さあ言え! 誘え! いくのだ俺!

 次の日、月曜日。


「や、やぁ唯菜」

「おはよう、蛍雪くん」

「…………や、やぁ唯菜?」

「おはよう?」



 その次の日、火曜日。


「あのー、さ?」

「なに?」

「……今日もいい天気っスねぇー!」

「くもりだよ?」



 さらにその次の日、水曜日。


「ゆ、ゆぃな~?」

「なに?」

「…………きょ、今日も美しいっスねぇーっ!」

「えっ……?」



 またさらにその次の日、木曜日。


「蛍雪くん。そのまま」

「ひょほ!?」

「……はい。取れたよ」

「さ、さんきゅ………………」

「もう動いていいよ?」

「あ、はい」



 またまたさらにその次の日、金曜日。

「蛍雪くん」

「ふょほっ!?」

「お姉ちゃんが先に帰っちゃったの。だから……一緒に、帰る?」

「ぉ俺と!?」

「うん」

「よよよ喜んで!!」


 とうとう金曜日になってしまったが、俺、今こうして唯菜と一緒に帰れている!

 俺はただの黒色学生服装備だが、唯菜は紺色セーラー青色リボン装備に加えて、青いウィンドブレーカーも装備している。さすがに手袋は装備していないが。

 説明しよう! ウィンドブレーカーとは、ウィンドをブレークするアイテムである! なんかパリパリカサカサしている系だけど、中は二重構造みたいな感じになっていて、体操服の上に着ることも多い。名前も刺繍ししゅうで入っている。

 襟のところにチャックでフードも内蔵されている。Food食べ物を忍ばせたら先生に怒られそう。

 ついウィンドブレーカーに熱くなってしまったが、それはともかくだ。

 幼稚園のときは唯菜と愛香とも同じバスで通っていたが、小学生になると通学団が別になったから、一緒に帰ることは激減。中学生になっても、そのまま一緒に帰る機会は少ないままだったが、たま~……にこうやって唯菜から誘ってくれるときはあった。

(…………んまぁその? 本音を言えば? 毎日一緒に帰りたいさ?)

 ちょっとでも長く一緒にいたいさ?

(でもなんでこんなにも唯菜と一緒にいたーい、とかって思うようになってきたんだろう)

 前までは、なんていうか、そりゃ一緒に遊んで楽しかったけど、家に帰ったらテレビ観てげらげら笑ってた。

 ところがどっこい! 最近はテレビ観ててもごはん食べてても、寝る前も唯菜のことを考えてしまっているではないか! で、一度考え始めたらずーっと考えっぱなしだし。

 にも関わらず、いざ一緒に帰るとなったらこの緊張ガッチガチよ!

「一体なんなんだこれはーっ!!」

「えっ?」

「ぁゎぶっ」

 しまった! つい声がっ。

「どうしたの?」

「あ、あいや~…………今日もいい天気っスねぇ~!」

「うん」

 ほんと今日こそはいい天気で、青空の光で輝きを増している唯菜のお顔。

 今日の髪型のそれは、ハーフアップって前に教えてもらった。濃い目のちっちゃいリボンで結ばれている。う~んなんともおしゃれ。長さは肩を越すくらい。これは愛香も同じくらい。

 校門を出るころまでは特にしゃべることのないままだったが、校門を出たころにはちょこっといいお天気トークをして。でもまたしばらくしーん。

 時々車が通る場所を大げさに右左向いて確認ポーズしてみたり、嘉戸崎くんのちょっと外壁見せてよのコーナーと題してそこいらのおうちをちらっちらっ眺めたり、空き地に立てられた謎のちっちゃい棒を眺めてみたり…………しても、唯菜は俺の左横をキープ。

 俺が大きな動作をするたびに、左肩から掛けている学校指定紺色セカバンセカンドバッグがぶらんぶらんしている。唯菜も俺と同じ時間を中学生生活送っているはずなのに、なんか俺のよりもきれいじゃないか? 気のせいか?

(はっ。愛香が、俺としゃべっているときに唯菜は楽しそうだと言っていたな!)

 なにかしゃべらなくてはな! え~とう~んと

「蛍雪くん」

「うょほ!?」

 と思ったら唯菜の不意打ち!

「日曜日にお姉ちゃんが、蛍雪くんと遊んだって、言っていたよ」

「ぬお!? あ~ん~ぬぁ~そ、そうだぜ!?」

 そ、そか、俺別にあの日のこと秘密にぃ~とか言ってねぇもんな。

「お姉ちゃんと、よく遊んでいるの?」

「い、いやいやよく~とかそうでもないさ~?」

 唯菜の表情は……普通? うむ、内容についてはばれていないようだな。

(……いやなんか長くありません?)

 こっちみてまばたきしている唯菜。

(ああ言いたい! 休みの日もめっちゃ遊んでくれと!)

 なぜ昔と同じように誘えぬのだ俺!

(……いやまじ本気で長くありません!?)

 なんだろう。とりあえず俺も見よう。うんすばらしいお顔。

 あれ、唯菜の左手がほっぺた付近に寄せられた。なんか視線きょろきょろ。ぇ、なんだなんだ? 闇の組織の気配でも感じたとか? いや唯菜別にそういうキャラキャラクターでもないような。

 もうちょっと見とこ。

「……なにっ?」

「え、あいや~……唯菜元気度ちぇっく?」

 お、ちょっと笑った。またこっち見てる。

(ってうおっ)

 ほんの一瞬、俺の左手小指が唯菜の右手にかすった!

 元気度ちぇっくの割には脈拍測れませんでした。

 ここでいったん前後を見てみよう。うむ。今のところ他の学生はいないようだ。

 団地に入ったから、それぞれ学生は散っていってるだろうし。さっき小学生三人が自転車で通っていったとか、玄関先でのおばちゃん井戸端会議とかはあったが。とりあえずもっかい唯菜見とこ。

「……前見て歩かないと、危ないよ?」

「あ、ああまあその、つい?」

 ついってなんだついって。でもつい見ちゃうんだもん!

(ってうおひょ?!)

 顔ばっか見てたら! なんと唯菜が俺の左手をにぎぎぎぎ

「ゆ、唯菜?!」

 唯菜の左手はやっぱり左ほっぺた行き急行だった。

「……つい……」

 そうかーついかーなら仕方ないなーで済ませていいのかこれ!?

「つ、ついだもんな! きっと左の溝に落ちないための作戦だよな!」

 ちっちぇーなー唯菜の手。いっぱい遊んできたっつっても、さすがに手をつなぐとかはなかったぞ。運動会でちょっとくらいならあったかもしれない……か?

(てかてかてか! もう俺心の余裕ZEROなんスけどぉ~?!)

 唯菜はちゃんと前を向いて歩いている。左手はほっぺただが。

「ほ、蛍雪くん」

「ひょ!?」

 このタイミングで改めて唯菜が呼んできた。

「……日曜日も、お姉ちゃんと……手、つないだ?」

「ねぇよっ! 姉ちゃんだけに」

 おし、唯菜またちょっと笑った。

 しかしなんでまたそんなことをっ……と思ったけど、今の俺の全神経左手に集中ちぅ。

「次の日曜日も、お姉ちゃんと……遊ぶの?」

「だっ、べ、別にそんな毎週遊んでるとかじゃっ」

 一体唯菜の中では俺どんだけ愛香と遊んでる設定になってんだっ!

「お姉ちゃん、蛍雪くんとおしゃべりしていたら、楽しそうにしているから、いっぱい遊んでいるのかも……って、思った」

(そのセリフどっかで聞いたぞ!?)

まじ本気で遊びまくってたら、双子の妹である唯菜にもっと情報いってるっしょ」

 そこでちょこっとだけ笑う唯菜。いい。

「蛍雪くんって……すごいなって、思うの」

 お?

「まぁ当然の結果だが、一応詳しく」

 また笑った唯菜。

「私とお姉ちゃんが並んでいても、すぐ見分けてくれる」

「そりゃ幼稚園のときから遊んでたら、わかるっしょ?」

 確かに似ているさ? 100m離れた先からとかはまず無理っぽそうだけど。

「おしゃべりするときに、ネームプレートを見る人がいっぱいなの。でも蛍雪くんは、ネームプレート見ないで、まっすぐ見ておしゃべりしてくれる」

「さっき前向いて歩けと言われたばっかなんスけど」

 唯菜のお笑いハードルが低く設定されてるの超助かるわぁ~。

「電話とかインターホンの声だけですぐわかるのも、蛍雪くんだけだよ」

「そりゃ幼稚園のときから以下略以下省略

 ちっちゃいときはたまに外すときがあったが、最近はばっちり連勝中だぜ!

「……なんだか、うれしいな」

「お、おぅ」

 そんな改まってうれしいとか言われるとてれてれ。

「……じゃあ……」

 おっと、唯菜が短くそう言った。ここの十字路で別々になるとこか。

(だがっ!)

「せ、せっかくだしな! 唯菜ん家まで延長戦だ!」

 俺は本来右に曲がるところを、左に曲がった。唯菜の手をちょっと引っ張りながら。

 唯菜はちょっとだけ出遅れたが、すぐにまた俺の左隣ポジションに戻ってきた。


 と、延長戦を開始したものの、特にしゃべることなく皆月家へ向かってちびちび。

 しゃべってるときが楽しそうとか言われても、今いっぱいいっぱいなんスよぉ!

 左に曲がってから、小学生と遭遇してはこっち見られたけど、俺は気にせず手を握り続けた。唯菜も特に離す感じじゃなかった。


 結局そのまま皆月家前へ到着。オレンジ色のレンガっぽい塀が目印。

 唯菜がこっちを見ている。あ、もうまっすぐ見て歩けは解除っスよね。よし俺も唯菜見よう。じーっ。

「……着いたよ?」

「お、おぅっ」

 さてこの左手どうしたものか。いや普通この状況じゃ離すしかないんだろうけど。

 唯菜も、俺を見ていたが、視線を落として手を見始めた。と思ったら上目遣いでまたこっち見る。

「……おうちの中に、入りたいの?」

「あいや、べ」

(はっ!!)

 ちょっと待て! ひょっとしてこれは……愛香が想定した内容じゃ!?

 日曜日ではないが、唯菜と最終決戦を行うに適した場所なんだよな、皆月家って!

 唯菜がこう言ってきているっていうことは、しゃべる時間くらいならありそう、だよ……な?

「……んぁ~ちょっと寄ってこうかな!?」

「うん」

 やっぱこのちょこっと笑ってる唯菜最強。

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