肆話:なきり外泊 其の陸

ー陸ー


「うーん、やっぱこの中にはいないのかなぁ」

 深夜【凪切なきり日吉ひえ神社】の庭園近くにて、私と幽真はるまは今日一日の結果報告をしています。

夜の静けさにより、昼間だと神聖に思えた神社の敷地内も何処となく薄気味悪く思えてくる。

まぁ、此処は現役の神社なので【怪異】が入り込む事は無いはずだけど。

よく心霊スポット紹介等で廃神社が挙げられるが、あれは大間違い。

基本的に神社は【結界】の役割を持つ施設の為、外部から【怪異】・【霊体】が侵入する事は出来ない。

大半の場合は尾が生えただけか、だけ。

信仰と畏怖は紙一重の存在だから、その感情が新たな【怪異】を生み出してしまったのだろう。

つまり、には神社には【怪異】が発生する事は無い。

 「……クラスの中に居るっていうのが勘違いだったりして」

「それは無い……と思うんだけどな」

 どうやら幽真はるま自身も自信が無いようだ。

前に言っていたが、幽真はるま磐戸いわとに戻ってきて以降、自慢の【霊能探知】が上手く作動していない節があるらしいので、それも関係しているのだろう。

 「はぁ……あ、そだ。折角こうやって二人きりなんだし、なんか雑談しようよ」

「そうだね……そういえばさ、みこと、ナデナデされてどうだった?」

 「……あの、何故その話題掘り下げるんです?」

 変な事言わなきゃよかった。

いや、まぁ、そりゃあねぇ、期待はしてたさ。

面白い掛け合い出来たらなぁって。

ただね、辱めを受けるのは、ほんと勘弁してほしいんですよ、私。

散々テニスの件で弄られて、心身消耗状態なんですよ、私。

今日の朝の様子を見る限り、案外幽真はるまもそっちの話をネタにする側みたいだし。

気合を入れろ、九院坂くいんざか尊命みこと

油断するな。

「なんかの顔赤かったからね。ちょっと気になっただけ」

 「嘘!!私、顔に出てた!?え、待って。恥ずかしいんだけど!!」

「……ってすぐ引っかかるよな」

 嵌められた。

綺麗に幽真はるまトラップに乗っかってしまった。

気合十分だったのに、相手の方がはるかに上手であった。

 うん、あの占いのせいだ。

何処で聞いたかもわからない『青春』の二文字に私は見事に嵌められて、動揺しているのだ。

……なんて言い訳を考えたけど、無理あるな、これ。

相手が男子ならまだしも、同性の西洋系美人にナデナデされた事を気にしてる訳だしね。

よし、腹を括ろう!

さぁ幽真はるまよ、私をイジれ!

もう私は諦めた!

盛大に、ドーンとネタに消化してくれたまえ!!

「で、嬉しかったの?」

 「……悪い気はしなかったです」

「そっか」

 会話が途切れる。

え?

幽真はるまさん、続きは?

「さて、他になにか話題はーー」

 「ちょっとちょっと、はるまさん、はるまさん。えっと、もう終わりですか?」

「ん?あぁ、ごめんごめん。まだ続きの感想あったのか?」

 「いや違うから。そっちじゃないから。私にさ、辱めを与えたってのに、その後の反応が『そっか』は素っ気なさすぎでしょうが。折角の私の覚悟が無駄になっちゃったじゃないか!!」

「だって、そこまで興味無いからさ。純粋に嬉しかったのか、確かめようと思っただけだよ」

 「あれ?朝、縊齋いつきと会話してる時に『お邪魔だったかな?』みたいな事ぬかしてた記憶があるんだけども……」

「だって、縊齋いつきと盛り上がってたみたいだったし、割り込むのも良くないなって。そういえば今更だけど、何であの時『冷やかすな』って言ったんだ?」

 何だよ、この地獄は。

勝手に私が深読みして、勝手に恥ずかしがってただけって事じゃないか。

よっぽど辱めだよ、これ!!

こんなに幽真はるまが恋愛に興味ないなんて思うわけないじゃんか!!

 ……いーや、違う。

私は分かっていたはずだ、幽真はるまはそっち系にに興味が無い事を。

愛する妹一筋で、そういう話題に一切乗り気じゃない事を。

そう、つい先日まで……今日の朝までの私と同タイプだった事を。

 そうか、そうだったのか……。

やっぱあの占いに私はまんまと踊らされ、感情が独り歩きしてしまってるだけなのか。

「話す事も特に無いみたいだし、折角だから、夜の湖の景色でも見て……ん?みこと?なんかまた顔赤いみたいだけど、どうした?」

 「……なんでもないっす、はい」

 なんか一気に疲れがきた気分。

あぁ、一人で勝手に盛り上がっていた私が恥ずかしい。

恥ずかしすぎて、たまらなすぎて、イッキュウさんみたいな語尾になっちゃったよ。

あぁ、恥ずかしい、恥ずかしい……。

 そうして何とも言えない気だるさを抱えた私は、幽真はるまの後に続いて石鳥居前に向かった。


 現在地、石畳の参道脇。

私達はとあることに気づき立ち止まった。

「あぁ……神様……どうか、宜しくお願いします……」

 そう、夜中だというのに敷地内に微かな声が響いている。

方角的に本殿の前辺りのようだ。

それにしてもこの声……。

「神社前に誰かいるみたいだね」

 「そうみたいだね……覗く?」

「覗くか」

 人間ってのは他人の秘密を知る事が大好きな存在だ。

無論、私達だって例外では無い。

盗み聞きはあまり好ましい行いだというのは分かり切っている。

それでも、興味が沸くのが人間の性というやつだろう。

……そう考えると縊齋いつきの傍観も同じような事なのかもしれない。

 本殿に近づくにつれ、声ははっきりとしてくる。

やっぱ、この声って……。

「僕に良き理解者が現れますように。僕がもっと輝けますように。僕を……」

 本殿にて祈りを捧げていた人物、それは左藤さとうつばさだった。

そう、日中に私とテニスをした彼。

いつも英語を交えた言葉遣いでカッコつけている彼。

そのツバサがなんと、普通の言葉遣いで、神に願っているのである。

これが彼の素の姿だというのだろうか。

信じられない、その言葉に尽きる。

 「……見たくなかった」

「うん、見なきゃよかった」

 完全に幽真はるまと意見が合った。

人って本性はこんなに外面と違うものなのかな。

でも、私は私なわけで、たぶん幽真はるまもこれが素のはずで……。

《……本当に?》

 頭の奥でそんな言葉が響いた……そんな気がした。

だけど、きっと、気のせいだったのだろう。

「あぁ……僕は、もっと自信を持ちたいです。僕をより、僕自身が知りたいんです。貴方様は何でも、願いを叶えてくれると聞きました。どうか……どうか僕の願いを聞き入れてはいただけませんでしょうか」

 あー、なるほどね。

の話を聞いて、あらゆる願いを叶えてくれると勘違いしたんだな。

彼は自分が信じられないからこそ、あのような目立つ言動で自分を錯覚させようとしてたんだろう。

自分自身を信じたいから。

何から目を背け、何を求めているかは私にも分からないけども。

きっと、そういう事なんだろう。

《……何故?》

 なんで私は彼の心持を理解出来たんだろうか。

そんな疑問は後からショックに塗り替えられる。

 ……私、これに負けたのか。

いや、実際負けたんだけどさ。

ぼろ負けなんだけどさ。

なんていうか、私が情けなく思えてしまって仕方が無い。

「……帰ろっか」

 「そうしよっか」

 うん、私達は何も見ていない。

ただ夜の神社を散歩しただけ。

忘れてしまえよ、ホトトギス。

 しかし、幽真はるまは3歩程度でその足を止めてしまう。

この流れ……身に覚えがある。

私は一つの可能性を抱き、幽真はるまに問いかける。

 「はるま、もしかしてだけど……感じた?」

「……今日のは冴えてるね。うん、おそらく【霊気】だと思う」

 嫌な予感は当たったようだ。

そして此処は神社の境内。

【霊気感知】で外部の【怪異】を検出するはずが無い。

つまりは……。

「う、うひゃあぁぁー!!」

 情けない叫び声が境内に木霊する。

この声は本殿前のツバサの声!

 「はるま、行くよ!!」

 私と幽真はるまは反射的に飛び出す。

ツバサは腰を抜かして震えている。

そして、その視線の先には……。

「……クワガタ?」

 幽真はるまの言うようにそこにはクワガタ……正確にはそのような姿をした異形の存在が居た。

人の頭と同じくらいの体長、目は一つで人の眼光のようである。

羽は生えておらず、その身体は筋肉のような繊維が集まった集合体だ。

クワの部位はまさにハサミそのもので、少し錆びているように思われる。

そして何より……。

 「いやいや、多すぎでしょうが」

 なんとその数20超え。

その上今もどんどん増えてくる。

どうやらあの御神木から湧き出しているようだ。

「エン……ガチョ……エンガ……チョン……」

「キリキリ……だいしょう……もとむ……キリリ……」

「じーげんぴ……チョキン……ジャキン……」

 意味不明な単語を繰り返し、クワガタは自慢のハサミを擦り合わせる。

恐らくは願いを叶える代わりに代償を求める、神の真似事。

この様子を見るに、大した知性を持たない低級【怪異】、【害異】の類だろう。

「早く片付けないといけないね」

 「そうだね、駆除しないと」

「ゆ、ユー達、あれは、な、何なんだい?あんなモンスター、僕……じゃなかった、ミーはスケアリーで仕方がないよ。ほら!!この場はさっさとランアウェイ↑しよう!ミー達じゃどうにも出来ないからさ、ストロー↑ングでスプレンディドッ↑なアダルトパーソンを呼びに……ってうぎゃあぁぁ!!君、何持ってるの!怖い怖い!!何だよ、その薙刀!!さっきまで持ってなかったじゃんか!!や、止めて!!それ以上僕に近づかないでっ!!」

 ツバサは私が心深より薙刀【天祐恢々てんゆうかいかい】を取り出した事で、取り戻しかけた個性を完全に失ってしまったようだ。

……別に変なキャラ演じる必要も無いのにね。

「薙刀も持ってるんだ」

「まぁ私、【霊具】使いですし、お寿司の手巻き寿司。ついでに言うと、今日のテニスで少しだけ返せたのは、薙刀使うときのひねり具合を意識してラケットを振った事が影響してたりしてなかったり」

「それだとどっちなのか分からないんですが。あとさ、連続でボケられると返しが追いつかなくなるから。そうだな、僕は戦力外だし、取り敢えずツバサに【詠唱】掛けて移動させる事にーー」

 「いや、にも戦ってもらうけど?」

「え?いや、だって僕……」

 ごちゃごちゃと自分の弱さを語り始める幽真はるまに有無も言わせずにを手渡す。

この数だと一人でも駆除要員が居たほうが良いだろう。

「これは……短刀?」

 「『慧眼けいがん』、私の練習用に使ってた短刀の【霊具】。勝手に【霊力】吸い上げてくれるから、【霊具】初心者でも扱いやすい。ツバサへの【詠唱】は後回しにして、片付けるの手伝って!」

「……足手まといになると思うけどな」

 しぶしぶではあるが、幽真はるまも重い腰を上げてくれるようだ。

これでだいぶ楽にはーー。

 「おっと!!危ないなぁ!!そうだよね、それなりに会話してたから待ちくたびれちゃったんだよね。まぁ、その気持ちも分かる。けどね、これが漫画とかの世界だったら許されざる事だよ。さて、そんなフライングの罪を犯した君は〜……でっでーん!飛んでっちゃえ!!」

 私達が攻撃を開始する前に一体のクワガタが飛び出して来たものの、私はその鋭い顎を上手く【天祐恢々てんゆうかいかい】に噛み込ませ、身体を入れた大幅な振りによって相手を星の輝く夜空へ投げ飛ばす。

これこそほんとのフライングって事。

 「じゃ、今度はこちらから行かせていただきましょうかね!イッチ!にぃっ!さんっ!しぃっ!ごぉっ!ろっく!しちぃっ!はっち!⑨!10コンボだドン!!」

「ゲームセンターに必ずといっていいほどある超絶有名太鼓遊戯かな?」

 残念だ、ツッコミ担当幽真はるまでもさり気なく紛れた⑨には気が付かなかったか。

ま、言った本人にしか分からんよね、普通。

 私は勢いのままに【天祐恢々てんゆうかいかい】を振り回す。

かすった程度でも消滅する所を見るに、低級の中でも相当弱い部類なのだろう。

「容赦無いね、みこと。【怪異】にも人権があるんじゃないの?」

 「この子達は知能もまともにない【害異】だからね。意思疎通を行えず、襲いかかってくる【怪異】は【害異】として【霊能者】による駆除が認められてるんだよ」

「なるほどね。じゃ、僕も気兼ねなくやってやるか!とりゃあっ!!」

 幽真はるまは叫んで一体のクワガタに飛びかかり、そして刃は空を切った。

クワガタは微動だにしておらず、何事かと首辺りを軽く傾げる。

幽真はるまもそれに合わせて首を傾ける。

少しの沈黙が夜の境内を包み込む。

「……お、おりゃあっ!!」

 幽真はるまは何事も無かったかのように叫んで、同じクワガタに飛びかかる。

そして刃は再び空を切った。

クワガタはようやく状況を理解したようで、ハサミをチョキチョキと鳴らして威嚇ーーいやこの場では挑発というのが適切だろうーーをし始める。

「……だから足手まといになるっていったろ?」

 「その割には手加減してたみたいな口ぶりだったけどね」

「うぐぅ……」

 幽真はるま、相当【霊具】の扱いに慣れてないんだろうな。

はぁ、仕方が無い。

此処は【霊具】使いのプロフェッショナル、九院坂くいんざか尊命みことが華麗な手本をお見せしますか。

 「はるま、刀はね、手だけを動かすんじゃなくて、こうやって身体全体で振りかぶるのが正しいんだよっ!!」

 私は先程からカチャカチャとハサミを擦り合わせる煩いクワガタに目掛けて【覇斬】を放ち、思い切りストレートに振り飛ばす。

直線上に居る他のクワガタを巻き込み、石鳥居の間にホールイン!!

クワガタは穏やかな【朧湖おぼろこ】の水面に2・3度波紋を広げ、その姿を消した。

うーん、思ったより上手く行かないもんなんだね、石切りーー強いて言うなればクワガタ切り。

「……ってさ、案外戦闘狂だよね」

 「いやいや~、はるまさん。照れちゃうじゃないですか、やだ~」

「褒めてないんですけど」

 「私にとってはこの『楽しみながら戦う』スタイルが認められた感があって嬉しーーっと、君達はほんと話してる最中に割り込んでくるね!!」

 噛み付きに突撃してきたクワガタを払いのける。

気付けば辺り一面クワガタまみれ。

それなりにぶっ飛ばしたはずなんだけどなぁ。

もしや無限湧きか?

 「キリないね、これ」

「多分だけど、あの御神木が依り代に成っちゃってるんだと思う。だからまずは、あれをどうにかしないと」

 確かにこの【怪異】群は御神木から出現している。

信仰の対象は裏を返せば人の思いの拠り所。

今回の大発生の理由はいまいち分からないけど、思いの拠り所からこうして【怪異】が誕生する事はごく自然の事だ。

 「じゃあ、あの木切ればいいのかな……ぐへへ……環境破壊は気持ちイイZOY☆」

「『アニメ版星のカー〇ィ』の知識まであるのか。は守備範囲、広いね」

 「この状況で感心されても困るんですが。常識的観点からこの私のボケを否定するのが、の役割でしょうが!!」

「え?なんで僕怒られてんの?さっきは誉め言葉として受け取ってたよね?じゃ、じゃあご期待の言葉を言わせてもらうね」

 「よっ!!待ってました!!」

「状況読めてないのはどっちだよ……確かに御神木の伐採の効果はあるだろうけど、同時にこれは信仰の対象。人々の生活を昔から支えてきた存在をこの程度の理由で消し去る許可は僕らには無い。ついでに今の時代、自然愛護に厳しいからね」

 「最後のいる?」

「うん、いる。だって今の、御神木でさえ切り落としちゃいそうだから」

 「冗談だよ、さっきの」

「うん、知ってる」

 そうして討議している内にも続々とクワガタの群れは増え続ける。

幸いなことに此処は境内なので、【結界】のおかげで【怪異】群が外部に出ていく事は無いだろう。

しかしながら、それは内部に【怪異】が溜まり続けるという事。

下手すれば、や家族、お泊り会の参加者すら巻き込みかねない。

「ぎゃあぁぁぁぁー!!!」

 近くでけたたましい悲鳴が聞こえ、私達はその方向に目を向ける。

それは正面鳥居付近でパニックに陥っているツバサと彼を囲むようにして群れるクワガタだった。

あー、ツバサの事、すっかり忘れてた。

位置的に鳥居さえ潜れば【結界】があるのでツバサは逃げ出せるのだが、【怪異】を知らない上に混乱の境地に立っている彼には到底その考えは浮かばないだろう。

距離的には私達とそれなりに離れており、間には無数の 【怪異】。

 さて、どうしたものか。

他人事のように、冷静にすべき行動を分析していた時、それは起こった。

それは突然やってきた。

 白い何か……平べったくてゆらゆらと漂う細長い物体が私達やツバサ、【怪異】の集団を取り囲む。

一瞬視界内が完全に白一色に塗り潰され、色が戻った時には既に決着が付いていた。

そう、すべてのクワガタ【怪異】がその白い物体につけられていたのだ。

何百といた【怪異】すべてが、だ。

「これは一体?」

 「……布、かな」

 落ち着いて見てみると、白い物体はどうやら布のようだった。

クワガタは必死にハサミで切ろうとするが、歯が立たないようだ。

「え?え?え?今後は一体何だっていうんだよぉ!!」

 鳥居前のツバサがそう叫んだ瞬間、彼の目の前に使が舞い降りた。

使……それは決して比喩では無い。

確かにその人物の周囲にはひらひらと布切れが漂っており、その姿は翼の生えた人間と言っても差支えの無い程だったのだ。

「え?君はーー」

「ツバサ君、夜はあまり騒がないのが常識、だよ。『沈黙は金なり』ともよく言ったものだね」

 使はツバサの言葉を遮り、彼と顔の位置合わせる。

そして、こう続けた。

「俺の目をちゃあんと見て……気霽れては風新柳の髪を梳る、氷消えては波旧苔の鬚を洗ふ……まづ筑紫には彦の山、讃岐に松山降り積む雪の白峰、河内に葛城、名に大峰、丹波丹後の境なる、鬼住む山と聞こえしは、名も恐ろしき雲の奥、なつかしや……これで、おしまいおしまい、っと」

 ぱんっ、と使が一拍すると同時に、ツバサは力なく石畳に横たわる。

今の【詠唱】……なんだろう、何かが引っかかる。

何処かで私、聞き覚えが……。

《……》

 一瞬頭痛のような何かを感じたが、それはすぐに消え去っていった。

そして抱いた違和感も使の次なる行動に飲み込まれた。

「……困り事があったらいつでも言ってっていったのになぁ。そうしたら、もっと早くにケリ、付けられたのに」

 使がそう言って指をパチンと鳴らす。

同時に布に縊られていた【怪異】全部が一斉に弾け飛ぶ。

そして、使はゆっくりと私の方を振り返る。

「いつでも頼ってくれていいんだよ、九院坂くいんざかさん。俺はいつだって、準備は出来てるんだから」

 天使ーー白神しらかみ縊齋いつきはそう言って、軽く微笑んだ。

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