ねずみ花火

シヨゥ

第1話

 追い込まれた時の爆発力というものは凄いものだ。そんなことを友人の発信内容を見つつ思う。ネズミは追い込まれてネコを噛むということわざがあるが、彼は追い込まれて社会に食らいついていた。

 インドアで大人しい性格だった彼。それが彼女に振られ、会社に振られ、親に振られと経験したところでいきなり変化した。

「もうどうにでもなれだ」

 そんな発信が始まりだったと思う。海に山に川にとありとあらゆるアウトドアスポーツに手を出しはじめた。毎週のように上がる写真に僕ら友人連中はざわつく。

「体力が足らん」

 そう発信すると今度はジムに通い始め、毎日のようにトレーニング内容を報告しだした。

「食事にも気を使わねばならないな」

 そして今では料理教室にも通っているようだ。

 そんな忙しい彼に友人の一人がこう尋ねる。

「どこにそんなバイタリティを隠し持っていたのか」

 と。すると彼はこう返してきた。

「バイタリティなんてない。ヒーヒー言いながら走っていないと恐怖に追いつかれる。ただそれだけだ」

 恐怖によって火のついた彼は今日も走り続ける。そんな彼を止めるのは野暮というものだ。せめて燃え尽きたときに手を差し伸べられるよう準備をしようと思う。

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ねずみ花火 シヨゥ @Shiyoxu

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