3話 地下道へ

機製人きせいじんさん、けっこういるッスね」


「本当、多すぎ」


「ジュマ」


 いま駅の手前、二百メートルくらいのところにある五階建てビルのかどから、華彩カーヤがツインテの先を出して見てるッスが、それだけで六体は確認できるッス。


 一見すれば規則正しく散歩してるみたいッスが、ああして視覚的にも魔力的にも異常がないか確かめているわけッス。


 見えているだけでそれくらいだし、他のビルの陰に隠れている可能性があるんで、周辺は少なくても二十体はいると考えた方がいいッスね。


 いちおう、いまの私はしゃがみ込んで草むらに隠れている状態でもあるし、見られる能力も消してるんで、そう簡単に私を確認できないと思うッス。


 まあ、ビルが建ち並ぶなかで草がぼうぼうに生えているのってはなかなかない状況ッスけど。


「どうする、彩」


「そうッスね。駅に入って中を探索したいッスが、機製人さんがいるし、空には翼魔よくまさんがいるッス。道路を横断するとき、このままいったら空からは発見されるかもしれないッスね」


「そうね。道路にある草に隠れてなら機製人はなんとかできても、動いているものを翼魔がとらえる可能性があるもんね」


「翼魔さんも十体ぐらい、上空を旋回してるッス。これは機製人さんに探させて、見つけたところを横取りする算段もあるからだと思うッス」


「なるほど。下手にかち合って争うより、その方が効率的だわ。それに空からなら、俯瞰ふかんしてるわけだから全体を見回して、先に確保することもできるわね」


「だから、向こうに見える地下道から駅へ向かうのがいいじゃないッスかね。おそらく機製人さんはいらっしゃるでしょうが、翼魔さんの心配はなくなるッス」


「いいわね。通路はともかく、お店なんかもあるだろうから、隠れていくのは何とかなりそう」


「そんじゃ決まりッス」


「ジュマ!」


「翼魔は私が見張るから、彩は機製人に注意して」


「了解ッス」


 華彩が空の方を担当して、私が地上に専念すれば負担が少なく進められるッス。


 そうやって私はビルの陰に隠れたりしながら、素早く移動。


 地下道への入り口前まで来たッス。


「さて、ここからちょっと問題ッスね」


「たぶん、通路は一本道で隠れるところがないものね。中にいる機製人とバッタリ会うことだって考えられるわ」


「まあ、単独で動いているようなんで、ちょっと横になってもらえばいいッスね。ジュマ」


「ジュマ!」


 声をかけ、空間倉庫から実銃であるエンプレス・エリーのサプレッサー付きを取り出したッス。


 女性向けガンメーカーのものだけあって軽量で使いやすく、9ミリパラの実弾が撃てるッス。


 ただ、今回はそれでなく、高価な呪紋弾じゅもんだんッスけどね。


 これは魔法金属に使用者の魔法を付与させて、着弾時に発動させることができるもの。


 仕様魔法を電撃にして内部から攻撃するッス。


 ただこれは、一時的に無力化させるためのもので、完全にやっつけたりはしないッス。


 コンビニでの機製人さんは加減が分からなかったんで思いっきりやったんッスが、私の目的はあくまで女子高生さんを救出することで、殲滅せんめつではないッスからね。


「さて、こっちはいいッスよ」


「オーケー。いまあの翼魔が真っ直ぐいけばビルの陰に隠れる。三……、二……、一……、今よ!」


 華彩の合図を受けて、私は気の力も使って一気に地下道の入口へ跳び込んだッス。


 階段を越え、踊り場で受け身のように転がってからさらに跳躍して空中を一回転。


 階段と通路の角に着地したッス。


「ジュマ」


 電気が通っているわけじゃないんで、中は真っ暗なんッスが、ジュマが魔導具のロックグラスをかけてくれたんで、良く見えるッス。


「構造を把握するわ」


 そう言うと華彩はツインテを地下道の壁にあてて読み取ったッス。


 そんで、その情報はそのまま私の頭のなかにも流れ込んでくるッスよ。


 線画って言うんでしたっけ、そんなかんじの見取り図みたいなもんッス。


「最短で行くなら左へ真っ直ぐッスね」


「そうね。遠回りする理由はないし、さっさと地下道を抜けた方がいいんじゃない?」


「ッスね」


「ただ、いまので分かるのはあくまで地下道の構造だけで、機製人の位置までは分からない。気をつけるのよ、彩」


「了解ッス」


 方針が決まり、私は姿勢を低くしたまま、進んでいくッス。


 通路は直線で、二十メートルくらい先に駅地下街の入り口があるッス。


 途中に曲がるところはないんで迷うことはないし、機製人さんが現れるとすれば地下街からッスね。


 用心しつつ、いざとなれば先制して倒れてもらうッス。


 引き金はいつでも引けるッスよ。


「あと十メートル」


「ジュマ」


 このまま行ってしまいたいッスが、一つ気がかりなのが左にトイレがあるんッスよね。


 私は平気だし、機製人さんもその必要がないんで利用することはないのでしょうけど、女子高生さんを探すという意味では立ち寄るかも──。


 !?


 て、男子トイレから機製人さんッス!


「やばい、彩!」


「ジュマ!」


 私の目の前に現れた機製人さん、見下ろす目線で完全に私をとらえているッス。


 しかも近すぎてエリーが撃てない。


「くっ……」


 勢いよく立ち上がる動作からつかみかかって機製人さんを投げる。


魔彩マーヤ!」


「うむ」


 私の魔人化と同時に仰向けになった機製人さんの胸とお腹に一発ずつ発砲。


 呪紋弾による電撃が炸裂し、電流が体内を駆け巡ってブルブルと身体をふるわせる機製人さんッスが、電撃が止まると、パタッと動かなくなったッス。


「ひとまず良いな」


 そう言うと魔彩は下がって、再び華彩が現れたッス。


「大丈夫、十五分は動けないわ」


 左のツインテをあてて確認する華彩。

 

ほっ。


驚いたッスが、ひとまず安心ッス。

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