我ら魔法少女カンパニー

美作美琴

プロローグ 魔法少女はいます(但し少女とは言ってない)


 グオオオオオオオッ!!


 とある都市のオフィス街、夜の静寂しじまを破り轟く不気味な咆哮。

 おおよそ人間や野良の動物の物とは異質なその叫び声は異形の存在から発せられていた。


 巨大で歪な楕円から生えた虫を連想させる四肢。

 漆黒の靄に包まれた身体に怪しく紅く光る眼らしき物が全身にびっしりと配置されたその気味の悪い姿はその手のグロテスクなものに対して耐性の無い者が見たら卒倒するのは間違いないだろう。

 生物なのだろうか?

 その生物、否……怪物はオフィスビルが立ち並ぶ裏路地をゆっくりと進んでいく。

 だがそこに怪物を見下ろすようにビルの屋上に立つ三つの人影があった。

 暗がりで顔は見えない、しかし外灯の微かな光が浮かび上がらせる三人のシルエットは特徴的であった。

 華奢で小さい体躯から判明するのは少女である事。

 彼女らの纏う衣服はフリルやレースの付いたミニスカートやロングスカートである事。

 更に彼女らの正体を特定させるのはそれぞれ手に持ったステッキ状の物体だ。

 こういう出で立ちの少女を人々はあるカテゴリーで呼ぶ。


「ウヒーーー……これまたキモいのが出たねぇ」


 眉を顰めるブロンドツインテールの少女。

 口元を白手袋をはめた手で押さえる。

 胸元にピンクのリボン、黄色いプリーツのミニスカート姿、右手には鳥の翼の様なオブジェクトの付いたステッキを持っている。


「見た所バグタイプ、レベル2くらいかしら、楽勝だわ」


 屋上の縁に腰掛けていた別の少女は天然では有り得ない群青色のロングヘアーを翻し軽く跳び跳ねその場で立ち上がる。

 高所恐怖症でなくても肝が冷えそうな行動だ。

 服装も髪と同じブルー系で纏めておりミニとまではいかない短めのボックススカート、肩止めのマントを纏っている。

 手には俗にハルバートと呼ばれる先端が斧の様になっている長い槍を持っていた。


「油断はダメよラピス、いつでも気を引き締めなければ……」


 茶髪を夜会巻きに纏め、飾り帽を右側面に付けた三人の中で一番大人びた少女が群青ロングの娘、ラピスをたしなめる。

 赤を基調としたコーディネートの衣装、上半身はフリル付きのケープを纏い、チャイナドレスの様なサイドにスリットの入ったロングスカートを履いている。

 そして手にはアタッシュケースを下げていた。


「ハイハイ分かってますってカーマイン先輩、じゃあ私から行きます!!」


 躊躇なく五階建てのビルの屋上から飛び降りるラピス。

 

「はっ!! ブルーフォールスラッシュ!!」


 漆黒の怪物目掛けハルバートを振り下ろす。

 弧を描く青白い閃光が上空から路面に向けて一気に落ちていく。


 グゲゲゲゲゲ!!


 ラピスの渾身の斬撃は怪物の左前脚を切断、バランスを失った怪物は左側に傾きアスファルト路面に倒れ込んだ。


「どう?」


 フンと鼻を鳴らし怪物に背を向けたまま勝ち誇った表情のラピス。

 しかし怪物の身体に動きがあった、身体の正面からじわじわと突起が現れ、突如高速で打ち出されたのだ。


「あの子ったら!! カナリア!! お願い!!」


「オッケー!!」


 カーマインの指示でカナリアと呼ばれたツインテールの娘が動く。


「バードストライク!! イッちゃってーーー!!」


 カナリアが掲げた翼の生えたステッキから無数の鳥型をした光が怪物に降り注ぐ。


 ギョワアアアアアア!!


 鳥型の光は嘴で怪物を貫き路面に貼り付けにする。

 怪物の背中はまるで金色の絨毯の様になっている。


「今よラピス!!」


「分かりましたカーマイン先輩!! とーーーーーっ!!」


 ラピスがハルバートをグルグルと高速回転させ怪物の足の全てを切り落とした。


「よくやったわ!! 後は私に任せて!!」


 屋上から飛び降りて来たカーマインが着地、持っていたアタッシュケースの蓋を開ける。

 するとケースの中はまるで宇宙の銀河の様に光が渦巻いている。


「ギャラクシーシーリング!!」


 カーマインがそう唱えるとケース内が目視できない程の発光を始めた。


 ギョギョギョギョワアアアアッ!!


 胴体だけになった怪物の身体がケースに引っ張られる様に引き摺られる。

 怪物も必死にアスファルトに食らいつくが抵抗虚しくケースの方へ吸い寄せられていく。

 そして遂に怪物はケースに接触、到底ケースに入りきらない程の巨体が小さなケースに吸い込まれて消えていく。


「よし、任務完了」


 そう言いながらカーマインがアタッシュケースの蓋を閉める。


「お疲れ様ですカーマイン先輩」


「まったく……ラピス、あなたはすぐに油断するんですからね、また任務報告書に書いておきますからね?」


 それを聞いたラピスがすかさずカーマインの右腕に絡みつき頬を摺り寄せる。


「わわわっ!! そんな殺生な!! お願いしますよカーマインせんぱぁい!!」


「そんな可愛らしく甘えてもダメです!! 何せ私たちは……」


 カーマインの身体が光り輝き身体のシルエットが変化していく。

 どうやら変身が解ける様だ。

 ただ様子がおかしい、シルエットが段々大きくなっていくではないか。


「男なんだからな……」


 光が晴れるとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。

 カーマインだった者は眼鏡が似合うクールなイケメン。

 

「ちょっ!! いきなり元に戻らないでくださいよ赤井先輩!!」

 

 慌ててラピスは赤井に回していた腕を解き、そこから離れた。


「ちぇっ、厳しいな先輩は」


 ラピスも変身を解く。

 するとボサボサ頭の青年が姿を現した。

 危うく男同士が腕を組んでいる状況が出来上がる所であった。


「やれやれ、いつもこの瞬間は萎えますねぇ」


 カナリアも変身を解くとロマンスグレーの初老の男性が現れた。

 顔に刻まれた皺の多さが人生経験の長さを物語っている。


「黄瀬さん、お疲れ様です!! サポートありがとうございました!!」


「青山君もね、まあ次に気を付ければいいさ」


 ボサボサ頭の青山が黄瀬に深々と頭を下げる。

 黄瀬はよいよいと手を振る。


「もう夜も遅い、二人とも直帰でいいよ」


「はい、では失礼します黄瀬課長」


「赤井先輩、どこか飲みに行きましょうよ!!」


「仕方ないな一軒だけだぞ?」


「やったーーー!!」


 ネオン街に消える赤井と青山。

 振り返り帰路につく黄瀬。


 可愛い衣装で魔法などを駆使して怪物と戦う可憐な少女たち……【魔法少女】

 しかし彼らは見かけは魔法少女、中身は成人男性なのである。


 エムエス商事、彼らの勤務先は表向きは何の変哲もない証券会社だが裏では魔物や怪異と戦う魔法少女を出撃させる派遣会社だった。

 その筋では彼らの会社をこう呼ぶ。


【魔法少女カンパニー】……と。


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