明日も君が笑顔でいるために。
はる
カフェラテと肉まん
Side 朔也
「お疲れ様です!」
挨拶をして、バイト先のコンビニを出る。
スマホを取り出し、ライン、Twitter、Instagramの順で内容を確認し、ついでに明日の天気を調べた。
「明日、雨かよ。」
一人呟くと、誰かが手放したであろう、電線に引っかかった風船をぼーっと見つめた。
俺の名前は、七五三掛朔也(しめかけ さくや)
変わった苗字だと思っただろう。
お察しの通り、どこに行っても「変わった苗字ですね」と言われる。
「そうなんすよ、シメサクって呼んでください。」
その度に俺はそう答えてきた。
そのお陰で、友達は全員漏れなく俺の事をシメサクって呼ぶ。
自分のあだ名を自分で考えて、それを他人に呼ばせるなんて、さぞかし自分の事が好きなんだと思われそうだ。
実際はその逆。
俺はガチで自分の事が大嫌いだ。
去年、大学を卒業して、周りは就職しているのに、俺はフリーター。大学の時にバイトしていたコンビニを継続している。
中学高校時代は部活もせず、明確な意思もなく、中の下くらいの大学に入学。
これといった特技もなく、唯一の趣味は大学時代から続けているバンド。
それも楽器を覚えるのが面倒で、ボーカルをやらせて貰っている。
コミュ力だけは妙に高くて、友達は多い方だと思う。
でも、そんな周りの奴らに比べて俺には何の取り柄もない。
せめて何か目標があれば変われるかと思い、小学校の教員免許を取得するための通信大学に通っている。
でも、それだって、単に子供が好きって言う理由だけだ。
こんな自分が教員になろうなんておこがましいとすら思っている。
そんなことを立ち止まって考えていると、後ろから来た人が俺を追い越す。
「あ…」
思わず声が出た。
横顔でわかった。
いつも来る男の子だ。
毎回決まって、カフェラテと肉まんを買う。
初めて見かけた時、あまりに可愛い顔をしていたから、ボーイッシュな女の子かと思っていた。
レジで「肉まんをひとつ下さい」と言った声が女の子にしては少し低めで、男の子だとわかった。
高校生くらいだろうか。
なんだか、どこか影のある雰囲気で、時々凄く寂しそうな顔をしていたから、気になっていた。
「シメサク?どした?」
「あ、店長。おはようございます。」
今度は出勤途中の店長がやってきた。
髭をボーボーに生やし、奥さんと子供3人の大黒柱である店長47歳。
実は元ボクサーだったらしいが、足を怪我して辞めたとの事。
見た目はなかなかイカついので、店長と俺が別々のレジに並ぶと、お客さんはだいたい俺の方に来る。
「あーあの子、いつも肉まんとカフェラテを買っていくよな。」
俺の目線の先を追って、店長が言った。
「あ、店長も気付いてました?」
「俺を誰だと思ってんだ?いつどんなお客様がいらっしゃって何を買うのか、ちゃんと把握済みに決まってるだろう。」
店長が腕組みをしながら言った。
「流石です、店長。それにしても、食べ合わせ悪くないんすかね?カフェラテと肉まんって。」
俺と店長は、その少年の華奢な後ろ姿を眺めた。
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