弐話:みこと開き 其の終
ー終ー
「よし、今日こそは返事を聞くぞっ!」
私自身に喝を入れて、
此処は【
数年前に新しく立て直されたと話題の校舎は、背後にそびえる【
中等部時代から見てきたとはいえ、いざ入学となると中々に緊張するなぁ。
私が校門前で喝入れをしていたのにも当然理由がある。
これから協力してもいいという了承を!
どうせ放課後に事務所に寄ることとなるのだから問題はない……昨日の夜までそう思っていた。
しかし、実はそれすら伝えそびれているのだ。
だからこそ、今日、学校に
玄関にて係の生徒からクラス表を受け取り、指定のクラスに向かう。
私のクラスは1-C。
この学校では進級によるクラス替えが行われない為、三~四年間の学園生活をそのクラスメイトと共に過ごすこととなる。
「ねぇ、君。そっちは職員棟だよ。C組はもう通り過ぎてるよ」
「え?」
私はその言葉と共に肩を叩かれ、驚きで後ろを振り返る。
背後に居たのは白髪で長身の男子生徒。
……おまけにかなりのイケメンだ。
「あ……その、ありがとうございます。で……なんで私のクラス、知ってるんです?」
「ははっ、俺も同じクラスなんだよ。さっき用紙貰ってるのチラ見してさ」
「なるほど……」
危ない、危ない。
義務の追加で背中が重くなっていた所為でクラスを見逃してしまっていたようだ。
彼が教えてくれていなければ、危うく初っ端から迷子という大やらかしをしでかす所だった。
「じゃ、用事があるのでお先に失礼」
「え、あ、ちょっとーー」
自己紹介をしようとした矢先、彼は走って廊下の奥に姿を消した。
……荷物、クラスに置かなくてよかったのかな?
とりあえず気を取り直して、私は深呼吸をしてから1-Cと書かれた教室の扉を開く。
早く来たためか、まだ数人程度しか到着していないようだ。
席は5列で、1列が6~7席。
黒板の座席表では、私の席は3列目の一番前の席のようだ。
席に着いた後、まだ確認していなかったクラスメイトの把握をするため、クラス表を確認する。
先程の彼がどなたなのかも予め知っておいた方がいいだろう。
ークラス表ー
担任:
生徒No.1 :
No.2 :
No.3 :
No.4 :
No.5 :
No.6 :
No.7 :
No.8 :
No.9 :
No.10:
No.11:
No.12:
No.13:
No.14:
No.15:
No.16:
No.17:
No.18:
No.19:
No.20:
No.21:
No.22:
No.23:
No.24:
No.25:
No.26:
No.27:
No.28:
No.29:
No.30:
No.31:
No.32:
No.33:
一通り読み終える。
……あれ?
見覚えのある名前が合ったような?
そんな時、右隣の席から机を叩かれた。
隣ってことはつまり4列目の一番前だから……。
相手の検討が付いたのでそちらを向く。
「やぁ、おはよう。みことは元気にしてた?」
案の定
「おはよ、こんな偶然ってあるんだね。よろしくね、はるま!」
「こちらこそよろしく」
「あ、そうだ。今日の放課後時間ある?」
「もしかして事務所に行くのか?」
「それもなんだけどさ、返事を聞いてなかったから」
「返事?」
「ほら、神社で話してた時にーー」
キーンコーンカーンコーン。
会話を中断するようにしてチャイムが鳴った。
もうホームルームの始まる時間みたいだ。
「あ、鳴っちゃったね。じゃ、誰かに聞かれる心配が無いように一階の西階段辺りで集合で」
「分かった……西階段ってどこ?」
「あー、玄関に校内地図あるから、それ見といて」
「りょーかい」
こうして私達の学園生活は幕を上げた。
「ははは、断るはずがないじゃないか。確かに返事はしてなかったけど、わざわざ聞くようなことじゃないってば」
「まぁ、そうなんだけどさぁ。気持ちが変わることってあるかもなぁって思ってー」
入学式も無事に終了し、放課後を迎えた。
なんやかんやでクラスメイトとも仲良くなり、義務の重みは取り除かれた。
折角一緒に遊ぼうと誘われたのに参加出来なくて残念だ。
そして、今最後の重みから開放されたところである!
どうやら私の考えすぎだったみたい。
「でも良かったぁ。協力しないって言われたらどうしようって心配してたからさぁ」
「ははは、みことは心配性だなぁ……そういえば髪、切ったんだね」
「あ、気付いた?」
「そりゃあ、あんな長かった髪が無くなったら誰だって分かるよ」
そう、私は先日美容院に行ったのだ。
そして半年以上切っていなかった髪を肩までバッサリと切ってもらった。
ロングの中のロング、スーパーロングな髪の毛を、セミロングに。
もう私には必要ないから。
切り捨てなきゃいけなかったから。
「あ、あの石結局どうしたの?」
「当然今持ってるよ。ほらこれ」
私はリュックの手前ポケットを見せる。
そこには糸細工のアレと共に例の石が入れられている。
「あのお守りと一緒に入れてるんだ」
「うん。もう失くしたくないし、見やすいとこに置いとこうかなって思ってね」
「なるほどなぁ。あー、一昨日の記憶が戻ってきたぁ」
「大変だったね、ほんと」
「いやいや、僕はみこと程何か出来たわけじゃないからなぁ。ほんと足ばっか引っ張ってごめんね」
「感謝したいのはこっちの方だよ。それと……『ごめん』使いすぎだよ、はるま」
「え、そう?みことも割かし使ってると思うけど」
「断然はるまの方が使ってるよ。はるまが『ありがとう』を連発しないようにって言うように、私も『ごめん』って何度も言われると逆に申し訳なくなるからさ。お互い気をつけようよ!」
「……みことは言いくるめが上手いね」
「お?嫌味かぁ?」
「いーや、誉め言葉だよ」
こうやって話してると日常を楽しんでるって心から感じる。
こんな普通の日常を送るのなんて何時ぶりだろう。
……いつまでも続けばいいのに。
「さて、そろそろ事務所に案内してよ」
「あー、その前に【怪異】の情報をまとめたいけどいいかな?」
「全然かまわないよ。何処に行くの?」
「ん?移動はしないよ?」
おやおや、【霊能探知】持ちの
「えっと、もしかして、この階段ですかね?」
「うん、そう。この学校の階段は12段なんだけど、この階段だけ13段になる時があるって噂があってね。その調査だよ」
「なるほどねぇ。でも、特に反応はないな。多分外れだと思う」
「なーんだ、デマ情報かぁ。でも、一様確認しよう」
私は階段の段数を数えながら階段を登る。
1……2……3……。
「じゃあこれ数えたら事務所向かおうか」
「え?」
「え?違うの?」
どうやら本当に気付いていないらしい。
4……5……6……。
「もしかして、まだあります?」
「うん。まだまだ。多分今日で終わらないよ」
「……学校の怪談程度にそんな時間割く必要あるかなぁ。どうせ大した事ないでしょ。依頼とか優先した方がいいだろうに」
「いや、それが大したことあるんだよねぇ。だって……」
8……9……10……。
「
「……まじ?」
「正確には中等部からの依頼。この学校周辺にやたら実害のある【怪異】の出没例が多くてね。その原因を探してるの。これまではこっちの校長先生が【怪異】否定派のせいで立ち入りできてなくて……だから私が選ばれたの。内部調査が出来る人間ーーつまり生徒としてね」
「確かに【怪異】多いとは思ってたけど、そういうことだったのか」
11……12……。
「だから、はるまの協力が欲しいの。もしかして、問題あった?」
「むしろありがたいよ、協力させてもらえて」
13……。
「はは、そう言ってもらえて何より……って13!!この階段13段だよ!!」
「いやいや、こっちからは12段しかないよ。数え間違いじゃない?」
「論より証拠!ほら、はるま!確かめるよ!!」
「……案外大変かも、この仕事」
「ふふ、私の職場は過重労働ですぜ。ほら、早く数えて!」
「はいはい、分かりましたぁ……」
こうして私達の【怪異】探索は幕を……いや、扉を開けたのだ。
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