第46話 火の上に立つ
手のひらと足を同時に使って落下の衝撃を和らげる。しかし俺はスーパーマンでもない。
手足が衝撃に耐えられず、肩から地面に叩きつけられた。衝撃が反発し、体が宙に浮く。そのまま2回目の地面との衝突を感じた。それと同時に磁石が溶岩に落ちる音も聞こえた。
フラフラしながら立ち上がる。痛い……けど耐えられる。腕は折れてない。まだ使える。足も大丈夫。頭を打たなかったのは不幸中の幸いだな。
遠くにいた桃の方を見る。既に部屋から出てきて、手前の橋にいるようだ。心配をかけてしまった。
「楓夜!!」
桃が叫んだ。耳は聞こえる。思っていたよりダメージはないな。体も全然動く。
「大丈夫だ!!中に戻ってて!!」
叫び返した。桃は心配そうな顔を浮かべたが、部屋に入っていった。とりあえず安心だ。
下を見てみる。あのデカいクジラは下の溶岩の中を結構速いスピードで泳いでいた。
わざわざ戦う必要もない。とゆうかこんなやつ倒せない。幸い近くに階段がある。そこを上がれば目的の扉に着く。
立ちあがって走り出す。あのクジラが何をしてくるか分からない。さっさと行った方が得策だろう。
階段を2段飛ばしで走る。かなり高い階段だ。一段一段が1m近くはありそうだ。今の俺のジャンプ力を測ってみたいな。
ゴゴゴゴゴゴ……。
何か聞こえた。排水溝が水を吸い込む時のような音だ。何が起こっているんだ。あのクジラが未知数すぎて怖い。今まで会ってきた化け物達とは違う雰囲気を感じる。
体の体内に熱を帯び始めた。目の水分も無くなってきた。やっぱりここに長時間居続けるのはまずい。とりあえずさっさと部屋に入らないと。
ボォン!!
爆音が耳を貫いた。反射的に横を向く。何も無い。何も起こっていない。あんな音がしたのに何も起こっていない。おかしい。
ふと上を向いた。
そこにはまるで隕石のように大きい球体の溶岩が、俺のいる部分に落ちようとしている映像が見えた。
「やっべ」
さらにスピードをあげた。残り数メートルで扉に着く。溶岩はまだ高い位置にある。まだ間に合うはずだ。
呼吸を忘れてひたすら上がる。体を最大限伸ばして、走行距離を増やす。瞬きを無くし、足の痛みも無くした。心臓はロックの如く鳴り響いている。
溶岩はもう目と鼻の先にまで迫っている。皮膚が焼けていくのが何となくわかった。
ドアノブに手が届いた。体を引き寄せてスピードに乗りながら部屋に入る。入ると同時に扉を閉めた。
体が地面に落ちる。呼吸ができない。さっきまで忘れていたツケが今になって出てきた。肩が大きく上下する。肺が両方とも傷ついているせいか、全然酸素が回ってこない。
足も今になって傷んできた。なんなら体全体が痛い。鈍っていた痛覚が戻ってきてしまったようだ。
近くにあった机を支えにして立ち上がる。まだ体は思うように動かないが、頭は動くようになった。
辺りを見渡す。白い正方形のような空間。他に扉もない。何らかの資料や顕微鏡がそこら辺に散乱している。どうやらここは研究室のようだ。近くにコーヒーメーカーもある。俺はコーヒーは苦手なので飲めない。別に関係ないか。
フラフラと辺りを散策する。特にめぼしい物がある気配は……あるにはあるが、俺は海洋専門なのでそういう人間的な物には疎い。
桃は頭もいいし、医者志望だからこういう薬とか詳しいんじゃないだろうか。だったらこれをあっちに持って行ってあの子に見せれば……。
……どうやってあっちに戻ろうか。頼みの綱だったクレーンも壊れてしまったし、ここから動けねぇ。
とりあえず周りをさらに物色した。何かがあるはずだ。そもそもこんなところに一つだけポツンと部屋を作るわけが無い。何かがあるはずだ。
しばらく探していると、赤いレバーを見つけた。
「……なんだこれ」
レバーを引いてみる。ちょっとだけトラップがあるか気になったが、特に何も無いらしい。
外で機械が動く音がした。音につられて外に出てみる。
外はさっき溶岩が降ってきたせいか、地面が焼け焦げており臭かった。あと死ぬほど熱かった。
そして横を見てみると、そこには細い橋ができていた。その橋は反対側の桃がいるところにまで繋がっていた。
「……すごいな」
結構凝った仕掛けをしているようだ。だけどわざわざこんなことする必要はあるのだろうか。……まぁいいか。
下にはあのクジラがいる。この橋はそれほど高いところにある訳でもない。いや高いには高いが、さっきのクレーンの高さよりかは低い。だからあのクジラに襲われる可能性もある。
そのため桃をこっちに連れていくっていうのもできればしたくない。だけどあっちにものを持っていくとしても、俺じゃあ何を持っていったらいいか……。
……危ないが仕方ないな。桃にはこっちに来てもらおう。もし、俺が行ってる時に橋が壊れたら資料とかもなくなってしまう。
死ぬほど嫌だが、桃がこっちに来てもらわないと何も出来ない。仕方ないな。俺は走って外に出た。
続く
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