バグ持ちの壊れたキャラだった冒険者。ガチャ確変SSRとなり不具合仕様認定で【真の壊れ性能】に!〜ユニーククラスの知識で自然と共生する産業革命!
夜切怜
SSR覚醒の時
第1話 頭リセマラと呼ばれた男
石竜の迷宮。ここは中堅冒険者が訪れる、人工物のモンスター中心のダンジョン。
天然の洞窟ではなく、壁自体がかすかに発光する、人工の迷宮だった。
「ん? あそこにいる冒険者はガーチャーか?」
冒険者四人組が通りかかった時、一人で戦闘している男の姿を見かけた。外套を深く被っており、その顔は見ることができない。
男はガーゴイルと一人で戦闘している。
探索中の冒険者が気にするほどには有名人らしい。
「あのソロ専の変わり者ね」
隣にいた女冒険者も頷く。
「確か、盗賊系魔法ファイター、みたいな変わった職らしい。中途半端な万能職はパーティの居場所がないからな」
「不具合持ちの冒険者らしい。パッシブスキルが持てないそうだ」
「この中難易度の迷宮をソロできるのに? 不具合持ちとは可哀想だ。頭リセマラしすぎたんじゃねえか?」
「頭リセマラはひでえなおい。――ガチャを回すために効率追求でソロ専に徹しているらしい。寂しいヤツだからそっとしておこうぜ」
「ある程度尖ってないと、パーティはどうしても不要だからね」
冒険者パーティとはそれぞれが足りないスキルを補って初めて成立する。
戦う者。魔法を使う者。罠を外す者。魔法を使う者。器用貧乏な職ほどパーティには居場所がないのだ。
彼らとて、使えない万能職を入れる余裕などない。
「倒れていたら拾ってやろう。それぐらいは同じ冒険者としてな」
「そうね」
彼らはそうして先に進んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
人影が、駆け抜ける。外套を目深くかぶっている。顔はよくみえない。
子供と見紛う体つきはとても冒険者には見えない。
背後には、ガーゴイル——悪魔をかたどった石像型のモンスターが追いかける。
少女が通路の端を曲がると——小さな部屋。つまり行き止まりだ。
絶望の表情を浮かべ、壁を背に、ガーゴイルの到来を待つ。敵は多分、ここが行き止まりだと知っていたのだろう。
「助けが必要か?」
男性の声がした。
通路に面した壁に一人の男が壁を背に、座っていた。
彼女と同じように外套をかぶり、口下しかわからない。
少女は指示に従い壁から離れようとして、男が手をあげ押しとどめた。
「そこにいろ」
少女は頷き、目を瞑った。
男の考えがわかったからだ。
バサッバサッ
石の翼を大きく羽ばたかせるガーゴイル。
追っていた少女が正面にいる。息の根をとどめるべく、距離を縮める——
男が外套を脱ぎ、呪文詠唱に入る。黒髪だ。精悍な顔つきだが、線は細い印象を受けた。
「【マジックアロー】」
ガーゴイルは背後から突然光の乱舞が見舞われた。
マジックアロー、といはいったが、マジックアローはせいぜい3、4本である。こんな10本以上のマジックアローはマジックアローではない。矢の爆発だ。
半身が溶けたような状態のガーゴイルが背後を振り返ると、座ったままの男がいた。ちょうど部屋の入り口であり、少女を殺すことに夢中で気付かなかったのだ。
男が両手を組み合わせる。
「【マジックランス】」
空中から輝く柱が生まれ、ガーゴイルを貫く。
ガーゴイルは音もなく消えた。
少女はその光景を呆然とみていた。一人でこんな迷宮で? どうして? 数々の疑問が浮かぶが、やるべきことはある。
「あの。ありがとうございました」
男は手をひらひらさせた。礼など不要ということだろうか。
「見事な魔法でした。魔法使いの方がここでソロですか?」
一人での探索は珍しい。とくに魔法使い系など、紙装甲だ。
「ソロだな。魔法使いではないが」
「あんなすごい魔法なのに?」
「俺は不具合持ちの【壊れ】だからな。パーティにいると邪魔になるんだよ」
不具合持ち。それは冒険者にとって持病のようなもの。
なんらかの不具合を抱えて生まれてしまったため、通常は冒険者の道を諦め一般人として生きることになる。
「嘘…… あんな魔法が使えてこんな場所でソロができるのに?」
この迷宮は中難易度にあたる。冒険者組合でもパーティ推奨の難所ともいえる。
不具合持ちがソロできるような場所ではないのだ。
「嘘じゃない。見るか? 俺のギルドカード」
男は懐に、ギルドカードと呼ばれるものを取り出して掲げた。
冒険者に発行されるもので、ソウルランクやパラメータと呼ばれているものが表示されている。
「☆☆が二つ? アンコモンで……」-
アンコモンにしては高い能力値だが、別記載の職業に気が付いた。
「なにこれ」
呟いてから自分の失礼な物言いに、顔を真っ赤にした。
「ごめんなさい」
「初めてみたか」
青年の口下に笑みが浮かんでいる。いたずらが成功した子供のように。
「とくにこのクラス、アサルトパイオニアって…… はじめてみました」
「珍しいだろ? アサルトパイオニア――戦闘工兵ってヤツだ。戦争職だからな」
「アサルトパイオニア?」
「超マイナー派生職。だから
「それは……」
「いうな。わかっている。ユニーククラスといっても珍しいだけ。コレクターの
青年は苦笑した。
「私もあまり人に言えたような職ではないですが。——アーネストさん、とお呼びしていいですか?」
「アーニーでいい。俺のことより君のことだ。どうしてこんなところを一人でいるんだ。見たところ、回復系だろう」
「……恥ずかしい話なのですが、冒険者組合に顔を出したところ、私が未所属の回復系の術士としったパーティに強引に連れ出されてしまいました」
「回復系も楽じゃないな。——なんていうかご愁傷様、だな。で、そのパーティは」
前衛余りはこの世界共通。
「私が未熟なのだからでしょうか。連れ出されたものの、パーティにいれてもらえず、迷宮で放置されてしまって…… あげく飛び出したモンスターに狙われる始末で今のありさまです」
ショックからか、表情は暗く、恐怖も入り交じっている。
パーティなのにパーティに入れてもらえない。普通にあることではない。
「外部ヒーラーか…… クソが」
思わず吐き捨てたアーニー。そういう行為に心当たりはあったが、推測通りだとかなりの外道行為になる。今彼女に言うべきことではなかったので胸の内にしまっておいた。
「災難だったな。一人で迷宮の外へ出ることはできるか?」
「無理です。ここが何処かも分かりません……」
消え入るような声。
「よし。いくか。外まで送っていこう」
「いいんですか?」
「ここで見殺しにするほど鬼じゃないぞ」
苦笑しながら迷宮を歩き始める青年。少女は慌てて追いかけた。
二人は洞窟の外にでた。かなりの距離を歩いたが、青年が手慣れていたのだ。
安全と思われる森の近くまで移動する。
「本当にありがとうございました」
「気にするな」
「気にします。あの、遅れましたが私の名前は——」
アーニーが止める。貸しを作るために助けたのではないのだ。
「いいって。お節介ついで一言。一つパーティ選びの忠告だ。今回のようにいきなり連れてこられないためにも」
「はい」
「君が一緒に冒険したい人と組め。いなければ、君を必要とする、一緒に組みたいと言った人と冒険するといい。——都合の良い後衛職になりたくなければ、な」
「はい。心に刻みます」
「大げさだ」
アーニーは苦笑した。
「これをやるよ」
アーニーがポーチの中から、いくつか細長い容器を取り出す。ガラスに似た物質に入った容器だ。彼女も知っている。ポーションだ。
「?」
小首をかしげながら受け取る。
「こんなにもらえませんよ!」
渡された小瓶は効果の大きい回復アイテムやMPポーションばかりだった。安くはない貴重品だ。
「ガチャのはずれ。あまりもんだ、もらっとけ。ヒーラーとはいえ、いやヒーラーだからこそ回復薬は持っておけ。——うるさいパーティが多いからな」
少女が深々と礼をした。
頭をあげたときには、彼はもういなかった。
予想はしていた。少女は嘆息しつつも、思い出して笑みを浮かべた。
「アーニーさん。また逢えると、いいな」
願いを込めて。
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