5話 分神の武那
「
魔導具のロックグラスをかけ直して、私は姿を現した女子高生さんに訊いたッス。
黒髪をロングストレートにしてセーラー服を着た、いかにもお嬢様なかんじで、上品な雰囲気からもそれが本物だと感じられるッス。
事前に受けた情報と一致するッスが、彼女、目を閉じていて背中には二枚翼の白い
「たしかに。この
大人のお姉さんのような、落ち着いた口調で答えてくれたッスが、これは声ではなく念話。
私の頭に直接、話しかけてきてるッス。
私もできるんでそれに合わせるッス。
「私は
「ああ、どちらも同じだ。我を信仰する者には本尊となり、理宝院家の者は意識と記憶を共有した
「なるほど。一本の木から枝分かれした先に和歌子さんやそのご両親、親戚がいらっしゃるって感じなんッスね。じゃあ、名のっていただいたことですし、武那さんとお呼びしてよろしいッスか?」
「よかろう。それにしても我が意を汲んだうえに、見事な技の繰り出しであった。賞賛に値する」
「はは。恐縮ッス」
まあ、褒められればふつうに嬉しいッス。
「それで、あとはこの場からの脱出だが、どうする?」
「何もなければ、このまま私が
「そうか。この背中のもので我は力を得たようなものだが、退けるまでには至らなんだ。それは描きものしてもしかり。野八よ、できるのか?」
「ええ、できるッス。ただ、同時にやると
「ふむ」
「それで私が考えたのは、この交差空間で兵器団体寄りの場所へ行き、そこで呪紋を解呪。すると翼魔さんたちが和歌子さんに気づいて、こちらへ向かってくるでしょうが、それよりも早く憑いた翼魔さんを排除して、現実世界へ転送させるッス」
「なるほど。それならばいまここで行うよりも良いだろう。胆は、いかに早くこの翼を排除するかだな」
「そうッスね。襲撃されても、和歌子さんの脱出を最優先にして、私はそれから脱出するッス」
「その場所はどのくらいの距離にある?」
「つかんだ情報によれば、ここから八百メートルほどいったところッス。そこにあるビルの中でやれば、翼魔さんも入りづらくて時間が稼げると思うッス」
「八百メートル、か」
「どうしたッスか?」
「和歌子が気を失っているため、我が身体を動かしているわけだが、機敏に動けるわけでもなく、走ることさえままならない。そんな状態で、人型や翼のものの中をいくのは危険度が高い」
「ああ、そういうことッスか。大丈夫。ジュマの力を借りて、私が連れていくッス」
「ジュマ?」
「空間倉庫を扱う、
「おお、それはいいな」
驚いて言う武那さん。
まあ、助ける依頼もあったことから、三人分の個室が用意してあるッス。
「いちおうそんなかんじで考えていたッスが、いいッスか?」
「いいだろう。頼むぞ、野八」
「了解ッス」
と答えたものの、ふだん、名まえで呼ばれているんで、名字で言われるとなんか違和感を覚えるッス。
「そんじゃ早速、入ってもらうッス」
「うむ」
「ジュマ!」
ジュマが言うと和歌子さんの姿が消え、空間倉庫にある個室へ移動したッス。
「どうッスか?」
「十畳ほどの広さがあるな。テレビに机、テーブル、ベッドがある。冷蔵庫もあるな」
「ドアを開ければ、ユニットバスもあるッスよ」
「なんと! これはもはやホテルではないか」
「そんな立派なもんじゃないっスけどね。喜んでもらえたようで良かったッス」
空間倉庫に入れる前に私も部屋の中を見てるッスからね。
だいたいのことは分かっているッス。
「テレビをつければ、私の目を通じて、外の様子も見れるッス。何かあったら言ってほしいッス」
「お、おう。分かった」
「じゃあ、行くッスよ」
気持ちを切り替え、私は外へ出るべく行動を始めたッス。
まだ
「ところで、こちらへは兵器団体さんの機製人さんが来たッスか?」
「ああ、三度ほどやってきた。最初、野八にもやったように
「なるほど。機製人さんたち、魔力とかは感知できても、神様の力は感知できなかったってことッスね」
「そうだ。とはいえ、現在の我ではそれが精一杯。武神でありながら戦うことさえできんのは口惜しい」
「まあ、和歌子さんが、能力に目覚めたんで、いずれは力を得られると思うッス」
「うむ。ようやく会話と最低限の力を得たが、我も鍛錬に励み、自力で和歌子を守れるくらいにならねばな」
それもまず、この交差都市から脱出してのことになるッスけどね。
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