innocence regret
縁田 華
プロローグ「私の独白」
時々、私は「何処にいるのだろう」と考えてしまうことがある。私は此処にいてはいけないのだ、と考えてしまうのだ。
とても信じられないようなことが目の前で起きて、私は一番の親友を失った。あの時止めていれば、と私は今でも後悔している。
彼女は、恋雪は、あっちの世界へ行ってしまったのだ。一番の親友を失ったことは大きな傷となり、私の中の時も止まってしまった。家庭を持ち、子どもを産んだ今でも私の中にはあの時の恋雪の顔がはっきりと浮かび上がる。
「どうして私のこと解ってくれなかったの?」
「先生は私のこと解ってくれたのに」
夢の中で何度も責められた。私は悪くないなんて言えない。言える訳がない。恋雪ほど優しい子を何故止められなかったのだろうか。思い出す度に胸が締め付けられ、ついには泣き崩れる。
夫とは見合いで結婚した。その頃にはもう、全ての景色が灰色に見えていた。何もかもがどうでも良くよくなっていって、私は流されて生きるだけになった。私以外にもう一人、親友と呼べる佳子も、恋雪が居なくなってからはおかしくなっていった。私よりも遅く、大学生の時に許嫁を毒殺し、それ以降は何人もの男を愛人にしながら猟奇的な方法で殺すということを繰り返しているという。男達は皆、『先生』と同じ金持ちの外国人だった。まるで、行き場のない怒りを彼らに向けているかのように。
恋雪の家族は、恋雪が居なくなってから少し後に行方をくらました。何故なのかは分からないらしい。彼らは恋雪を冷遇し、ついには圧をかけてまで私の母校へと追いやった張本人だった。恋雪は夏休みや冬休みが来ると、『先生』の下に身を寄せていたが、居場所がないなら仕方ないだろう。寧ろ、あの家族が何処かで報いを受けているならそれでいい。
私は高等部に上がってすぐに、精神病院に入れられるようになった。恋雪を想う夜が続き、寮の机には恋雪に宛てて書いた「届かない手紙」が沢山入っていた。泣いて暮らす夜が続き、私はやつれていく。妄想であってもいい、私は恋雪と一緒にいたいだけだったのに。
家族の声も、道行く人の声も雑音にしか聞こえない。その場凌ぎの愛なんて要らない、私には恋雪しかいなかったのに。一緒にいて満たされた、ただ一人の親友は恋雪だけだったのに。
本当なら、喧嘩するべきだったのだ。恋雪を奪い返す為に。勝ち目が無くても良かった。恋雪を取り戻して、楽しい学園生活を送れるならば。
子ども達が巣立った今でも、夢に出てくるたった一人の親友は、私を生涯にわたって苦しめるのだろうか。
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