いつも、笑っていなよ。

「うわ、すげー雨。」


ライブが終わり、外に出ると、まさかの土砂降りだった。


帰れなくて困っている人達が屋根の下を溜まり場にしている。


「本当ですね…。」


「くっそ、天気予報じゃ雨降るなんて言ってなかったのに。」


折りたたみ傘でも持ってくりゃ良かった。


そんな後悔をしていると、葵くんが言った。


「駅まで走りませんか?」


「え…?」


「駅までそんなに離れていなかったですよね?雨、いつ止むかわからないし。それに、なんか今、走りたい気分で…。でも濡れるから嫌ですよね…ッ!?」


俺は、葵くんの手を引いて走り出した。


実は、俺も同じことを考えていた。


なんだか、走り出したい気分だった。


屋根の外に出た途端、雨の槍が俺達を突き刺す。


「雨やべ!葵くん、大丈夫!?」


「はい!楽しいです!」


「ははは!俺も楽しい!」


俺達は、雨なんてお構い無しで、濡れながら走った。


キラキラと輝いた街明かりの中、葵くんの小さな手を強く握って。


全力で走ったら駅まではすぐだった。


駅の屋根の下で、俺達はびしょ濡れのまま笑い合った。


「すげー濡れちゃったな。」


「ですね。でも、すぐ乾きますよ。」


子犬のように頭をブルブルと振って、雫を飛ばす彼を見て言った。


「葵くん、いつも笑顔でいなよ。」


「え…?」


「なんかいつも寂しそうな顔をしてたからさ。葵くんは笑顔が似合うよ。俺、葵くんの事、すごいなって思ってるよ。俺はほら、ちゃらんぽらんだし、出来ないことの方が多いからさ。何かをする時はいつも、出来ないことが大前提。だからいつも緊張なんかしない。出来ないなりに全力でやるだけって思ってる。そんで出来たらハッピーって。そんな感じだよ。だからさ、ちょっと力抜いてもいいと思うよ。常に完璧でいようなんて思わないで、肩の力抜いてさ。いつも、笑顔でいてほしいよ、俺は。」


多分、この時の俺はアドレナリンが全開だったんだと思う。


考えるよりも先に言葉が口から次々と溢れ出して、止まらなかったんだ。


葵くんは、少し驚いた顔をしていたけど、こう言った。


「サクさん、僕、本当に楽しかったです。昨日、声をかけてくれて、ライブに連れて来てくれてありがとうございます。」


そして、またニコッと可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「あぁ、俺もめちゃくちゃ楽しかった。あとさ、敬語じゃなくていいよ。名前呼ぶ時もサクでいいし。その方が俺も話しやすいよ。」


「うーん、ちょっと照れるけど、努力してみます…!」


「あーほら、言ってるそばから敬語じゃん!」


「あ、えーと、ありがとう、サク。」


葵くんは、また顔を少し赤らめて、俯きながらも、そう言った。


「俺も、葵って呼んでいいかな?」


「…特別だよ?」


少し照れながらも、初めて冗談っぽく葵は言ってくれた。


いつの間にか、雨は小降りに変わっていた。


夜じゃなかったら虹が見えたかもしれない。

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