第20話 撲殺天使Mk-Ⅱとかあんまりなネーミングセンスだと思う件について


「うらぁっ!!!」


 宙を舞う二束の髪、鈍い音と共に鉄槌バールが腐食した頭蓋を貫いた。

 彼女、鉄槌の戦い方は上手かった。一体のゾンビを倒す時、キチンと他を巻き込んでいる。ゾンビ達がドミノ倒しのように倒れていくのは見ていて中々に爽快だ。

 この戦い方であればゾンビ達はろくに近づけないし、雑に見えて実にクレーバーで手堅い運びをしていると言える。


「アッーハッハーーー! どんどん来いやーーーーー!!!」


 女子の尊厳なんてなんのその。そこには鈍器バールを満面の笑顔で振り回すヤベェ奴がいた。



「絵面えっぐ。夢に出たら泣く子も黙るどこか気絶するレベル」

「へっ! 軽い蹴り一つでアイツらをどうにか出来る奴に言われたくねーよ!」

「子供とかチートみたいなの好きだからむしろ目を輝かせるでしょっ!」


 鉄槌は不満顔だが子供なんてそんなものだ。仮面ラ◯ダーとかウ◯トラマンとか超チートですし。

 伝統的英雄達はさておき、軽口を叩きながらも僕は蹴り、鉄槌は鈍器バールで次々に沈めていく。


「これでラストぉ!!」


 気が付けば立ちはだかるゾンビは目の前にいる奴のみ。

 ツインテールの少女により振り切られた鈍器バールは、最後のゾンビをいともたやすく屠った。



 ◆




「うーん、ここはハズレっぽいなぁ」

「だな。全然、人の気配がないよな」


 ゾンビを倒しホームセンターに入るが、内部はもぬけの殻と言える状況だった。他の場所と同じく争った形跡や血痕等は見受けられたが、それだけだ。

 可能性は低そうだが、何か手がかりがあるかもしれないので、一先ず一通り回ることにした。


「うおおお!!!! 新しい相棒が沢山ある!!!!」


 少し回った所で、鉄槌はとある物を見つけて子供のように瞳を輝かせた。彼女の視線の先にはズラリと並んだバールが。大中小様々な種類があり、こうも間近に見ると何とも言えない威圧感がある。


「お、見ろよムンク! 滅茶苦茶でけー鈍器バールがあるぞ!!」

「えぇ……そんなに興奮することかなぁ」


 まぁそうは言いつつも、興奮するのは分からないでもない。鉄槌が見つけたバールは重厚かつ全長一・五メートルは越える代物だった。あれだ、子供が巨大なカブトムシを見つけた感覚に近い。


「へへっ、中々に良い使い心地だぜ。よし! 今日からお前は撲殺天使Mk-IIだ!!」

「何それ、超物騒なんですけど」


 何だそのネーミングセンスは。今日日、小学生でもそんなのつけねえぞ。


「なんか文句あるのか?」

「イエ、ナイデス。ナニモ」


 ジロリと睨まれた。僕はオウムのように頷くほかない。だって怖いんですもの。



「しっかし、改めてお前半端ないよなー。正直、話を聞いた時は頭がアレなのかなーとか思ったけどさ」

「おい」

「いやいや、ごめんごめん。でも本当に助かるよ、戦う系の汚れ仕事はアタシがやってたしな」


 鉄槌は舌をペロリと出して一応謝罪した。何だそれ謝ってるうちに入らないでしょ。でもクソ可愛いな、おい。

 しかしこの言葉である程度、彼女の立ち位置を把握した。


「ま、流石に他の連中には厳しいだろうしね」

「なんだよちょっとは否定しろよ。アタシが男勝りとかでも言いたいのかよー」

「き、肝が座ってるって言ってるんだよ。中々出来ることじゃないし、もっと胸を張りなよ」


 まぁ張る胸は無さそうだけど。


「なんか不穏なこと考えてないか……?」

「しょ、しょんなことないですぅ……」


 ム ン ク は リ ア 充 の 威 圧 を く ら っ た 。う ま く 喋 れ な い!

 とりあえず僕は苦し紛れにも程があるが、ひたすら苦笑いに徹する事にした。ちなみに余計どころか巨大なお世話かもしれないけど、ちっぱいにも需要はあると思うな。



 ◆



「んー大体回りきったし、引き際かな?」


 更に一時間程度、ショッピングモール内を回ったが、幼馴染の情報は皆無だった。鉄槌は新しい武器を《バール》を手に入れたし、僕は僕でバリケードとかに使えそうな資材をしこたもインベントリに詰め込んだ。ここにこれ以上いてもさしてメリットも無いだろう。


「あぁ、そうす……」


 カランッ

 返事の代わりに金属が地面にぶつかる音が響いた。僕ら以外誰もいないせいか、やたら大きく聞こえた。バールが落ちた音だ。

 鉄槌の方に視線を向けると彼女は呆然と、まるで幽霊を見たかのように立ち尽くしていた。


「鉄槌? 鉄槌ってばどうしたのさ?」


 僕の呼びかけに返事はない。

 そして彼女は小さく唇を動かして、こう呟いた。


「先輩……?」

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