第4話 バイクとはとても格好いいと思う件について


「そぉおおおい!!!」


 ズパアアアアンッ!!!!!


 大袈裟に振り下ろされた大剣は、これまた大袈裟な効果音と何故か発生した衝撃波でゾンビ達のことごとくを討ち滅ぼした。


「フッ、またつまらぬものを斬ってしまったぜ」


 何となく格好つけたけど、いや衝撃波出るとかおかしいだろ。僕は大剣を振り下ろしただけだぞ。それがなんでこうなるんだよ。便利だし格好いいからいいけどさ。


「それにしても中々に倫理観が狂い始めてる気がするなぁ」


 目の前には事切れたゾンビ達が道路を埋め尽くしていた。この光景に微塵も動じる事はなく、むしろレベルが上がって嬉しいまである。

 ここまで来ると自分の倫理観を疑いたくもなるね。自分で言うのもいささか尺ではあるが、僕はついこの前まで単なる引きこもりの陰キャだ。そんな人間がいくらそれをする能力があるからって、なんの躊躇もなく元人間を殺せるだろうか。既に死んだ存在と言えばそこまでだが、いささか違和感は残る。思い当たるとすれば、


「実は頭の中とか少し弄られていたりして」


 僕だけRPGっぽい謎の力を得ている訳だし、この可能性は大いにあり得る。

 例えばこの能力がゾンビと戦うために与えられたものだとしら、戦闘への忌避等の感情は邪魔でしかない。

 でもまさかなぁ。本当にそうだったら怖いしこの考えはここで止めることにしよう。仮にそうだとしてもやらなければ死あるのみ。そんなことで悩んでいてもしょうがないし、死ぬよりマシだ。


 しばらく当てもなく彷徨っていると商店街に出会した。


「本当に誰もいないんだよなぁ」


 商店街。僕も引きこもる前は何度も足を運んだ記憶が有る。

 眼前に広がる光景は通常であればそれなりに人で溢れているはずだった。それが今やゾンビ以外子供一人すらいやしない。これじゃ一人で廃墟を探索しているようなものだ。まぁ、ここを捨てて避難したかゾンビになったかの二択なのだから、この言い方はあながち間違っていないか。


「おや、あれは……」


 しばらく、このシャッター街レベルに過疎した商店街をぶらついていると漆黒の輝きに目が惹かれた。

 お、バイクだ。



 ◆


「おー、中はこうなってんのね」


 バイクを見つけた後、気が赴くままにバイク店に突入。某タイムスリップ系ヤンキー漫画の影響で憧れていたのだ。若干ね、若干。

 普通であれば隠キャにこの手の店は入れないのだが、世界は滅んでいると変わらない状況なので関係なし。こういう面では案外こういう世界もいいのかもしれない。


 中にはこれでもかと光沢を放つピカピカに磨かれたバイク達がずらりと並んでいた。まぶしっ。

 この輝きは並大抵の物ではない。素人目から見ても相当な時間をかけて整備しているのが分かるし。店主のバイク愛が伺えますね。


「アぁaアァ……!」


 テンション高めに店内をうろちょろしていると奥からお馴染みのゾンビさんが出て来た。


「なん…だと…」


 一瞬目の前の光景を疑った。ゾンビなんてものに今更驚くなんて事はないが、目の前にいるやつは例外だ。

 だって、すげー巨乳の姉ちゃんなんですもの。恐らくはここの店員で、Tシャツに油汚れに塗れたツナギを身につけた整備士スタイル。

 ただ一つ言えることがあるとすればつなぎ巨乳は素晴らしいということだ。何あれ尊いんですけど。生前の姿を拝めなかった事を大変悲しく思う。


「まぁ、その悪いけど介錯代って事で一台貰ってくね」


 ツナギ巨乳の損失は人類全体の損失に匹敵するが、既に手遅れなので致し方ない。一思いに斬り伏せた。

 なお、おっぱいはゾンビなのにとても柔らかめでした。



 ◆


「よし! 君に決めた!!」


 店頭に置かれている黒光りする大型バイクにビシリと指を差す。人生で一度は言ってみたいセリフでした。

 機種名はハーレーだったか。僕でも聞いたことがある有名なバイクだ。細かい種類は良くわからないが漆黒の輝きが決め手でした。


 免許は当然ないがなんのその。この世界はもはや法を取り締まる警察はおらず、徘徊しているのはゾンビばかりだ。

 まぁ、ぶっちゃけ燃料の補給やメンテナンスの手間を考えると、今の僕からしたら走った方がいいのだが、そこはロマンという奴だ。金銭的にも陰キャ的にも普通に暮らしていたら手を出さなかった代物。テンションも珍しく爆上がり的なやつ。


「うっひょー! なんかすっげーかっこいいーー!! 待っていたぜこの瞬間ときをよォ!!」


 免許どころかお金もないが、こんな世界ではモーマンタイ。盗んだバイクで走り出したところで何も言われないのだ。


「ふむふむ、これがエンジンでこのアクセルを回せばいいわけね?」


 善は急げと言わんばかりに、早速バイクへとまたがりハンドルに手をかける。流石に高価な物だけあって、指先から伝わる重厚感が何とも言えぬ感覚をもたらす。


「視界は良好。前方に障害物なしと」


 ここにくる道すがらゾンビを排除したので、無駄な横槍も入らないだろう。こういう時に余計な事はいらない。こういう時はね、誰にも邪魔されず、自由で何というか救われてなきゃダメなんすよ。

 余計な御託はもううい。いざ、自由の旅路へと!

 僕は期待を込めてアクセルに目一杯の力を込めた!!


 


 普通にこけました。



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