な顔をされたので、答えに詰まっていると、店長が続けた。


「ひまわり君を救ってあげたの、お前なんだろ?」


「え、救うって?」


店長には、葵の事情を話していないから驚いた。


「事情は知らないが、見ていればわかるよ。ひまわり君が、コンビニに客として来ていた時は、いつも虚ろな表情をしていて、"この子大丈夫か?"と気になっていたからな。シメサクがひまわり君を連れてきた時に納得したよ。助けてあげたんだなって。」


店長は、俺の肩をトンと叩いて、続けた。


「お前は、そういう奴だよ、シメサク。自分の持っている宝石に気付いていないんだ。それを磨き続けろよ。自分を卑下するな。教員免許とるんだろ?合っていると思うよ、俺は。真っ直ぐ目標に向かって突き進め。お前ならやれるよ。躓いたっていいんだよ、うまくいかないときもある。少し止まるって書いて"歩く"になるって、知ってたか?」


急に語り出した店長に驚きつつも、その言葉は琴線に触れるものがあった。


ボクサーという夢を挫折した店長ならではの言葉だったのかもしれない。


「店長、ありがとうございます。なんか染みました。」


「そりゃよかった。」


「これから、金八店長って呼んでいいですか。」


「お前なぁ、俺がせっかくいい事言ってやってんのに。」


そう言ってお互いに笑った。


そういえば、最近天気の良い日が続く。


いつの間にか、梅雨が終わっていたみたいだ。

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