第111話 巨大レイド【闇の飛龍】

「【スナイプ】起動! 【マジックランス】発動!」


 詠唱を終え、光の槍を召喚する。

 遠くにいる闇の飛龍に狙いを付ける。


「ウリカ頼んだ」

「任せてください!」


 アーニーもまた前衛の制限を受ける。MPの最大容量が低いのだ。

 アーニーの体が輝いて随時MPが回復されていく。


 虚空に五つの光弾が現れる。

 光り輝く槍が現れ、アーニーは光弾をそれぞれ槍に装備する。

 狙いをつけ、槍の穂先から光弾を発射した。


 光弾が闇の飛龍に直撃し、苦悶の声をあげる。

 こちらの方角を睨み付け、ほぼ水平の体勢になって飛んでくる。


 続けざま、二発、三発と撃つ。一発は回避された。

 残りの二発も感覚を置いて発射する。黒の飛龍は一発目は回避したが、回避した先に飛んできた光弾に命中した。合計3ヒットだ。


「二発回避されたか」

「あの距離で当てられるの? ありえない」


 ポーラが呆然とする。同じ古代魔法の使い手であり、いかに非常識か痛感しているのだ。


「ダメージは雀の涙だ。やはり糞硬いな、レイド」

「闇の飛龍はレイドのなかでもかなりの強さだからね。カイザーベヒーモスが可愛く思える」

「俺はパッシブを書き換える。あとは頼んだ、ポーラ」

「おっけー!」


 アーニーは場所を退き、ポーラとコンラートに場所を譲る。


「射程範囲確認。祝別装填。【チェインライトニング】」


 鎖状に絡み合う雷撃が闇の飛龍を襲う。

 動きを拘束されつつも、彼らを睨み付けながらなお、凄まじい飛翔スピードを維持しつつ飛んでくる。


「レジストされている、か。これでもダメなの?」


 ポーラが歯がゆさを隠しきれない様子だ。

 コンラートが射撃を開始した。鋭い狙撃さえ、飛龍の鱗を通さない。


「なんて堅さだ!」

「空飛ぶ要塞だな、あれは。ブレスも強力。そろそろくるか。——ジャンヌ!」

「はい! 【聖旗】&【神聖防御壁】」


 味方の能力アップと防御力アップを同時に使いこなすジャンヌ。

 闇の飛龍はブレスを吐いた。

 全員すぐに防御壁の下へ逃げ込む。

 轟音と爆発音。【タトルの城塞】でなければ耐えきれなかっただろう。


「あのブレス闇属性?」

「ああ。かすっただけで視界が殺される可能性がある。神聖防御壁で威力を殺してあれだ。連発はできないだろうが」


 ジャンヌの疑問にアーニーが答える。

 闇の飛龍は大きく旋回し、視界から消えた。


「嫌な行動にでたな。あの飛龍。あの動きは世界旅行ワールドツアーだ……」


 パイロンが飛龍の動きを分析する。龍は専門だ。

 世界旅行とは、飛龍系モンスターが好む戦術だ。 守護遊霊たちの俗語スラングでもある。

 破壊力の高い攻撃を放ち、すぐさま遠くに離れ、目標上で大きく旋回する。

 いたずらに時間を浪費させられ、人間相手に根比べに持ち込むのだ。


「【鎖状雷撃】で動きは鈍っている。あと一手欲しい」


 ポーラが呟いた。


「わかった。ジャンヌ、ラルフ、コンラート。一緒にこれるか?」

「任せてよ」

「おう!」

「はい!」


 アーニーが呼び寄せた者はすぐに集まった。


「コンラート! こちらを持って行きなさい!」

「レクテナさん! ありがとうございます!」

 

 コンラートはレクテナから矢を受け取るのを待ち、彼らはタトルの城塞すぐ外の、開けた場所に降りた。

 アーニーは地面に手をつき、呪文を唱える。


「これが使えるかどうかは一か八か。あれのヘイトは今ポーラだろう。闇の飛龍がきたとき、全力でヘイトを稼いでくれ」


 三人はアーニーの作戦に同意する。

 アーニーは五回行動できようが、魔法での攻撃が非力だ。相手の抵抗力を抜くことはできない。威力が半減されてしまうのだ。

 しばらくして闇の飛龍が姿を現した。ポーラを狙うべく、旋回する。


 コンラートが天空の闇を射る。命中した矢は爆発する。レクテナの魔法付与だ。

 続けざま連射する。その間二人の騎士もヘイトを高めるため挑発を開始する。


 地面にいる虫けらを潰すべく、闇の飛龍は距離を置きながらアーニーたちの頭上に移った瞬間——


「【アンチエアマイン】」


 アーニーが呪文を起動させた。仕掛けておいた対空地雷呪。

 地面の魔方陣から輝くらせん状の光の帯が現れ、闇の飛龍を打つ。


「対空地雷呪ってなんすか、マスター」


 呆然とするジャンヌが思わず確認してきた。


「見たまんまだ。巨大な蜂や竜と戦うため、飛行している敵を襲う地雷だな」

「なんでもありっすね! さすがマイロード!」

「褒められているように思えないが……」


 彼らがそんな会話をしている間、ポーラが祝別ダメージクリスタルを装填させた、魔法を発動させる。


「さあ、いくよ! 【コンセントレイト】そして——祝別入りの【スーパーグラビティ】。地面に叩き落としてみせる!」


 二回行動。連続魔法によるダメージでは無く、レジストされない攻撃魔法を重視した戦術をとる。

 闇の飛龍が重力波に逆らえず、地面に叩き付けられる。数十倍の重力が発生しているのだ。


「すぐには近付いちゃだめよ! 重力の場のなかでこけたら目玉も落ちるからね!」

「こわ!」

 ジャンプ体制に入っていたパイロンが踏みとどまる。


 超重力が発生した場のなかで、もがく闇の飛龍。皆が魔法や弓、弩で羽を狙って攻撃する。


「そろそろ切れるかな。抵抗力が高い、さすがレイド」

「よくやってくれた、ポーラ!」


 ポーラの警告にアーニーが礼をいう。


「今のうちに…… 【ディグウェル】」


 地面を穿ち、落とし穴を作る。

 そのまま闇の飛龍は自重ではまってしまった。


「動きは封じた。やろう」

「皆、ポーションを飲みながら戦闘だ。カスッただけで致命傷になるからな」


 集中攻撃を仕掛ける面々。

 口々にポーションを加えている。不格好だが仕方がない。


 落とし穴を強引に抜け出した闇の飛龍は怒り狂っていた。


「く、レイドが……!」


 皆の顔色が変わった。


 レイドが大きく吼える。

 体に亀裂が入り、その亀裂から赤いオーラが漏れ出した。


「へ、変身した……」


 テテが呆然と呟いた。

 そう。新形態。二段階変身を闇の飛龍はやってのけたのだ。


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