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 御堂へと目を見張っていたヒズミより先に、その足元へ零れた無数の血痕にミカヅキが気付き、悲鳴めいた声を上げると必死にしがみ付いて来た。


 見るとその血痕は御堂の中へと続いており、月明かりでその数段の階段に濡れた光が反射し、それが何とも言えぬザワリとした胸騒ぎを覚えさせた。


 その擦れ掠れた血痕、中へと引き摺り込まれたらしき形跡、御堂の中から感じられるその禍々しい気配──。


「……ミカヅキ、下がっていなさい───」


 押し殺した声で低く呟くとミカヅキの体を軽く押して、その場から下がらせる。ヒズミは短刀の柄(え)をゆっくりと握り締め、嫌な汗を感じるその手を御堂の扉へそっと掛けた。


 ギィイ…と古びた軋みを上げつつ扉が開かれ、僅かに堂内へと月明かりが差し込む。血に濡れた床、投げ出された草鞋(わらじ)を履いた小さめの足──。


(─女、か…)


その暗闇の向こうでは到底、人のものではない炯々(けいけい)と輝く二つの瞳。


《フゥーッ…、フゥーッ……》


獣独特の荒い息遣いと低い威嚇(いかく)の唸り声。それら二つが共に堂内へと響き、その狭い空間一帯を籠もった殺気で満たしている。


 床を濡らす鮮血、立ち込める血の匂い──。ヒズミは柄を握る手へと力を込めた。



 

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