11月4日に死んだ亡霊

イル

11月4日に死んだ亡霊   2018年作

 大歓声に包まれて試合は終わった。本拠地、福岡ヤフオクドームに詰めかけた多くのファンの前で、ソフトバンクホークスは見事、二年連続の日本一を成し遂げた。

 チームが、ファンが、全員が歓喜に沸く姿を、敗れたベイスターズはどんな気持ちで見ていたのだろう。

 この対決が決まったとき、多くの野球ファンは思った。

「今年もソフトバンクか」

 それも仕方ないと言えてしまうほど、圧倒的にソフトバンクは強かった。そしてまた圧倒的にベイスターズは弱かった。万年最下位、弱小球団の代名詞として知られるほどに。


 私がベイスターズのファンになったのは、まだ保育園に通っていた頃だ。別に野球少年というわけではなく、ウルトラマンが好きな普通の子供だった。きっかけも、ウルトラマンの映画を観に行ったとき、配られた団扇の裏側に、たまたまベイスターズのマスコットキャラクターが描かれていたから、というある意味子供らしい安直なものだった。

 ウルトラマンからも卒業し、野球などのスポーツに興味を持ち始めたのは小学校四年生くらいだったと思う。この頃は丁度ベイスターズが、弱小球団の地位を確立してボッコボコに負けまくっていた時代だ。スポーツニュースを見て、今日は勝ったと知ると逆に驚くくらいだった。クラスの阪神ファンと巨人ファンに、しょっちゅう煽られていたのもよく覚えている。仲のいい友達からは、他のチームを応援したら? と鞍替えを勧められることもあった。

 それでも私はファンを辞める気はなかった。きっかけはどうあれ、最初にファンになった縁を大切にした部分も大きかったが、なにより私はベイスターズの野球が好きだった。なんであんなに打ってるのに負けるの? と言われるくらい派手に打ちまくって、また更に派手に打たれまくるチームだったが、その豪快さが好きだったし、たまに見せる、とんでもない大逆転勝利にたまらなく魅せられた。

 しかし私はもう、あの頃のような気持ちで試合を見ることはない。

 去年の、日本一を決めるあの大一番で、最後まで絶対王者のソフトバンクに喰らいついたベイスターズは、もうあの頃の弱小球団ではなかったからだ。

 私は正直、試合前から諦めていた。四戦先取だから全敗しなければ御の字だ、くらいに思っていたし、確かに結局は日本一になれなかった。しかしその戦いぶりは全プロ野球ファンが思っていた弱小球団のそれではなく、あと少しで日本一になれた強いチームの姿だった。

だから、もう勝てることが奇跡のように思うことはやめる。十試合負けても、一試合面白く勝てればそれでいい、みたいな優勝することを最初から諦めた応援はもうしない。

 負けたけど嬉しかった。ここまで強くなれたんだ、って心から実感できたから。

 みんなよくここまで頑張った、って心の底から拍手を送った。

 そして悔しかった。

 あと少しで勝てたから。

 日本一になれたから。

 下剋上して、絶対王者を倒して、もう弱くないって証明したかったから。

 どうしようもなく悔しかったのに、悔し涙を流せることが何よりも嬉しかった。

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