雪だるまの夢
僕は目覚めると、一面真っ白な世界にいて、目の前の笑顔と目が合った。白いもこもこの体、赤い頬で優しく僕を見て笑うので、この人は僕のママだとわかった。僕は自分の体を見たかったけれど、目を動かすことができなかった。だけど、たぶん、この世界のように白くて、ママのように優しい顔をしているのだと思う。
ママはどこかから帽子と耳当てを持ってきた。口を動かして白い息を吐いているから、何か僕に話しかけているようだけれど、耳のない僕にはなんて言っているのかわからなかった。ママは耳当てと帽子を優しく僕に乗せた。
「似合う~!」
耳ができて、ママの可愛らしい声が聞こえた。僕は帽子や耳当てが自分に似合っているのかわからないけれど、ママが言うからそうなんだろう、と思って嬉しくなった。僕は声を出せないけれど、もし声を出せるようになったら、ママのような可愛らしい声がでるんだろうな。
それから、ママはどこかから細い木の枝を持ってきた。僕の体の右側で何をするのか、と思ったら、僕の体に差し込んで、その木の枝は右手になった。僕の手を握るママの手はとても冷たかった。なぜだか、温めてあげたいと思ったけど、それは無理なことだ。こんなに世界は寒い。僕らは寒い世界で冷たい生き物なんだと気が付いた。でも。
「ずっと一緒だよ!」
ママの心は温かい。そんなの、手をつながなくても僕にはわかった。そして、ママと同じように、体は冷たくても、僕の心もきっと温かい。
ママと遊んでいると、時間があっという間に過ぎていった。だんだんまわりが暗くなっていった。
「ほら、風邪ひいちゃうよ。早く帰りましょう。手袋もしないで…」
どこかから来た大きな人がママに声をかけた。ママのママだろうか。ママは僕を見て、少し悲しげな表情を浮かべた。
「雪だるまと、ばいばいしようね」
大きな人はママと僕を引き離そうとしていた。僕にはまだママのように口がないから、離れたくない、行かないで、と叫ぶことはできない。
「ばいばい」
ママは手を振りながら、大きな人と遠くへ歩いて行ってしまう。ついていこうにも、僕にはママや大きな人のように足がないから歩けない。目を動かすことも、首を動かすこともできない。ママが離れていくのに、ただじっとしていることしかできない。
悲しい気持ちでいっぱいになった。辺りは真っ暗になって、また雪がちらついてきた。
「何を悲しんでいるの」
突然声がした。空から雪と一緒に、真っ白な女の人が目の前に舞い降りてきた。僕は声が出ないのに、僕の目を見ると、気持ちが伝わったみたいだ。
「女の子と別れたのが寂しいのね」
心の中で僕は、そうなんだ!ママに会わせてほしい、と叫んだ。でも、白い女の人は寂しそうな、でも優しい顔で首を横に振った。
「それはできません。あなたは雪だるまですから、女の子とずっと一緒にいることはできないのですよ」
だって、ママはずっと一緒だ、って言ったのに!
「あなたのママと一緒にいた時間を忘れずに、大切にしていてね。そうすれば、ずっと一緒にいられますよ。あなたのママも同じ気持ちのはずです」
言っている意味がよくわからなかった。だけど、僕にはもうできることがないから、ずっとママのことを考えると決めた。
ところで、あなたは誰なの?僕の声が聞こえるみたいだけど。
「私は水の精。またいつか巡り巡って、あなたと会えると思いますよ」
水の精…?水の精は僕にぐっと近づいてきた。
「お休み」
そう言うと、強い風が吹いて、僕の目は落っこちた。何も見えなくなった。
何も見えない真っ暗な中で、僕はママと一緒にいた時間を想って、幸せな気持ちで眠った。僕はこの世界に生まれて幸せだ。ありがとう。
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