🚱3 幼馴染と友人たち



 ちょっと買い過ぎちゃったかな。


 夕方の混み合う時間を避けて、おやつの時間にスーパーに寄った訳だけど、暑い日中に客入りは悪かったのか、午前中加工した生鮮食品や惣菜が値引きになっていたり、呼び込みのチラシにない売り出し品なんかがたくさんあって、買い込みすぎてしまった。


 折りたたみ式じゃない、伸縮性の高い、絞り染め兵児帯みたいなエコバッグが3色、パンパンに詰まっている。

 でも、これで数日から一週間は家を出なくて済む。


 あんまり暑いので、ついつい買ってしまったアイスクリンが溶けない内に帰らなきゃ。


 🎶


 30年くらい前に流行ったゲームの戦闘シーンの音楽がポケットで鳴り響く。

 う~ん、やりたくなってきた。従兄のお兄ちゃんはちょっとゲーマーで、その影響でやってた古いゲームソフトがお気に入り。ガラケーからスマホに替えた時にお父さんに頼み込んで、一度だけ、ゲーム内BGMや効果音のCDアルバムを購入ダウンロードしてもらったので、目覚ましから着メロ、メールやアプリの通知音まで、みんなそのゲーム音楽のいずれかが鳴るようになっている。


「もしもし?」

萌々香ももか? アンタ、愛唯あおいと何かあったん?〙


 スマホから聴こえてくるのは、先程図書館で置き去りにした三人のひとり愛夏音あかねだった。


「別に、思いつかないけど、なんで?」

美土里みどりに訊いたら、アンタの水嫌い、本当に心療内科もののヤバいくらいなんやって?〙

「⋯⋯ん、まあね。自分でもどうしようもないのよ。親に訊いても、溺れたことがあるとか恐怖体験に覚えはないって。本当に理由は解らないの。それがどーかした?」

〘美土里が席を外した時にさ、愛唯が、アンタを川とか貯水池とかに落としてみようかって、強制治療とか言っても、なんか目とかすわっててマジ怖くってさ、アタシも適当に理由つけて帰ってきちゃった〙

「そう。単なる思いつきと、遊びに行けないストレス解消のジョークなんじゃないの? まさかでしょ」

〘だといいけど。ジョークにしてもブラック過ぎる。心身に異状をきたす人の真剣な悩みを、冗談で怖い目にあわすとか、怖すぎやわ〙


 一応忠告したで? 気ぃつけや


 ジョークにしてもマジにしても、ありがたい密告ではある。

 本当に突き落とすまではやらなかったとしても、水の近くで驚かすくらいはやるかもしれない。気をつけるに越した事はない。  


 スマホをポケットに戻し、改めて考えてみるも、思い当たることはない。


 そもそも愛唯あおいは、高校になってからの知り合いで、まだそんなに彼女のことはよく解ってない。

 美土里は幼稚園からの付き合いで、12年間の半分は同じクラスだ。

 愛夏音あかねは中学からの友達で、高一の時、愛唯あおいと同じクラスだったらしい。

 でも、こんなご時世だから、高一は自宅待機でタブレットでのネット授業ばかりで思い出もお互いにそんなになくて、今年になってやっと学校に通い出した。

 つまり、愛唯あおいは、同じクラスの愛夏音あかねも殆ど面識もないまま、今年からの付き合いなのだ。


 そんなんで、何かある方がおかしい。


 まさか、自分には非もないからと、直接関係のない相手に過失や瑕疵のある部分を見つけてはつついてみたり攻撃したりする、正義ぶった勘違い子ちゃんや、ことあるごとにあげ足をとったり嫌味を言ったり、欠点をネタに脅したり苛烈な苛めをしたりする、いじめっ子サイコちゃんって事はないよね?


 ゾゾッ 背筋を腰元から首にかけて冷やっとしたものが走る。


 あまり愛唯あおいには関わらないようにしよう。


 気を取り直し、アイスクリンが溶けない内に自宅を目指し、大股に歩き出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る