第110話 クラスは【王子】?

「テディ。もうばれている」


 メンバーの紹介を済ませ、エトの自己紹介を始めようとしたとき、遮って告げた。


「何故!」


 セオドアは驚愕していた。髪の色はまったく違うはずで、今までばれたことはなかった。


「さすが〔アンサインド〕の皆様。——セオドアです。テディとお呼びください。王子扱いはダメですよ?」


 口に人差し指をあてて悪戯っぽく微笑んだ。

 一同頷く。可愛いと感じるより、この現実に引き気味だ。


「ようやく兄さんの居場所を掴んで、いてもたってもいられず押しかけてしまいました。先生たちも同様とのことなので許してくださいね」

「兄さん」


 女性陣は事前知識があるにも関わらず、思わず反芻してしまう。改めて実際に耳にすると破壊力は絶大だ。

 先生陣はそっと視線を地面に向けていた。

 アーニーは苦笑を抑えつつ、皆に語りかける。


「俺が悪ガキだった頃の弟分ってことだ。俺もびっくりしたよ。皆もあまり謙遜しすぎることなく接してやってくれ」

「十五年も会ってない上に染めている僕を気付いてくれましたからね」

「髪染め教えたの俺だしなあ、それ」

「ヘンナを使って髪を染める、黒染めのマニキュア。本当に便利です。あれは王宮でも革命的ですぐ広がりましたよ? 仲の良い大公や貴族をそれで取り込むことができたぐらい」

「役立ったならよかった」


 エトはヘンナというハープを使って髪の毛を染めていたのだ。さらりと人脈拡大の利用したことをほのめかすセオドアに、アンサインドの面々はさらに引き気味だ。


「悪ガキってレベル? どの口がいうのでしょう」

「二人で学園都市混乱に陥れたよね?」

「良いこともしましたし。多少はね」


 教師陣三人が異議を唱えていた。


「というわけで、改めてよろしくお願いします。まずは闇の飛龍討伐をさくっとしてしまいましょう!」


 こんな事態で逆に助かったのかもしれない。

 要らぬ詮索を後回しにできるからだ。


 落ち着いたところで、ウリカとエルゼに締め上げられる未来は見えているが、それは覚悟の上だ。

 木造の城壁の上に登り、空を見る。

 メンバーたちもそれぞれ上にあがって遠目で見るが、何も見えない。


「ここからはさすがに見えないんじゃない? 遠望の魔術でも辛いよ」


 ポーラも使える、遠隔地を拡大し見ることが可能な望遠魔術だ。


「射程を四倍にする」

「ああ…… アーニーは相変わらずね」

「懐かしいですね。王城からの遠距離魔法狙撃」


 さらりと王子が恐ろしいことを言ってのける。


「【ファア・ビュー】」


 アーニーは魔法で遠くを見渡す。


「いたな。かなり離れている」

「どうやってここへ引っ張るかですね。また私が行きますか?」


 ジャンヌが名乗りを上げた。


「いや、まだ獲物を物色中といったところか。すでに襲われた町はいくつかあるだろうが…… 」

「強襲の名は伊達じゃないってことか。まったくカイザーベヒーモス見習って欲しいね」


 レイドなのにノンアクティブモンスターのカイザーベヒーモスはまた湧いて復活していた。


「俺が注意を引きつけて、ポーラがワイバーンをたたき落とす。そこでみなで攻撃だ。目標は翼。魔力で飛んでいるが、翼を破壊したら飛行能力はかなり落ちるはずだ」

「おっけー!」


 ポーラが杖を取り出し、にかっと笑う。


「まだレクテナから借りてたのか! それ!」

「私新しいの作るからいいよ。次は神の一品を目指すから……」

「ちゃんと買うから!」

「じゃあそれを原資に!」

「俺がいうのもなんだが、過剰付与中毒者だよな」

「アーニー様が言ってはならない一言だと思います」


 エルゼが突っ込まずにはいられない。


「おっと墓穴を…… 近付いたところでコンラート、頼む。射程は彼より短いがファイター職は弩で攻撃を」

「お任せあれ」

「まっかせて!」

「はい!」


 コンラートとロジーネ、ユキナがそれぞれ弓を掲げる。


「叩き落としたらなんとかなりそうだ。竜特攻持ちのパイロンに、俺とニックの武器が竜特攻だからな」

「ありがてえ」

「俺は剣気ないから、火炎付与してそのままエネルギーにしている」

「火竜の牙ならではの応用だなあ、それ」


 二人は竜牙剣装備だ。飛龍も竜特攻は有効なのだ。


「どうやっておびき寄せるの?」

「詠唱長いから使いたくないんだが…… 【スナイプ】を使う」

「あ、それ【マジックブレッド】系の魔法ね」

「飛距離重視重視の応用呪だな」

 呪文の詠唱を行おうとするアーニーをエトが遮った。


「待ってください。皆さんも僕の周りを。支援します」

「ん? そういえば役立つって言っていたな」

「ええ。兄さんと一緒に戦うために得た力。ようやく活かせます」

「大げさだから!」

「この感じ、覚えがあります」


 ため息交じりにエルゼが呟く。


「ではいきますよ」


 アンサインドのメンバーが集まったことを確認し、テディは剣を天空に掲げ宣言する。


『我が剣に集え、勇士たちよ! 勝利は我らの手に』


 全員の体が光り輝く。


「これは?」


 コンラートが尋ねる。


「皆さんの行動回数を一回増やします! 僕の職業、【王子】のユニークスキルになります」

「ちょ」

「王子すげえ!」

「うっそん」

「そんなスキルあるの?」


 一同絶句した。行動回数を増やす。魔法ならともかく、スキルでは聞いたことがない。

 ウリカがアーニーに聞いた。


「それならアーニーさん五回行動?」

「……そうなるな」

「兄さん? え?」

「テディ。俺は今SSRなんだ」

「SSRでも、三回…… そうか! 兄さんの体質か!」

「相変わらず察しがいい」

「やっぱり兄さんが一番だ!」


 テディが興奮していた。

 エルゼがこめかみを抑える。連想する人物が脳裏から離れなかった。

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