第82話 【一夜城】出現
【鋼の雄牛】チームは、うち捨てられた城塞の修理を行い、来たるべき日に備えていた。
特Aと呼ばれる彼らに、A、B、Cランクの各冒険者チームが再合流する形になっている。
資材は現地調達が基本だ。最寄りの名前のない町での調達は不可能に近いので、小さな村や離れた町で買い出しを行っている。
大型強襲型モンスター討伐のための特殊形態だが、ここまで戦力が集中すると政治的にも発言権が増し、解散することはまず、ありえない。
冒険者ランクが低い者は補修や訓練に明け暮れていた。
相手からは【アンサインド】というチーム名で、【城塞戦】の告知受諾があった。
勝利条件はいまだ保留。総人数は二十名も満たない。哀れなものだった。
そして開始前日。九日が過ぎようとしていたその日。
「ロドニー様! 報告が!」
斥候にでていたレンジャーがやってきた。
「どうした?」
「奴らの拠点位置が判明しました」
「ようやくか」
建築中の資材に放火や、木こりたちを妨害しようとしたが、ことごとく未遂に終わった。
建材は直接町に運ばれ、木こりはエルフ、ダークエルフの連合軍ともいうべき哨戒によって守られていた。奇襲する前に警報が鳴るのである。
「そ、それが…… 一夜にして巨大な城塞ができているのです!」
「なんだ、それは」
「文字通りの意味で。この城塞の二倍はあるであろう、堅牢な城塞が完成しているのです」
「何をいっている。この城塞だって、なかなかの規模だぞ」
二百人の冒険者が寝泊まりできる城塞だ。いくら町にストックがあったとはいえ、すぐにこれ以上のものが出来るはずもない。
この城塞も古くはあるが、かなり堅牢に作られている。
「はい。ですが敵の城塞も非常に堅牢なようで。試しに火矢を射かけてみたのですが、弾かれるばかりで火が付く気配がまったくなく」
攻撃はしてみたようだ。
「
必死なレンジャーの物言いに、面倒くさいと思ったものの、確認することにした。
ドルフと二人で、木造櫓に上ったロドニーは絶句した。
「嘘だろ、おい」
距離的には二時間ぐらい離れた場所にあるだろう。川沿いの手前に、巨大な城塞が完成していた。
「幻影の類いかもしれんな。伝説の【一夜城】じゃあるまいし」
「一夜城だって、王都の亜人たちのふかしにきまっているだろ」
彼らだって一夜城伝説は聴いたことがある。
そもそもそんなことが出来るわけがない。何かトリックでそうみせただけだ。
「そうだな。深夜、どうがんばったって、あの建物は無理だ。そもそも俺たちも監視はしていた。あんな城塞ができる気配はなかった」
「あの町の連中全員かき集めたって無理だ。木材があったとして、製材とかどうするんだよ。こっちだって丸太のままの応急処置なのに」
「だよな。頭の足りない向こうのレンジャーが、幻覚でブラフか…… そういえば火が付かないっていってたな」
目視で確認しても半信半疑だった。一夜で作るなど、ありえない規模の城塞が見えたからだ。
「幻影なら火が付くはずないか。弾かれたように見えただけか」
「そんな小細工しかできないとは可哀想に。ドルフ、計画に変更なしでいいか」
「ああ。万が一、あれが本物でも何人で守る? 相手の人数はしらんが、町の人間を総動員というのもなさそうだ」
チームに入っていない人間は復活推奨の恩恵はない。
「町は守りを固めているな。【城塞戦】の復活を警戒している? 領主は手強いかもしれない」
「あれを落とした方が早い」
二人は突如できた城塞を脅威とは見なさなかった。
ほんの少しだけ違和感に近いものを覚えたが、気にしないようにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
名も無き町では、歓声が上がっていた。
「あれだ! あれが伝説の【一夜城】だ! やっぱり伝説は本当だったんだ!」
「朝起きたら何かすげえの建ってるんだけど!」
「やっぱりイリーネさんとアーニーさんは、すげえ!」
「生きた伝説を見ることはできるとは……」
人間も亜人も関係なく、町の者たちが歓声をあげた。
亜人のなかには感涙に泣き崩れる者もいる。かつて自分達を迫害した戦争と、その救援のために出現んした一夜城を思い出しているのだ。
ハイオーガの老婆は手を組み祈りを捧げていた。
「みな! よくやってくれた! あれはわしらの一夜城でもある!」
鍛冶屋親方であり、ドワーフ代表のグラオは叫んだ。
「不眠不休を強制し迷惑をかけた。本当に申し訳なかったと思う。あとはアーニー殿に任せよう!」
「何が迷惑だ。あんなもの見たら疲れも吹っ飛ぶわな!」
「あんな堅牢な城塞が落ちるなんて考えられねえ!」
「ちきしょう! あの戦いに参戦できないなんて。これほど悔しい思いをするとは!」
ハイオーガの警備隊長が声を張り上げる。
「皆の者、油断はするな。相手は拠点でよみがえる侵略者。町の守りもさらに固めよ!」
「おう!」
「そしてアーニーさんからの伝言だ。『みんなありがとう』と」
「あの人は…… 感謝しないといけない連中は俺たちだってのに」
「絶対勝ってくれよな」
「俺たちも油断せずこの町の防衛網を固めよう。何せイリーネ様設計の城塞だ。負けてなるものか」
「おう!」
種族などもはや彼らには関係ない。
住人全員が、侵略に対して一丸となっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます