初めてのライブ
夕方になり、俺と葵くんはライブ会場まで歩いていた。
「なんか、無理矢理誘っちゃったみたいでごめんな。」
「いえ、経験としてライブに行ってみたいと思っていたので。それに、今日は特に予定もないですし、明日学校でテストがあるから、少し勉強しようかなって思っていた程度なので。」
「明日テストなのに、良かったのか?」
「多分、勉強しなくても90点以上は取れると思います。」
「マジか。すげーな。葵くんって何でも出来るんだな。料理も上手いし。」
「そんな事ないですよ。」
「いやいや、爪の垢を煎じて飲ませて貰いたいくらいだよ。」
冗談ぽく軽口を叩いたけど、俺にはこれと言った特技はないから、少し羨ましく感じた。
「僕、完璧でいなきゃって思っているんです。去年父親が離婚して、お母さんとおばあちゃんと3人で暮らしているんですけど、男は僕だけだし、僕が2人を守らなきゃいけないんです。高校を卒業したら、大学には行かずに就職しようと思っています。」
葵くんの言葉に少し力が入っているのを感じた。
葵くんの家庭の事情を聞いて、彼の普段の寂しげな表情や影のある雰囲気は、そういった家庭環境が背景にあるのだと、その時に感じた。
「葵くんは、まだ高校生なのに本当にしっかりしているんだな。見習わないといけないな。俺はフリーターだし、小学校教員の通信大学も行き当たりばったりな感じだしさ…。」
「先生を目指しているんですか?」
「え、あぁ、まぁ…。なれるか分からないし、そもそも俺なんかに努まるとは思えないんだけど、子供は好きだし、このまま目的もなく生きていくのもアレだなと思ってさ。」
俺は高校生相手に何を喋っているんだろう。
自らダメっぷりを晒して、葵くんがなんて思うか…。
「サクさん、向いていると思います。」
「え…?」
「小学校の先生。サクさん、明るいし、優しいし、なんか人を安心させる雰囲気みたいなのがありますから。」
葵くんの思いがけない言葉。
お世辞だとしても嬉しかった。
そんな風に言ってくれるなんて。
そうこうしているうちに、俺達はライブ会場に到着した。
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