第56話 それでも

「――お前とは組まない」


言い切った。言い切ってやった。ホープを完全に拒否した。


「……一応聞いておこう。その理由は?」

「お前の意見には同意する。他人がいなかったら何も出来ないようなゴミ共がのさばってるのは、俺も気持ち悪くて仕方ない」

「ならなぜだ!?」

「簡単な理由だよ――」





















「――俺、お前のこと嫌いだから」



「なっ――」

「嫌いな奴と手を組むなんてやだよ。それに、お前の言う世界に桃はいないんだろ?なら組まない。俺は桃がいないと生きていけないからな」

「――っっ!!」


ホープが両腕の触手を俺に向かって2本伸ばしてきた。どうやら怒っているようでなんの捻りもなく真っ直ぐに俺に向かって飛ばしてきている。結構短気だな。


後ろに下がって触手を避ける。触手は俺が立っていた所にやり投げのようにまっすぐ突き刺さった。


残っていたホープの2本の触手が俺を挟み込むように、両側から襲いかかってきた。怒ってはいるが、まぁなかなか頭を使う手を考えているようだ。


後ろのコンテナに飛び移る。両側から来た触手は俺に当たらず、スカっていた。


「――なぜだ!?なぜ強さを持っているのに、それを活用しようとしないのだ!?」


ホープの触手が4つ重なり合う。触手同士が結合していき、段々と巨大化していった。


「貴様は強者としての自覚がないのか!?自分は上に立つべき強者の中の強者というのが分からないのか!?」


触手は高校での時の巨腕のようにでかく、太い拳へとなった。コンテナを掴めるほどの大きさにまでなっている。どんな原理をしてんだろう。



ホープはその拳を俺のいるコンテナに向かって叩きつけてきた。


軽く後ろを向く。後ろには上から垂らされているワイヤーロープがある。そして、その奥にはちょうどいいくらいの高さのコンテナが積まれてある。


これは運がいいな。今から俺はどっかの蜘蛛男みたいに飛んでやるぞ。



後ろに飛んで、ワイヤーにしがみつく。コンテナは俺が飛んだのと合わせるように、ホープの拳によって叩き潰された。


ワイヤーは俺の体重と重力によって、振り子のように空気を切り裂きながら進んでいった。まるでジェットコースターみたいな圧が俺の体全体を突き刺してくる。


ワイヤーの高さが同じになったと同時に、ワイヤーから手を離して飛び上がった。



黄色いコンテナの上に足から落ちる。脚を少し曲げた状態で落ちたおかげで、落下した時の衝撃を抑えることが出来た。


「――お前は少し勘違いしてるぞ」

「……なんのことだ」

「俺は別に強くない」

「……はぁ?」

「俺は彼女を殺したと思っただけで死のうとしたり、仲間が死んだだけで悲しんだりする心の弱い男だ。強者なんて枠には入らないさ」


弦を少し弾いて、壊れてないかを確認する。最近ずっと酷使し続けていたからな。全てが終わったら修理にでも出そう。


「ここまで来れたのは死んでいった人たちのおかげだ。あの人たちがいなければ俺はここに立っていない。お前の言うところの弱者に助けて貰ってるんだ。そんなのは強者じゃない」


矢をつがえ直す。黒光りする細い矢が、光に照らされて自分が黒色ということを忘れているようだ。


「誰だって同じだ。必ず誰かには支えてもらってるはずなんだ。そんな奴が強者なんかではない。そもそも人間に強者とか弱者とかは存在しないんだよ。スタートダッシュの速度は同じだ。スタートラインの場所が違うだけなんだよ」


肩を鳴らす。

2回足踏みをする。

首を一回転させる。

大きく息を吐く。


「それはオリビアさんだって同じはずだぞ」

「なっ――貴様……なぜ妹の名を……」


なるほど妹か。それなら納得できる。あれだけの新聞を集めるほどその妹のことを大事にでもしてたんだろう。……ちょっと待て。妹?あれ確か30年くらい前のやつだったよな。


じゃあこいつ、今50歳以上の年齢はあるのかよ。見た目若すぎだろ。……まぁ今更こんなことを疑問に思っても仕方ないか。


「お前の意見が正しいなら、オリビアさんは弱者になるぞ。この世は弱肉強食だ。なら、オリビアさんが殺されたのも仕方ないということだな」


ホープの顔に血管が湧いてきている。かなり効いたようだ。



「黙れ!!!今度オリビアの名前を出したら殺すぞ!!!」

「ならさっさとやってみろよ!!まだ俺にまともなダメージも与えられてない雑魚が偉そうな口を叩くな!!!」



ホープが大きく飛び上がった。腕の触手はさっきと同じで、デカい拳だ。その拳を俺に叩きつけてこようとしている。


「馬鹿が……同じようなことしかできないのか?」


俺は横に大きくステップして、隣のコンテナに乗り移った。それと重なるようにコンテナにホープの拳が叩きつけられた。


辺りに轟音が響き渡る。鉄の破片が辺りを飛び回った。


空中にいる間に弦を引く。狙いは首だ。指を緩めて矢を放つ。


矢はホープの首を貫通した。鉄の破片と共に赤い血が辺りに散乱する。辺りの音によって、鮮血が飛び散る音はかき消された。



ホープが体を横にくねらせた。そして回転するようにして巨大な腕を持ち上げ、また俺のいるコンテナに叩きつけた。


俺はバク宙をしながら後ろに下がり、下にあるコンテナの上に着地した。



ホープが俺の隣のコンテナに飛び乗ってくる。巨大な拳になっていた触手はみるみるうちに細くなり、さっきまでの蛇みたいな触手に戻った。


「――貴様はこの場で殺してやる……」

「――やってみろ。ここで決着ケリをつけてやる」


俺はホープを睨みつけた。













続く

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