短編60話  数ある双子の一人のことがっ

帝王Tsuyamasama

短編60話  数ある双子の一人のことがっ

 今日は日曜日。午後二時過ぎ。

(頼む~頼むぜ~っ)

 俺は今、受話器からトゥルルルル呼び出し音を聞きつつも祈ってるところだ。受話器を持つ左手にも力が込もりまくり。

 今どき珍しい黒電話なんだぜ! なんでもこれは、父さんと母さんが結婚し

『はい。皆月みなつきでございま』

「おお愛香あいか! 俺だ俺俺俺ったら俺俺俺」

『ほ、蛍雪ほとゆきくん? どうしたの?』

 うっしさすが中学二年生嘉戸崎かとざき 蛍雪ほとゆき! この大事な状況で皆月みなつき 愛香あいかを引き当てたぜ!!

「愛香、今すぐ会いたい!」

『え、ええっ?』

 固形化した疑問符が受話器から飛び出してきそうなくらいの愛香の声。

「頼む! こんな話聴いてもらえるのは愛香しかいねぇ! 解決してくれんのも愛香しかいねぇ! 頼むっ!」

『ちょ、ちょっと蛍雪くん、突然すぎてよくわからないよっ。相談したいの、かな? ちゃんと聴くから、落ち着いてっ?』

「落ち着かねぇから電話してんだよぉーっ!」

『ええっ……?』

 そうなのだ! まさに愛香に相談するために電話をしたのである!

「頼む! 今すぐ会ってくれ! ぁ用事ある?」

 さすがに用事すっぽかしてまで会ってくれとは言えぬ。

『ううん、用事はないよ。そんなに急いでいるの?』

「超特急で頼む!」

 今俺は急いでいる! いや急がされている? いやいや止まることがないっていう感じだ!

『どこで相談を聴いたらいいのかな? 公園とか、私の家とか?』

 ちょっと考えよう。その二ヶ所はだめだ!

「公園も皆月エンカウント遭遇するの恐れがある。俺んで頼む!」

『わかった。すぐに行くから待っててね』

「超特急で頼む!! あでも全力疾走はしなくていいからな」

 へろへろで到着されても話にならんからな!

『うん。自転車で行くね』

「頼んだぜ!」

 受話器を置いた。ちーんがリビングに鳴り響いた。

「ということで母さん! 愛香来るから!」

 と言いながら台所の方へ振り返った。

「はいはい。急いでいたみたいだけど、どうしたの?」

 母さんは台所でなにかしながら応えた。料理かなんか? の割には特になにもにおってこないし、まな板とんとん音とかも聞こえない。てかさっき昼ごはん食べたけど。

トップシークレット最高機密だ!」

「あらあら。お菓子を用意するわね」

「俺は急…………よろしく」

 腹が減っては藺草いぐさは縫えぬ!

(おっとバトルフィールド相談場所を整えておかねばっ)

 そんなに散らかってるわけでもないと思うけど、二階に戻って部屋の準備をすることにした。



 軽く部屋の掃除を済ませたら、インターホンが鳴った。電話は黒電話だが、インターホンは普通のピンポーン音。

 俺は再び一階へ下りた。華麗なるステップで、急いで。

 リビングにはインターホンの通話装置もあるんだが、そんなのお構いなしで俺は玄関の白いドアを開けた。足ちべたい。

「愛香!」

 ドアを開けた瞬間、水色に白くて丸い模様がぽんぽん描かれているもこもこ系上装備・白くて長いスカート・ベージュのちっちゃいカバン装備の愛香を発見した。

 足元は白い靴下に、白に少しピンクライン入っているスニーカー。

 今は十一月に入ったところ。太陽もお元気で比較的ぬくため。愛香の今日の髪はひとつにくくられてある。

「こんにちは、蛍雪くん」

 今日も愛香は元気そうだ。てか元気でなければ困るがな!

「あ、自転車入れっか」

「うん」

 薄ピンクのスタンダードタイプママチャリが黒い門扉の向こうに見えた。

 ちなみに俺の装備は、黒い長そでシャツに普通の青いジーパンに黒色の靴下。このシャツはちょっと厚めで胸ポケット付き。



 母さんともおじゃましまーすはいどーぞーの儀式をしてもらい、早速二階に。


 昔から使っている、ちっちゃい折り畳み式の水色テーブル飛行機の柄まみれを召喚! そのすぐ横に白いクッションをスタンバイ。このクッションは、もしかしたら俺よりも皆月姉妹の方が使っているかもしれない。

 ああそうなのだ。愛香には妹がいてな……

「蛍雪くん、急いでいたみたいだけど、どうしたの?」

 愛香がクッションに座りながら、ベージュカバンを右横に置いた。俺は向かい……いや愛香の左隣に、カーペット直で右ひざ立てて座った。

「愛香」

「なにっ?」

 勢いでやや近い位置に座ってしまったがっ。

「俺。前々からなんとな~く『これってそういうことなんか!?』って思ってたんだけどさ……最近特によく思うようになってさ……」

 愛香がしっかりまばたきしている。

「俺たちって、幼稚園のときからの仲だろ? 俺ん家でも皆月家でもいっぱい遊んできたし、この楽しい感じが、ずっと当たり前だと思っていたんだ」

 なぜか俺は、いろんな言葉が次々に出てきている。それを愛香はまっすぐ聴いてくれているようだ。

「でも最近……特に文化祭があったときくらいから……なんか……なんかさ! いやもしかしたらその前からもあったかもしんないけどさ!」

 ここで俺は立てていた右ひざをぺしっとたたき、

「俺! ひょっとしたらひょっとし」

「お菓子持ってきたわよ~」

(どんがらがっしゃ~ん!)

 俺は一度盛大にこけてから、ドアのところまで行った。開けるともちろん母さん。

「レモネード作ったわよ。愛香ちゃんゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

 俺は母さんから丸いおぼんに乗せられたお菓子とレモネードたち補給物資を受け取った。

 あったか~い湯気が出ているレモネード入り白いマグカップふたつ・一口チョコレートいくつか・個包装クッキーサンドがむっつ。このクッキーサンドいろんな味のがあるんだぜ。

 両手で受け取ったため、母さんがドアを閉めて、足音が遠のいていった。ということでちっちゃいテーブルに置いてっと。

「てをあわせましょう~」

 ぺったん。

「いーたーだーきーまーすっ」

「いただきます」

 早速レモネード。ちょっとすっぺ。でもうま。あま。薄切りレモンが浮かんでいる。

「おいしい~」

 愛香も左手で取っ手を持ちつつ右手を添えながらのおいしー。

 俺はマグカップを置いて。

「コホン。愛香!」

 愛香はマグカップを持ったままテーブルの上に手を下ろした。

「そういうことなんだ!」

「えっ? どういうこと?」

 おっと俺のセリフが足りていなかったようだ!

「俺! 好きかもしれないんだ!」

「え、えっ……?」

 愛香は右手をマグカップから離し、口元付近にまで持っていった。

「……唯菜ゆいなのことが!!」

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