懐かしい日を思う。
ヨルノ チアサ
懐かしい日を思う。
僕が小学1年生の時、父と母は離婚し
二つ上の兄と僕は母と一緒に住む事になった。
母は 僕達を養うため 早朝から仕事に出掛け
僕達の下校時間に合わせ、一度帰宅し家事を済ませた後、
また仕事へ行き、夜遅くまで働いていた。
母の仕事が繁忙期に入ると、
朝から夜まで、家に帰れない日もあった。
そういう日のために 母は僕達が好きそうな食べ物を
夕飯用に
18歳になり 大学進学を経済的な理由で断念した僕は
母を兄に任せ、一人上京した。
田舎に住んでいた僕にとって 都会は憧れの場であった。
25歳夏。
上京したての頃は 母と連絡をよく取り合っていたが、
仕事が忙しくなるにつれて 次第に電話も少なくなっていった。
そんな折、長期休暇を取得できた僕は 久しぶりに母へ電話をした。
「ああ、もしもし 母さん元気?今週末、帰省しようと思うんだ。」
突然の電話に母は最初は驚いていたが、
「楽しみにしてるね。」と、喜んでくれた。
「ただいま。」
久しぶりに実家に帰ってきた僕を 母と兄は揃って出迎えてくれた。
「兄ちゃん、久しぶりだね。これ、おみやげ。」
「ありがとう、元気そうだな。仕事は順調?」
「うん、ぼちぼちやってるよ。母さんを任せっきりで、ゴメンね。」
「いや、こっちはこっちで ぼちぼちやってるさ。」
久しぶりに話す兄は昔と変わらず、僕に優しかった。
母がいない時に 寂しがる僕をいつもかまってくれた
兄には感謝しかない。
荷物を一旦かつての 自分の部屋に置き、再び母と兄の元へ行くと
兄は僕を食事に誘ってきた。
「お腹はは空いてる?何か食べに行かない。」
「うん、少し小腹は減ってるけど 帰ったばかりだし
今日は家でゆっくりさせてもらおうかな。」
「まあ とりあえず、座りましょ。」
母の勧めで僕たちはテーブルに腰をかけた。
「いい物があるわよ。」
そう言うと、母はテーブルの上にカップ麺を2つ置いた。
「これ、好きだったでしょ。」
「赤いきつねと緑のたぬきだ。」
とても懐かしく感じた。
「母さんが仕事で帰れない時に よく二人で食べてたな。」
兄はそう言うと、僕の前に『赤いきつね』を
自分の前には『緑のたぬき』を置いた。
だが、僕は赤いきつねと緑のたぬきの位置をさっと入れ替えた。
「なんだお前、赤いきつねが好きだったろ?」
兄は僕に問いかけた。
「だって兄ちゃんも赤いきつねの方が好きだったでしょ。
それなのにいつも僕に 赤いきつねをくれて
緑のたぬきばっかり食べてたよね。」
「ハハハ、気付いてたのか?」
兄は笑った。
「うん、それに一回だけ僕が先に赤いきつねを食べちゃって
お腹空いたって 泣き出した事あったよね。」
「あったね、そんな事。泣き止まないから大変だったんだぞ。」
兄は当時を思い出して笑う。
「その時に兄ちゃんが、半分分けてくれた
緑のたぬきが美味しかくて 好きになったんだよね。」
兄弟の話を微笑ましく聞いていた母が口を開いた。
「じゃあ、今日は二つとも半分ずつ食べたら?」
「そうだね。」
「それ、いいね。」
僕と兄は 母の意見に賛成した。
その日の『赤いきつね』と『緑のたぬき』は格別に美味しかった。
懐かしい日を思う。 ヨルノ チアサ @yorunotiasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます