遅すぎる

アエーシュマ

狩りの時だ

やはり貴殿か。

なにを驚いたんだ。番はいま身重なのだ。自分を捨てた奴をわざわざ会わせる訳がないだろ。


まぁ、落ち着け。こっちも別に喧嘩したい訳じゃない。

ん?なんでこんな立派な家を?一応この辺りの山とこの町の領主だから。独り身だったのでいらなかったが、もうすぐ子供が生まれるので捨てなくて良かった。


爵位持ちなのに、何故王都に住まないか?馬鹿言え。田舎の貧乏貴族とでも思っただろ?田舎だからって見下すような真似でもしてみろ。国王陛下の耳に入ったら貴殿の家は潰されるかもしれんぞ。


ははは、冗談だ。うちの領地は辺境ではあるが、国の守り壁の一つなのは嘘ではないがな。民のために身を捧げるのは当たり前だが、領主はのんびり暮らしなんて出来ないだろ?そこに、男も女も関係ない。アルファである以上、民を守り導いているのは当たり前なのだ。


ここの山はもちろんだが、森も危険だ。我々はこの森を「選別の森」と呼ぶ。名前通り、飲み込むモノを選ぶ。あそこに不意打ちに入ったら決して出られない。だが、稀に、生き残れる奴もいる。我が番もその一人だ。


アルファだけど、あんまり「運命」って言葉を好まないが、あの出会いはまさに運命その物だった。


びっくりしたよ、あの時。狩りに出たら、いきなりオメガの甘い匂いがして、そしたらボロボロな女性が崖の底にいた。本当、生きているのは奇跡だった。


最初は大変だったよ。よっぽどアルファにひどい目にあったらしいから。いいや、彼女ほ一言も何されそうなのかは言っておらん。だが、調べれば出るわ出るわ。はぁ、本当、嘆かわしい。オメガを大事にするこの国は、いつの間にか「アルファ至上主義」、「アルファ性こそが全て」とういう実に下らない思想を持つ連中がうじゃうじゃ出てくるとはな。場合によっては国家転覆行為だぞ。だが、まぁ、それは陛下にお任せとしよう。あの方は少々甘いところあるが、出来る男だからな。これからはきっと楽しい狩りの季節になるだろうな。


さて、貴殿がここに来た理由は分かった。何故わかるかって?ここは田舎だが、有能な人物が多いんだぞ。王都や他領にいる部下は毎日情報を送ったのだ。だから貴殿が「運命の番」とやらとはうまくいかず、なかなか子供が出来ないのもしっているぞ。それだからかな?焦って、焦って焦って目が覚めたかな?それとも誰かが下らない計画でも吹き込んだかな?例えば、「オメガに子供を孕ませ、生まれたら殺す」とか?自分の身勝手な理由で、捨てるだけで飽き足らず自分の欲求不満な衛兵どもの慰めモノにしようとされる元婚約者を。


ははははは!!愉快だ!

まさかここまで腐ったとはな!

安心しているよ。これで心置きなく、色々暴れることが出来るからな。


さてと。ダーマット男爵よ。この姿、耳を見たとき、なんと思った?獣人?魔物混じり?は!どっちもどうでもいいがな。要は、初めて目にかかるだろ?貴殿も、周りの奴らも、いなかったろ?陛下の瞳は普段普通のものだからなおのことだ。


とある科学者や歴史学者はこの状態をこう言ったのだ。『先祖返り』、と。

血や種族はもちろんだが、これはね、どんな人にでもなり得るモノだよ。強いて言えば、先祖に近い生き方をすればそうなれる。これにより身体の一部が変異し、主に耳、尻尾、そして眼。それらは我らの先祖である獣のと似ている。そして、その名前通り、先祖の如く、優秀な能力やずば抜けた身体機能などをその身に受けて生まれた。そう。まるで貴様らが言ってた「純粋なアルファ」の理想姿であろう?生憎、うちはアルファ同士の親から生まれたわけではない。生んだ親は男性オメガだった。陛下の母上も、オメガである事実を忘れたわけがなかろう?


くくく・・・やっと気づいたみたいだな?貴様らがほざいた「アルファ同士から生まれたモノこそが支配人種」とはいかに下らない事で、実際は見下した田舎モノやオメガから生まれたの方がその理想な姿に近いなんて。


イングリッドに会いたい?

番をを呼び捨てにするのはやめてくれ。さらに罪を増やす気か?彼女はやっと婚約破棄や愛した相手に殺されかけたの苦しみから立ち直って、番と結婚を受け入れてくれたんだ。


黙れ。オレはさっきから貴様の手足をちぎって生きたまま犬の餌として檻へ放り込むを気持ちを抑えるのは必死なのだ。これ以上怒らせるな。


そうそう。

さっきのはまだ終わっておらんのだ。実はな、全員って訳ではないが、もう一つあるのだ。先祖返りの特徴。感情が高ぶるとね、我々は黄金の眼になる。そう。こんな風にな。


そして、先祖様が一番感情が高ぶるの状況は、勿論ご存じだね?

そう。

狩りの時だ。


つまり、そういう事だ。


ダーマット男爵よ。今から、貴様はオレの獲物なのだ。

貴様も、士族も、自らの欲望のために我が番を亡き者とする連中も、貴様の頭をこうまで腐っていく原因になったモノたちも全部、オレの獲物だ。

連中は殺す。だが、貴様には殺すなんて生ぬるい事はせん。

陛下や治安機関に言っても良し。

だが、その時、やり方を変えるだけだ。

朝、寝床のそばに愛馬の生首とか転がるかもしれん。また別の日、通った道にはどこからともなく、岩落下事故が起こるかもしれん。


分かるな?

貴様らがどれほど足掻いても、これからは獲物として生きる他ないのだ。

逃げ、死の恐怖と共に生きる。貴様も、家族も。


だが、オレだって人の子だ。獣じゃない。

ゆえに、今から三時間をくれてやる。

そこまでこの領地から脱出出来れば、今日は大人しくする。

だが、一秒でも遅れてみろ。


その時、貴様には死ぬ以上の苦しみを与えよう。


いいか、愚かなダーマット男爵の者よ。

貴様がどんなにイングリッドとの婚約破棄を悔やんでも、もう遅い。遅過ぎるんだ。

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遅すぎる アエーシュマ @Asmodai

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